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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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観察は面白いです

僕は、内心とても心配だった。

と言うのも、亜修羅が突然、「漫画が光りだした!」と言い出したことに対してだ。


今まではそんなことなかった。


むしろ、そう言うのは僕のポジションだったはずなのに、

急にそんな不思議なことを言い始めたんだ。


華月さんがライオンを外に出したって言うことは、

竜君達の件もあるから本当なんだろうなってわかるけど、

漫画が光るってことは、

嘘じゃないにしても、見間違いなんじゃないかって思ってしまう。


でも、そう言ったら怒るんだよね・・・・ほんとに、どうしちゃったんだろう?


チラッと亜修羅の方を伺ってみるけれど、その様子に変わったところはない。

やっぱり、真剣に言ってるのかな?


あっ、それに、変なところって言ったら、前から妙に勘が働いてたよね。

今回だって、なんでかわからないけど、あの紙束が漫画だって妙に自信があって、

確かめてみたらやっぱり漫画だった。


今回だって凄いけど、もっと凄いことが沢山ある。

例えば、天気予報では雨が降るなんて言ってないのに、

下校時間になったら急に雨が降って来て、僕達が濡れながら校門で待ってたりすると、

自分だけ傘をちゃんと持って来てたり。


しかもそれ、折りたたみ傘じゃないんだよ?

まるで、雨が降るってわかってたように持って来ててさ、

「どうしてわかったの?」って言ったら、「勘だ」って。


後はね、僕が出かけようとした時、急に「出かけるな」って言い出したんだ。

「どうして?」って聞いたら、「電車が事故を起こすから」って。


僕は、電車で出かけることなんて言ってないのに

そう止められたからびっくりしちゃったよ。


でも、とっても大事な用事だったから、無理やりにでも行こうとしたんだけど、

「絶対にダメだ」って止められて、

一瞬の隙も見せてくれなかったから、仕方なく断念したんだよね。


そしたらさ、その少し後に電車が事故を起こしたって言うニュースが流れたから、

それはもうびっくりしたよ。


あの時亜修羅に止められなかったら、丁度乗り合わせたところだったからね。


これ、立派な未来予知だよね?

びっくりして聞いてみたら、やっぱり、「勘だ」って返された。


動物って、どこかしら勘が働くことってあるけど、

未来予知が出来るほど、勘が働くことなんてそうはない。


・・・・もしかして、亜修羅って普通じゃないのかな?


ジーッと見ていると、僕の視線に気がついたのか、振り返った。


「ねぇ、亜修羅って普通じゃないの?」

「なんでだよ」

「だって、妙に勘が鋭かったり、直感が働いたりするじゃん」

「そう言う種族だからだろ」


「でもさ、もはや勘って言うか、未来予知のレベルに達してると思うんだけど?」

「そんな訳ないだろ」

「でもさ・・・・」

「ほら、あいつらが入ってきたぞ」


そう言って、亜修羅は僕の言葉を強制的に終了させる。


確かに、亜修羅の言ってることは正しい。

頭脳種族は、もともと頭の回転が速かったり、勘が鋭い。

でも、未来予知が出来るほどのものなのかな?

族長だから、それぐらい勘が働いたりするのかな?


よく考えてみれば不思議なことだらけだ。

今までは気にしなかったことばかりだけど、亜修羅って意外と不思議な人かも。


普通なら、5個ぐらい材料がないと組み立てられない真実を、

2、3個の材料で組み立てちゃったりとかするし・・・・。


さっきのことだってそうだ。

竜司先輩って人が尾神竜司さんだって確証はどこにもないはずなのに、

あんなに断言してたんだ。


今までの経験から言うと、

あんなに無理やりで飛び飛びな結論でも当ってることがよくあるんだよ。


いつも、亜修羅のことはあまり見てないけど、今回は観察してみようかな?


普段意識してない時でも不思議なことが沢山あるんだから、

意識してみたら、もっと不思議なことがあるかもしれない。


僕は、女の子達の言葉を黙って聞いている亜修羅のことを観察するべく、

少しだけ向きを調整する。

明らかに見てたら直ぐにバレちゃうから、横目で見ないとね。


亜修羅は、ジーッとどこか一点を見つめて動かない。

時々小さなため息をつくから、きっと、

「めんどくさい」とか、「早く帰りたい」とか考えてるんだろうなと推測出来る。


しばらくの間、三人の会話は続く。


最初のうちは、市川さんと園田さんの間に壁があったように見えたけど、

今ではその壁も壊れて、とても仲がよさそうに見える。

僕が、8ヶ月かけて地道に仲良くなった壁を軽々と越えて行ってしまったんだ。

少し切ない気分になる。


丁度その時、三人の会話が少しだけ途切れた。


亜修羅はそのタイミングを見計らっていたみたいで、

会話が途切れた途端、華月さんに話しかけた。


「お前、園田の漫画を手伝っているのか?」

「え?」

「さっき、あそこにある紙束の一枚が落ちて来たからわかったんだ」


「そうですよ~。私、手際が悪いから、いつも華月さんに手伝ってもらってるんです!」

「一巻の表紙は?」


「それも、華月さんに手伝ってもらいました!ね?」

「うん。ちょっとだけ」

「そうか。わかった」


そこで言葉を切ると、再びしゃべらなくなる。

僕は、さっきの言葉について不思議に思うことがあった。


それは、どうして園田さんの描いた漫画を

華月さんが手伝ったってわかったんだろう?ってこと。


そもそも、どうして園田さんが描いた漫画だってわかったんだろう?


僕は、園田さんがたまに教室で描いている絵を見たことがあるからわかるとして、

亜修羅は見てないはずだから、わからないと思うんだけどな。


それに、華月さんの絵だって知らないはずだ。どうしてわかったんだろう・・・・。


「ねえ、どうして園田さんが描いた漫画だってわかったの?」

「園田の部屋にあるんだから、そうに決まってるだろ」

「でもさ、他の人のかもしれないよね?」


「それはない」


「どうしてそう言いきれるの?」

「勘だ」

「・・・・」


やっぱり変だよ!

確かに、亜修羅の言い分もわかる。


園田さんの部屋にある漫画なんだから、園田さんの描いた漫画なんじゃないかって。

それぐらいなら、勘が鋭くない僕でも推測出来る。


でもさ、「他の人のかもしれないよね?」って問いに、

自信満々で「それはない」なんて答えられるはずがない!

少なくとも、僕には出来ない!!


亜修羅のことだから確証があるんだろうけど、それが勘なんだからね・・・・。


「あっ、そう言えば、あの花束の真相、わかりましたよ!」

「・・・・花束?」

「ほら、ガードレール下に置いてあった花束ですよ!」


園田さんに詳しいことを言われて、

亜修羅は何かを思い出したかのようにうなずいたけど、僕はさっぱりわからない。


「二人とも、やっぱり知り合いだったの?」


「うん!今朝、宗介のお兄さんを見かけたからさ、声をかけてみたんだ。

そこで、花束の話しをね」


「そうなの?」

「・・・・まぁ、そんなところだ。それより、花束の真相って何だ?」


「実はですね、あの花束、うちの花だったらしいんですよ!

毎年、クリスマスの時期になると

同じ花を買いに来るお客さんがいるってお母さんが言ってて。

それは、子連れのお母さんなんです!」


「そうなのか」

「はい!これが真相です!」


園田さんは元気よく答えるけれど、

亜修羅はどう反応したらいいのかわからないらしく、僕の方を向いた。

こうやって僕に頼って来ることはそうないので、

よっぽど困ってるんだろうなと思い、助けてあげることにした。


「そっか、真相がわかってよかったじゃん!」


「うん。いや~、

真相って案外近くにあるんだってことを改めて思い知った瞬間だったよ」


そう言うと、更に何かを言いかけようとする。

でも、華月さんがゆっくりと手を上げたので、その言葉を飲み込んだ。


「・・・・あの、話しの途中で悪いんだけど、私達、そろそろ帰らないと」

「あっ、そうだよね、漫画のネタ探してる途中だったんだもんね!ごめんごめん!」

「ううん。ありがとう。楽しかった」


「私も、園田さんとお話が出来て楽しかった」

「私もだよ!あっ、じゃあさ、今度、私と一緒に漫画描いてみない?」

「えっ!?そっ、それは・・・・」


市川さんはそこで口ごもると、

なぜか、僕と亜修羅の方を見て顔を赤くすると、視線を逸らした。


その意味が全然わからなくて、とりあえず僕は、

話が帰る方向に向かっているので、自分も立ち上がる。


「そっか。でもまぁ、私はいつでもウェルカムだからさ!」

「うっ、うん。ありがとう・・・・」


そう呟く彼女の表情は、今までに見たことがないほど嬉しそうなものだったから、

僕もすごく嬉しかった。

今回、園田さんと仲良くなったおかげで、

市川さんにとって学校と言う存在がよりよいものになれた気がしたからだ。


「それじゃあ、行こうか!」


元気のいい園田さんを先頭に

住宅スペースの階段を下りて行き、一階の花屋へたどり着く。


すると、彼女のお母さんらしき人がいて、

「何のお構いも出来なくてごめんなさいね。せめて、これだけでも持って行って?」

と言い、風呂敷に包まれた何かを手渡してくれた。


「いいんですか?」


「ええ。この子がいつもお世話になってるから。

これからも、凛子のことをよろしくお願いしますね」


その言葉の後に、僕達は一斉にお辞儀をすると、

元気に見送ってくれる園田さんに手を振り返しながら彼女の家を出た。


ちなみに、風呂敷を持ってるのは僕で、

その中身からは、とてもいいにおいが漂っている。


「これからどうするの?」

「とりあえず家に帰るわ。あなた達はどうするの?」

「えっ!?」


どうするの?と聞かれても、僕はどうしていいのか決められない。

だって、華月さんとはほぼ初対面に近い状況なんだから、

家に上げてもらう訳にもいかない。


だから、選択肢は二つに一つなんだけど・・・・。


心の中で思い悩んでいたその時、今まで治まっていた僕のお腹の虫が暴れだした。

それはもう、今まで我慢していたものを全て吐き出すかのように。


そのあまりの大きさに、

少し離れた場所にいた二人にも聞こえてしまったようで、

あまり表情が動かない華月さんが少しだけ微笑んだ。


「今、家に兄がいないから、上がってもいいよ」

「でっ、でも・・・・」

「大丈夫」


彼女はやっぱり少しだけ微笑みながらそう言うと、歩き出してしまったので、

僕達は、その好意に甘えることにした。


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