魔界の国宝 雷光銃編 幽霊って、信じます・・・・?
昨日は早く寝て、今は真夜中頃だろう。何か違和感を感じて起きる。すると、二段ベットの梯子の方から、腕と体が見える。
こっ、これは、霊・・・・なのか?
自然と背筋が伸びて、大きく息を吐く。体が強張っているのがわかる。
暗くてよくは見えないが、確かに、体と腕が見える。その下は見えない。上半身だけの霊か?
幽霊なんてあんまり信じていなかったが、実際見てみると、嘘じゃないんだと思う。
それにしても、霊は一向に動く気配を見せない。それどころか、むしろ眠っているようだ。
・・・・眠っている?
自分の考えに疑問を抱き、試しに、その霊を触ってみた。すると、ちゃんと感触がある。と言うことは、霊じゃない。だったら・・・・誰だよ?
「おい、誰だ?」
声をかけても、見知らぬ人物は起きない。勝手に人の部屋に入り込んで、梯子の中間部分で眠るとは。よっぽど神経が図太いか、大バカのどちらかだ。
暗がりで顔もよく見えないし、同じように周りも見えないから、変に動いて自分も落ちるだけだ。
「おい、起きろ。誰だ?」
今度は強く揺さぶった。すると、その人物がむっくりと起き上がる。この状態だと、きっと梯子に足がかかっている状態になる。よく後ろに倒れないものだ。
「トイレ・・・・」
「は?トイレ?」
誰だと言う質問に、トイレと答えた人物は誰なのかわかった。耳は妖狐の姿のままだから、自信はある。
「おい、下で寝てたんじゃないのかよ?」
「あのね・・・・トイレ行きたくなってさ」
「そんなの一人で行けよ。子供じゃあるまいし」
「でも、一人じゃ怖いしさ」
「大丈夫だ。トイレに行きたいと思って上って来たが、そのまま寝むるほどじゃ、大したことはない。そのまま寝とけ」
今から再び寝ようとする俺を、凛がつかんで引き止める。眠気が飛んだように、身動きが取れない。
「何するんだよ!」
「だってさ、廊下にも電気がないしさ。今だって、お互いの顔すら見えないじゃん。本当に真っ暗だから、凄く怖いんだって」
「お前はもう十五だろう?ほぼ大人の仲間入りしてるんだ。一人で暗闇の中ぐらいを歩けなくてどうする?」
「とにかく、行くの!」
「うわっ!?お前、何する・・・・」
凛が思い切り引っ張り、梯子の方に倒れる。そのまま、梯子にいた凛と一緒に床に落ちる。真っ暗闇だから、落ちるってことがあまりわからなかったが、体が宙に浮いたとわかったから、落ちたとわかったんだ。
「何で引っ張るんだよ!」
「だって、よく見えなかったし」
「だからってな、自分が乗っかってるのが梯子だってぐらいわかっとけ!」
しばらく言い合いをしていたが、不意におかしいことに気がついた。いつもなら、言い合いを止めに入る桜木が見当たらない。あんな大きな音を立てて落ちたのだから、普通の奴なら起きるだろう。
「そう言えば、桜木はどこだ?」
「確かにいないね。全く見えないからわからないけど。トイレかな?」
「よし、桜木を探すついでに付き合ってやる」
「なんだかんだ言ってさ、亜修羅っていつもついて来てくれるよね」
凛に言われて、そうだなと自分でも気がつく。なんだかんだ言いながらも、どうせは凛の言うことを聞いてやる。凛は子供だから仕方ないが、俺が聞いてやることもないと思う。
「じゃあ、一人で行け。俺も一人で探して来る」
「ごめん、ごめん!さっきの訂正。全然来てくれない。だからもっと来て!」
「俺はいつもお前に振り回されてる。これ以上文句を言うなら、一生何にもしない」
「ついて来て!」
俺は甘い。激甘のあんこに、砂糖を山盛りにかけたぐらい甘い。そんなものを思うだけで、吐き気がして来るのだが・・・・。例えだ。例えの話しだ。
「わかったよ」
「最初はさ、桜っちについて来てもらおうと思ったんだけどさ。暗いところが苦手だって前に言ってたことがあったのを思い出してさ。それで、梯子を上ってる途中に凄い睡魔に襲われて、そのまま熟睡」
「俺は、お前の感性が信じられない。よくあんな中途半端なところで眠れたものだ。珍しく寝相がよかったな」
「自分でも結構びっくりなんだけどね」
部屋の外に出て、静まり返っている廊下を歩いているのだが、一つ気がかりなことがある。
「・・・・おい」
「何?」
「離せ」
「嫌だよ。つかんでないと、見えないもん」
「女みたいなことを言うな!」
部屋を出てから、パジャマ(部屋に戻ったら着替えが置いてあった)の裾を離さない凛に言う。確かに、周りは暗闇で相手は見えない。だからと言って、つかむことはないだろう。話しているのだから。
「この際、女の子だと思ってもいいから。どう思ってくれてもいいから!」
「・・・・」
そこまで離すのが嫌なのかと思うと、逆に不思議に思えて来る。俺は、女に見られるのは断固として嫌だ。なのに、凛はいいと言う。余程怖いのか、新しい扉が開きかけているのか・・・・。
前の方だと願いたいものだ。
「ほら、行って来い」
「そこで絶対待っててよ!絶対動かないでよ!!」
「ああ。そんな大きな声を出すな」
やっと、トイレの中に入って行った凛を見て、大きく息を吐く。本当に子供だ。百人中、九十九人が言うだろう。しかし、凛にとっては甘えだそうだ。いや、違うだろう。完全に子供に戻ってるだろうとしか思えない。
その時、影でコソコソと話す声が聞こえた。多分、トリックバトルトーナメントの出場者だろう。
「この大会の優勝賞品ってな、なんでも、魔界の国宝の一つって話しらしいぜ」
「なんだよ、そのうそくさい話」
「それがな、なにやら本当らしいんだ。魔界の国宝は、三つ集めると、世界を支配出来るんだってよ。そのうちの一つが、この大会の優勝賞品らしいんだ」
「ふーん、その話、本当か?」
「ああ、そう言っていた」
盗み聞き(いや、わざとじゃない。自然と耳に入って来るのだ)をしている俺も、最初は信じていなかったが、もし、本当だったらとんでもないことになる。人間が魔界の物に触れたら、ただじゃ済まない。
ましてや、国宝だ。これは、優勝するしかない。選択肢は一つしかないんだ。桜木と凛にも報告をしなくちゃな。
それから数秒後、凛が戻って来た。俺がいなくなってないかと、慌てていたようだけれど、俺はここから一ミリも動いてないぞ。
「よかった、ちゃんといてくれて。いなくなっちゃってたらどうしようかって思ってた」
「それより、まずいことになった。まずは、急いで桜木を探そう」
「何で?」
「話は三人そろってからだ」
しばらく探し回ったが、桜木の姿が見当たらない。ここのドームの中にいないように、どこにもいない。
「どこにもいないな」
「うん。どうしたんだろう?」
探し回って部屋に戻った。すると、出かける前はいなかった桜木がいる。窓を開けて、カーテンも開けて、窓辺に肘をついて物思いにふけっている。
「うわぁ、何だか、物思いにふけってるよ」
「今話しかけるのもまずいな」
そっとドアを閉めようとする俺を、凛が止める。そして、ジェスチャーで、少しだけ開けておけと言っている。仕方なく、薄く扉を開けて覗く。
月の光が部屋の中に差し込んで、桜木の表情は見て取れる。あまり、浮かなく、今にも泣き出しそうな感じの顔だ。こんなところを覗きするのは、よくないと思う。
「桜っち、悲しそう」
「・・・・行くぞ」
「でも、僕らの部屋はここだけど・・・・」
「少し外に出よう」
凛も、桜木の雰囲気がわかったようにうなずくと、廊下の窓から飛び降りた。