表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
489/591

懐かしさはありますが、雰囲気はないです

「おい、そんなに食うなよ」

「いつもよく食べるのに注意しないじゃない!」

「今回は俺も好みだから、別だ」


「あれっ、亜修羅もこのお菓子気に入っちゃったの?

な~んだ。珍しいね、甘いお菓子なのにさ」


「・・・・まぁ、な」


言葉を濁すと、何かあると感づいたのか、凛がしつこく問いただそうとして来る。

別に、これと言って理由はない。

そう言えばよかったのだ。どうして素直に答えたんだよ・・・・。


「どうして!」

「懐かしい味だからかもな」


「・・・・確かに」


「絶対に違うはずなのに、似た雰囲気を感じるんだ」

「え?お菓子に?」


「そうだろ。

人間だって『雰囲気が似てる』ってことがあるんだから、

菓子にあったっておかしくはないだろ」


「いや、おかしいよ?」


そう言う表情がなんだか馬鹿にしているように見えて、

一回だけ殴ると、園田の机の隣にある小さな棚の方へと歩いて行く。


「あっ、ちょっと、また何か物色しようとしてるんでしょ!

変質者って思われちゃうよ!!」


「バレなきゃいいんだよ」

「そうじゃないでしょ!」

「うるさい、静かにしてろよ!」


「だって、これ以上道を踏み外さないように・・・・」

「・・・・」

「そんな目で見たって、僕は引かないよ」


無言の攻撃も、今回ばかりは通用しないらしい。しかし俺は、諦めるつもりはなかった。


その棚には大量の紙が積まれているのだが、その紙が気になったのだ。


小説や漫画を描く人間に好きなジャンルがあるとすれば、

自身の漫画や小説も、好きなジャンルのストーリーになるに違いない。


と言うことは、園田の描いた漫画を見れば、

さっき凛に奪われた漫画のジャンルがわかるかもしれないと考えたのだ。


「ちょっ、待ってよ、なんであの紙が漫画だってわかるの?」

「勘だ」


「いや、そう自信満々に言われてもさ・・・・」


「大丈夫。当たってる」

「ちょっ・・・・」


引き止めようとする凛の手を払うと、山積みになった紙の束を取り出す。

案の定、園田の描いた漫画らしく、タイトルと巻数が表紙に描いてあった。


すると、それを確認したからか、

さっきまで必死に引き止めようとしていた凛が近づいて来る。


「結局お前も気になってるんじゃないか」

「いや、だってさ・・・・」


言い訳を続けようとする凛の頭を漫画ではたくと、違う漫画の表紙を見てみる。


すると、一瞬だけ、表紙に描かれている人物達の輪郭部分が光ったように感じた。

光の加減じゃないかと疑いながらも、今度は、電球を背にして確認してみる。


・・・・やっぱり光った。

電球を背にして立っているので、電球の灯りで光って見えた訳ではない。

それなら、絵が自発的に光ったって言うのか?


そんなことがあるはずない。

しかし、世の中には信じがたいことが事実だったりすることもある。

竜達と出会ってそう考えられるようになった俺は、凛にも聞いてみる。


「この漫画、なんだか変だと思わないか?」

「え?そうかな?」


「黒い輪郭部分が電球の影響を受けずに光ってる」


「ええっ!?ほんと??」

「ああ。見てみろよ」


凛に差し出してみると、しばらくの間凄く集中して表紙を睨んでいた。

しかし、一向に驚きの声をあげない。


「わからないか?」

「え~っ、見えないよ?」

「・・・・貸せ」

「やだ!僕も見てみたい!」


こんなに長い間奪われることは想像していなかったので、

仕方なく違う巻の表紙を順に見て行く。


しかし、1巻以外は全く光らなかった。

どうやら、現在凛の手に渡っている一巻だけが光るみたいだ。


「見間違いだよ!」

「・・・・」


見間違いと断言されるのが悔しくて、

凛の腕から1巻をひったくると、再び目を凝らして見てみる。


すると、やっぱり光った。

今までの光よりも更に眩しく感じ、

これはもう、光の加減と言う問題ではないと確信する。


しかし、俺はこの光をどこかで見た覚えがある。・・・・どこだっただろう?


「さっきからずっと表紙を睨んでるけど、どうしたの?」

「・・・・」


「ちぇっ、無視ですか。ふんふん、別にいいですよ~。

・・・・って、あれ?この人、亜修羅に似てない?」


「なんだよ」

「ほら、この人!」


そう言って凛が指さしたのは、園田の描いた漫画の登場人物紹介の欄で、

指差された人物は、なんとなく俺と似ている気がした。


「偶然だろ」

「えーっ、凄く似てる気がするんだけどな~。尾神竜司さんだって!」

「ん?」


その名前を聞いた時、俺の中の何かがひっかかった。どこかで聞いた覚えがある。

・・・・どこでだ?


思い出そうと記憶を手繰るものの、上手く思い出すことが出来ない。

なんだか最近、物忘れがひどくなったな。


「おじいちゃんくさいよ~」


そう言う部分だけ聞き取れる凛の頭を殴ると、ため息をつく。


普段からよく心を読む奴だが、

最近は、特に酷い部分だけ聞き取れるようになっている気がする。

地獄耳・・・・とは違うものだろうが、似たような部類に入ると思う。


そんなどうでもいいことを考えていた時、急に、全てのことを思い出した。


まずは、漫画の表紙に描かれている人物達の光り方を、どこで見たかと言うこと。

その場所は、俺が華月を見つけた時。


更に詳しく言うと、あいつがキャンバスから

ライオンを出した時に放たれていた光と似ていたのだ。


次に、尾神竜司の名前をどこで聞いたかと言うこと。

この場合、俺は尾神と言う部分は知らないが、竜司と言う名前に聞き覚えがあった。

俺と市川達が初めて会った時だ。


あいつは俺の顔を見るなり、「竜司先輩・・・・」と言っていたのだ。

そいつと俺はどことなく似ているので、市川が言っていた竜司先輩とは、

おそらく、園田の描く漫画の登場人物である、「尾神竜司」で間違いないだろう。


「おい、市川の言っていた竜司先輩って言うのは、こいつのことで間違いないだろう」

「そうなの??」

「ああ。似てるだろ?」

「現実の先輩じゃないの?」


「さあな。ただ、市川は、

俺達と園田が話している間キョロキョロとこちらの方を見ていた。

だから、間違いない」


「そっか~。って、全然わからないんだけど・・・・いっか!

あっ、でも、それじゃあ僕、濡れ衣だよ!謝ってよ!」


「いやだ」

「なんでさ!」

「まだ考えることがあるからな」


「まだあるの?」

「光のことだ」

「それって、見間違いじゃ・・・・」


凛がそこまで言った時、部屋の外から複数人の足音が聞こえて来て、

慌てて漫画を片付けると元の位置に座りなおす。


「見間違いじゃないの?」

「ああ。何度も見たから確実だ」

「ふ~ん」


いまいち信用していない凛にこれ以上言葉を重ねるのは時間の浪費だと考え、

現在気になっていることを園田と華月に聞いてみることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ