間違われ少年
「遅くなっちゃってごめんね~。
お母さんがさ、私の行動に気づいちゃって、
『友達呼ぶならそういいなさい!』っていって怒っちゃってさ、
それに反論してるうちにもめちゃって・・・・」
「いやいや、気にしないでいいよ」
「そっか。あっ、でも、そのお詫びと言っちゃ何だけど、
特別美味しいお菓子持って来たんだ!
これね、この間岐阜に住んでるおばあちゃんが買って来てくれたんだけど、
もうすっごく美味しくて!美味しいから食べてみて!」
園田さんは相変わらずとても元気だった。でも、僕の心には少しだけ戸惑いがある。
それも何も、あの漫画の中身を見たせいなんだけど、
でも、それって、僕が勝手に見ちゃったことに原因があると思うんだ。
だから、その戸惑いを見せないように振舞う。
・・・・でも、中々インパクトの強いものだったから、僕の頭から離れない。
こればっかりは自分のせいだから、自分を責めるしかないけど・・・・。
あっ、そうだ。忘れちゃえばいいんだ。すっかり忘れちゃえばいいんだ!
無理やりと言えば無理やりな結論だけど、これしか今の僕に出来ることはない!
園田さんに勧められたお菓子を食べてみる。・・・・これは!
「美味しい!」
「おおっ、だよね!
それ、おばあちゃんの家の近くにあるケーキ屋さんで買ったらしいんだけど、
もうめちゃくちゃ美味しくてさ!華月さんはどう?」
「うん。美味しい」
「そっ、そうですね。おっ、美味しいです・・・・」
市川さんはなんだか緊張しているようで、彼女に対して敬語を使った。
すると、彼女は驚いた顔をしたかと思ったら、
市川さんにズイズイ近寄って、背中をバシバシ叩いた。
僕もたまにああやって背中を叩かれるけど、中々痛い。
空手を習ってるからかわからないけど、結構力があるから痛いんだよね。
本人は無自覚みたいだから、何とも言えないんだけどさ。
「敬語なんて使わなくていいんだよ!私達同い年だし。
それに、同じクラスメートじゃん?敬語なんて堅苦しいからやめてよ~」
「うっ、うん。あの、ごめんなさい。あの、痛い・・・・」
「あっ、ごめんごめん!ついいつもの調子で叩いちゃった。宗介だったら平気だよね?」
「ごめん、僕も痛い!」
「え~っ、そんなこと、今まで一度も言わなかったじゃん。
だから、平気だと思ってたのに」
「言わなかったって言うか、言えなかったって言うか~ね?」
僕は逃げ場を求める為、亜修羅に問いかけてみる。すると・・・・。
「お前だって散々叩くくせに、自分が叩かれた時だけ痛いとか言うな」
「・・・・冷たいなぁ」
「えっ、宗介、お兄さんのこといつも叩いてるの?」
「え?」
「だから、お兄さんのこと、いつも叩いてるの?」
園田さんは、僕が聞き取れていないと感じたのか大きな声で言ってくれたけど、
僕があの反応を示したしたのは、聞こえなかったからじゃない。お兄さんって・・・・?
不思議に思って考え込んでいると、ため息をついて、背中を叩かれた。
「ちょっと、何するのさ!」
「お前が俺を巻き込んだ時、そう言ってただろ?」
「え?」
尚も思い出せないでいる僕に対してイライラした表情を見せる。
なんだか、いつにも増して機嫌が悪い。どうかしたのかな?
「どうしたのさ、そんなにイライラして・・・・」
「文化祭の時だよ」
「文化祭?」
「お前が、俺を兄だと言って無理やり連れてって、俺のトラウマを一つ増やしただろ」
「・・・・あっ」
ようやく思い出すことの出来た僕に対してため息をつくと、そっぽを向いた。
なるほど、だから不機嫌だったのか。
ようやく全てのことに合点がいった。
確かに、あの時のことを思い出した亜修羅は物凄く不機嫌になるんだ。
以前、「別にそんなにおかしくなかったんだし、いいじゃない!」って言ったら、
本気で追い出されたことがあるから、相当トラウマになってるみたいだ。
「どうしたの?二人でコソコソ話して?」
「うっ、ううん。
おっ、お兄ちゃんがさ、ちょっと小言を僕にぶつけて来たから・・・・いたっ」
「大丈夫?」
「うん。大丈夫!いつものことだからさ!」
僕はなんとか笑顔を浮かべるけれど、
無言で反論してくる亜修羅の態度に、内心、凄くムカついていた。
だって、普段はちゃんとしゃべってくるからいいけど、
今はほとんど話さないで、蹴ったり叩いたりするんだもん。いくら僕でも怒るよ!
「おっ、お兄さんだったの?」
「あれ?市川さん、知らなかったの?」
「うん。あの時私、放送委員だったから、クラスの出店に参加出来なくて・・・・」
「あっ、そうだったんだ。残念だったね・・・・」
「ううん。でも、私、てっきり友達だと思ってたよ。
髪の毛の色とか顔立ちとか、あんまり似てないし・・・・」
普段のおとなしい性格からは想像も出来ないほどの鋭い指摘に、
とてもハラハラしていた。
まぁ、そりゃ、亜修羅と僕は正反対だし顔だって似てないから、
兄弟って言うのは中々厳しいけど・・・・。
って、そもそも、兄弟って髪の色同じなのかな?
人間の髪の毛事情を僕は知らない。
妖怪は、兄弟でも髪の色が違ったりするし、顔もあまり似てなかったりするから、
この兄弟で通用すると思ったんだけど、人間の兄弟ってもっと似てるものなのかな?
「えっ、えっと、あの、お兄ちゃんが髪の毛染めてるんだ。
茶髪はやだって言うからさ。
それでね、顔は、僕がお母さん似でお兄ちゃんがお父さん似で・・・・」
「へぇ~。でもさ、宗介って女の子みたいだから、
二人でいる時カップルに間違われちゃうことって、ない?」
「うっ・・・・」
物凄いことを言われて、喉から変な声が漏れる。
でも、正直、あるって言えばあるんだよね・・・・。
私服の時に二人で歩いてると、お店のお姉さんに、「カップル向けの映画ですよ~」
なんて言われたこととかあるし。
でも、それ以上に多いのが、兄妹に間違われること。
カップルに間違われるよりはマシだけど、なんだか複雑な気持ちになる。
そんなことが多いせいか、亜修羅に、
「顔は仕方がないけど、服装はどうにかしろよ」って言われちゃった。
あっ、もちろん、スカートなんて履いてないよ?
でも、ファッションの好みもどちらかって言うと女の子寄りみたいで、
可愛い服とか好きだ。
でも、そんなことが多いので、
僕は出来るだけ男の子が着るような服を着ようと努力を始めた。
と言っても、前までは男女両用の服を着てたのに対し、
今は、男の子専用の服を着始めたってことだけ。
・・・・しかしだ。それにしても、やっぱりたまに言われる。
だから、ついに亜修羅は僕と二人で出かけるのをやめちゃったんだ。
別にいいって思っちゃえばそうだけど、寂しいことは寂しい。
「そう言うこと言うから、勘違いされるんじゃないのか?」
「え?そう?僕はこれが普通なんだよ」
「お前の普通は、一般では普通じゃないんだよ」
「そんなこと言ったってさ~」
「見た目も声も仕方がないことだ。
ファッションを変えたって勘違いされるなら、もうそれしか手がないだろ」
「別に、勘違いされたっていいじゃん。違うって言えばいいし」
「俺が嫌なんだよ。お前こそ、どうしていいんだよ?」
「うーん、どうでもいいから?」
そう言ってみると、もう口を利いてくれなくなった。
僕としては、もう完全に慣れっこだから平気なんだ。
まぁ、確かに、カップルとか兄妹に間違われるのは嫌だけどさ、
嫌がっても間違われちゃうだろうし、自分の容姿を嫌ったってどうにもならないし、
仕方ないかな~って考えてるんだ。
だから、そんなにピリピリしてる亜修羅の方が不思議なんだよね。
「やっぱり、あるの?」
「えっ?なっ、ないよ!」
「さっきの会話、聞こえてたけど?」
「・・・・まっ、まぁ」
僕が嫌々肯定すると、園田さんはうんうんとうなずいてから、
ふと何かを思い出したかのように華月さんに声をかけた。
「あっ、そうだ。原稿、見ます?」
「いつでもいいよ。私は」
「あっ、じゃあ、今見てください!」
「うん」
「えっと、それじゃあ私達、ちょっと行って来るね」
「・・・・え?どこに?」
「原稿。この部屋じゃなくて、お父さんの書斎にあるの。それを見せてくるから!」
「あっ、そうだったね」
「うん。あっ、市川さんも来る?」
「えっ、私!?」
「うん。好きそうだから。じゃ!」
園田さんは、僕らに向かって手を挙げると、
戸惑う市川さんの手を引いて部屋から出て行ってしまった。
「・・・・お前とそっくりだな」
「そう?」
「そうだよ」
「失礼しちゃうわ!」
「・・・・」
「怒らなくたっていいじゃん」
小さな声で呟くと、亜修羅は満足そうにうなずいてお菓子を食べてた。
その勝ち誇ったような表情がなんだかムカついて、
突き飛ばしてやろうかって思ったけど、
そんなことしたら10倍にして返されそうなので、
仕方なく、亜修羅も気に入ってるお菓子を横取りすることにした。