よみがえる過去の記憶は・・・・
「どうぞどうぞ!ちょっと汚くて狭いけど、我慢してくださいね~」
そう言いながら家のドアを開けると、
俺達の背中を押して無理やり中に入れる。
この初対面でも遠慮をしないところやその顔に
どこか見覚えがあったのだが、正直、思い出せない。
こいつから妖気は感じないから、絶対に古くからの知り合いではないはずだ。
それじゃあ、一体なんなんだ??
「何々?園田さんのことジッと見てさ??」
「どこかで見た覚えがある」
「あれっ、知り合いなの?」
「いや、思い出せないほどの奴だから、親しい訳じゃないんだろう」
「・・・・そうかな?」
「それに、もう一人のクラスメート。
あいつ、俺の顔を見て『竜司先輩』って言ったぞ。お前、変なこと吹き込んだか?」
「ちょっ、失礼な!どうして僕がそんなことしなきゃならないのさ?
ちゃんとした人間名があるんだから、名前聞かれたらそっち言うでしょ!」
最もなことを返され、素直に納得する。
凛にしては珍しくまともなことを言ったので、これは違うなとわかったのだ。
しかし、それなら一体なんだって言うんだ?
俺は、あいつに会った覚えがないから竜司だって名乗った覚えもない。
そうなると、誰かが言ったとしか思えないが、凛は違うと言う。それじゃあ、桜木か?
ふと視線を感じて振り向くと、そいつが俺を見ていた。
しかし、目が合うと直ぐに赤くなって目を逸らす。明らかに様子がおかしい。
「ここが私の部屋!
ちょっと狭いけど汚くはないと思うからさ、ゆっくりしてってね~!」
それだけ言うと、俺達を部屋に残したままどこかへ行ってしまった。
「うわぁっ、さすが女の子の部屋・・・・。あっ、サンシャインのポスターだ!」
「誰だよ、それ」
「ほら、見てみなよ!」
言われるがままに視線を動かすと、水樹の家にいた双子にそっくりだった。
そう言えばあいつら、「アイドル」と言うものをやってるって聞いた気がする。
これがそれなのか。
この部屋の中にはサンシャインのポスターがところ構わず貼られていて、
相当なファンだと伺えるが、
それ以上に、何かのアニメみたいなポスターが沢山貼られていた。
「あれはなんだ?」
「うーん、多分、ゲームか漫画の特典か何かかな?」
「・・・・」
ポスターには、それぞれ違う絵柄で人間が描かれているものの、
その全てに女が描かれていない。
ここまで沢山のポスターがあり、沢山の人間が描かれているのなら、
一人ぐらい女がいたっていいはずなのに一人もいない。素晴らしい回避率だ。
それに、素晴らしいと言ったら、この漫画の数だ。
園田の部屋に入った途端目に飛び込んで来たものだが、その数が凄い。
入って正面のところに勉強机があり、その横には小さな本棚。
そこには沢山の紙が重ねられており、
その直ぐ横に、天井ギリギリまで高さのある大きな本棚が二つ並んでいるのだが、
その全てにぎっしりと漫画が詰まっていて、
左を向けば漫画の山が降って来そうで怖くなる。
「なんだか、居心地の悪い部屋だな」
「漫画が沢山あるから、なんだか圧迫感を感じちゃうのかな?」
凛の言葉にうなずきながら、部屋の真ん中に置いてある小さなテーブルの前に座る。
すると、それに習うように、凛達も机を囲むように座った。
「部屋の中がここまでピンクって言うのも珍しいよね」
「正しく言うと、ピンクじゃないけどな」
「うーん、確かに。なんだか、オレンジとピンクを混ぜたような不思議な色で・・・・」
ただ座っているだけでは退屈なので、とりあえず立ち上がると、
左上の漫画から順にタイトルを読んでいく。
すると、そんな俺の様子に気がついたのか、凛が近寄って注意してくる。
「ちょっと!人の部屋のもの、そんなにジロジロ見ちゃダメだよ!」
「いいんだよ、部屋の主がいないんだから」
「そっ、そう言う問題じゃ・・・・」
「なんだか、変なタイトルばっかりだ」
「え?そうなの?」
「ああ。ほら、これとか」
俺が指さした漫画のタイトルは、「キミ×ボク」と言うもので、なんだか変な感じがする。
普通、タイトルにバツ印なんてつけないだろう。
たまに本屋などを立ち寄るが、そんな漫画、見たことがない。
どんな内容なのかが気になって、一巻だけ本棚から取り出して表紙を見てみる。
すると、珍しく女の絵があった。
ピンク色の「メイド服」とか言うものを着ていて、
銀色のスプーンを片手にジャンプしている姿だ。なんともおかしな光景だ。
裏表紙にも何か描かれているのかと思い、裏返してから停止した。
そこには、表紙に描かれている女と同じ顔立ちの奴が学ランを着ている姿と、
あのメイド服を着用した姿が左右に描かれており、その間に=が描いてあった。
「・・・・」
俺が動きを止めた理由・・・・それは、とある過去を思い出したからだ。
この絵からすると、表紙に描かれていたあの女は、
裏表紙に描かれている学ランと同一人物だろう。
そうなると、あいつの性別は男だ。
それなのに、あの忌々しい服を着させられているんだ。
・・・・俺も、過去に同じような経験をしたので、
その頃の記憶が呼び起こされ、停止した。
深呼吸をして、なんとか自身の精神を落ち着けようと試みる。
よく考えれば、あの出来事さえもあいつに巻き込まれて無理やりやらされたことだ。
やっぱり、あいつはとんでもないトラブルメーカーだ!
そう思いつつ、隣で鼻歌を歌いながら漫画を開いている凛を睨みつける。
さっきまで注意していたと言うのに、自分なんか、漫画の中身まで見てるじゃないか!
フツフツと湧き上がる怒りを感じ始めた直後、
尋常じゃない速さで漫画を閉じたので、思わずそちらを振り返る。
「なっ、どうしたんだよ?」
「なっ、なっ、なっ、なんでもないよ!!?」
「・・・・は?」
明らかに様子がおかしい。
気になった俺は、凛が見た漫画の違う巻を取り出して開こうとする。
しかし、物凄い勢いで止められた。
「ダメ!!」
「なんでだよ!」
「おっ、面白くないから!」
「お前、さっきから様子がおかしいぞ」
「それはいつものことでしょ!」
「そりゃそうだ」
「今の僕にその手は通用しないもん!とにかく、絶対にダメ!」
そう言うと、俺の持っていた漫画まで本棚に戻し、無理やり机の横に座らせた。
全く意味がわからないものの、
中途半端なところで遮られたので、かえって物凄く気になる。
完全に開ききる前に凛に奪われたので、俺は、箸と弁当箱しか見えていない。
こんなに凛の様子がおかしいのと弁当と箸のつながりが全く見えない。
こんな状況じゃ、誰だって気になるだろ?
「どんな内容だったんだよ?」
「えっ!?いっ、いやぁ~。えっと、がっ、学園ものだよ?」
「グルメ漫画じゃないのか?」
「そっ、そうなんだよ!」
「うそだろ」
「うそじゃないよ!なんでそう言うんだい?」
「俺の言動の直後、すぐさま証言を変えたじゃないか。
これを嘘と言わずして、何を嘘だって言うんだよ」
「別にいいんだよ!グルメ&学園ものなの!」
「・・・・ふーん」
曖昧過ぎるジャンルだ。
グルメと学園になんのつながりもない。やっぱり嘘だろう。
なぜなら、タイトルにもグルメや学園をにおわすものはなかったし、
一瞬見た表表紙も、そうじゃなかった。
「ほらほら、そんなに考えないで!」
「なんでだよ、俺の勝手じゃないか」
「別にいいじゃん、内容なんて!
そもそも、人の部屋の漫画を勝手に見るなんて、いけないことなんだよ?」
「お前が先に見たんじゃないか」
「後か先かなんてどうでもいいんだよ!結果は同じでしょ!」
「・・・・」
「・・・・」
いつにも増して喧嘩を売って来る凛を睨みつけると、
フンッとそっぽを向かれた。全く、なんなんだよ。
喧嘩が丁度一段落ついた時、
それを見計らったように、園田が部屋のドアを開けて中に入って来た。
全く、何やってたんだよ。遅いぞ。
「あっ、そうだ。さっき漫画見てたこと、内緒だからね?言ったら怒られちゃうよ!」
「・・・・わかった」
確かに、人の私物を勝手に覗いたことは決していいことではないので、
言わないつもりでいた。
しかし、問題は俺達の姿を傍目から見ていた華月と市川だ。
あいつらが黙っているかが問題だ・・・・。
チラッと二人の方を見ると、
俺が考えたことがわかったかのように二人はうなずいたので、凛にそのことを告げた。
「おおっ、よかった~。それじゃあ安心して園田さんと接せるよ!」
凛の言葉にうなずくと、俺は怪しまれないように元の位置に座りなおした。
あの様子だと、あいつは絶対にあの漫画の内容を教えてくれない。
そうわかったから、後で持ち主に聞いてやろうと思ったのだ。