納得の反応です
「おい、放せよ!」
「ダメだよ!離したら逃げるじゃん!」
「なんでダメなんだよ?」
「え?面白そうだから?」
とんでもない答えに呆れることしか出来ない。
全く、こいつと言ったらとんでもないトラブルメーカーだ。
尾行している俺にちょっかいかけてくるし・・・・
そんな俺をストーカー呼ばわりするんだ。許せない。
さっきの出来事を思い出すと、心の中が穏やかではいられなくなり、
掴まれている手を振り払おうとしても、全くと言ってその兆しが見えないので、
ついには諦めた。
「こんにちは~!」
凛の声が聞こえて、二人が振り返る。
すると、なぜかクラスメートの方は顔を赤くして目を背け、
ベレー帽の方は俺達のことを睨んで来た。
その睨みが中々のもので、凛の声が半オクターブ低くなる。
「あっ、えっと、こんにちは」
「こんにちは」
ベレー帽の方が睨みながら返して来るが、
クラスメートの方は尚も口を開く気配がなく、
ずっと顔を下に向け、俺達に顔すら合わせようとしない。
しかし、とても小さな声で、「竜司先輩・・・・」と言うのが聞こえた。
「おい、お前の知り合いじゃなかったのかよ?」
「えっ!?知り合いだと思ってたけど・・・・覚えててくれなかったのかな?」
「話しかけてみろよ」
「うっ、うん」
掴まれていた手を振りほどき、背中を押して前へ突き出す。
「あっ、あのさ、僕のこと知ってる?
僕、丘本宗介って名前で、市川さんのクラスメートなんだ。
何度か話したことがあると思うんだけど・・・・」
すると、初めて反応があった。
クラスメートはコクコクとうなずくと、ゆっくりとこちらを向いた。
とは言え、相変わらず下を向いたままで、俺の方は絶対に見ようとしない。
「うっ、うん。知ってるよ。いつも話しかけてくれるから・・・・」
「そっか!よかった~。いやね、忘れられてると思っちゃったよ!それでね・・・・」
凛はそのまま一人で話し続けるものの、
俺は、なんとも言えない居心地の悪さを感じていた。
あいつは、俺に「ついて来ないとダメ!」と言っていたが、むしろ逆だと思う。
ついて来た方が悪いことのように思える。
なぜって、凛のクラスメートの方は俺の事を絶対に見ないし、
ベレー帽の方は反対で、俺のことをずっと見ているが、
それが好意的な意味ではないことは一目瞭然だった。
どうしたらいいかわからない俺は、理不尽に睨んで来るベレー帽を睨み返していた。
すると、そんな俺達の気配に気がついたのか、凛が慌てて謝る。
「ごめんなさい!怪しい人じゃないんです!」
「は?なんでお前が謝らなきゃ・・・・」
「亜修羅、尾行してたでしょ?彼女、そのことに気づいてたんだよ」
「・・・・」
小声で言われ、ベレー帽の方を見てみる。
確かに、俺はこいつのことを尾行していた。
それがわかっていたと言うのなら、この態度もうなずけるかもしれない。
「あのね、華月。この人、私のクラスメートなんだ」
「知り合い?」
「うん。だから、そんなに睨まないで?」
「・・・・」
何をしたらいいかわからなくて、とりあえずは無言で頭を下げる。
すると、向こうも返して来たので、どうやら誤解は解けたようだ。
「あっ、あの、僕、丘本宗介って言います。あの・・・・あなたは?」
「私は、夕間華月《ゆうまかづき》莉乃の友達よ」
「あっ、そうだったんだ!それはよかった!」
「・・・・」
「・・・・」
そこで会話が途切れ、刺すような緊張感が漂う。
まるで、空気中に無数の針があるかのように刺々しい空気に耐えかねた俺は、
みなから視線を逸らした。
「あっ、あのさ、何やってるの?」
「えっと、漫画のネタを探してて・・・・」
「漫画のネタ?漫画描いてるの?」
「わっ、私じゃないよ!?
あの、華月がお兄さんと共同で描いてて、私はそれのお手伝いをしてるの・・・・」
「わおっ、凄いね!
僕、文も書けないし絵もへたくそだから、漫画家さんって尊敬しちゃうんだよね!
あのさ、もしよかったら・・・・」
そこまで聞いて先が読め、止めようと動き出す。
しかし、踏み出そうとした足を思い切り踏まれ、バランスを崩して間に合わなかった。
俺がこいつのタイミングを読めるように、
こいつも、俺が動き出すタイミングと言うものを理解しだしたらしい。
「おい!」
「邪魔させるもんか!あのね、僕達も手伝いたいんだ!どうかな?」
「・・・・」
二人は顔を見合わせ、俺はため息。
こいつの体重は凄く軽いはずなのに、踏まれた足は物凄く痛かった。
これは体重の問題ではなく、力の問題なのかもしれない。
「いいよ。特に何もしないけど、ついて来るのは構わない」
「俺はやめる。さっき足を踏まれて指を骨折したからな」
そう言い捨て足早に逃げようとするが、ガッと腕を掴まれ阻止される。
その相手は言わずともわかるだろうから、カット。
これからの出来事にエネルギーを残しておきたいからな。
「じゃっ、行きましょ!」
「うっ、うん・・・・」
凛の勢いに若干気圧されながらうなずくと、二列になって歩き出した。