いざ、出発!
「結構薄暗いね・・・・」
「あっ、足元気をつけてくださいね!色々なものが床においてあるので・・・・」
「はいはーい!おっ!」
答えた途端、僕は、足元の何かに足をとられて転びそうになった。
でも、何とか踏ん張って、ギリギリセーフ!
転び慣れてるから、体勢の戻し方も手馴れたもんだよ。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫!それにしても、ここ、薄暗いけど、まだ誰も来てないのかな?」
「いえ。実は、あの扉の先にはもう一つ扉があって・・・・」
「二重扉!?」
「そうなんです。あっ、ほら。正面にあるあの扉を抜けた先に集まっています」
「なるほどねぇ~」
確かに、水樹君の指さした先には、再び扉があった。
しかも、扉を開ける取っ手がないから、またもや自動ドアの予感・・・・。
これはもう、事件と呼べるレベルだと思う。
だってさ!部室の扉が自動で、しかも、二重構造なんだよ!?厳重過ぎるよ・・・・。
うちの学校の部室なんて、ほとんど鍵がないんだ。
だから、もはや事件レベルに達していると僕は思う。
僕の予想は当っており、僕達が扉の前に立つと、閉ざされた扉は開いた。
しかし、その先に待っていた光景は、僕の予想を遥かに超えるものだった。
まず一番最初に目に入ったのは、
大きな天窓の下に置かれていた、これまた大きな丸いテーブル。
そのテーブルには椅子が6つ並んでいて、
テーブルの上にはお菓子や紅茶のポットが置いてあった。
それだけでも僕は驚く。でも、僕を更に驚かせる出来事があったんだ。
それは、テーブルに座って紅茶を飲んでいる人物・・・・
それが、雅さんだったってこと。
向こうも、僕が入って来た途端に気がついたようで、驚いた顔をした。
でも、直ぐに笑顔になると、椅子から立ち上がる。
「ようこそ、シークレットランドへ。
僕は、シークレットランドの管理人兼、
シークレットクラブの部長を務めている、浅岡雅です。
どうぞよろしくお願いします」
ゆっくりとお辞儀をされたので、僕達も、そろってお辞儀を返す。
本当は、あの時のこととか、あの後のこととか色々訊きたかった。
でも、訊きに行けるような雰囲気じゃなく、僕は、その場に立ち尽くしていた。
「どうぞ、座ってください」
雅さんに勧められて、椅子に座る。でも、椅子が一つだけ足りなかった。
すると、水樹君が、「僕、紅茶入れてきますから!」と遠慮してくれた。
「それじゃあまずは、自己紹介の続きをしよう。三影さんからどうぞ」
「はい」
指名されて立ち上がったのは、僕達が入った時、雅さんと話しをしていた女の人。
見た感じ、年上の人っぽいけど、どうなんだろう?
「私は、ここの副部長兼、生徒会長を務めている三影莉琴です。
よろしくお願いします」
三影さんは、冷静な雰囲気を漂わせていて、
雅さんとはいいコンビになりそうな予感がする。
「それじゃあ次に、皆さんのことを教えてください」
それを合図に、僕達は自己紹介を始めるものの、
なんだかみんなガチガチに緊張してる。
いつもなら緊張の色すら見せない神羅だって緊張してるんだ。
ちょっと可笑しいよね。
「なんだか言いようのないプレッシャーを感じますね」
「俺もだ。普段緊張なんかしないのに、どうしたんだろうな、俺・・・・」
「だよね、緊張しなさそうなのにね!」
「失礼な!」
「喧嘩はダメですよ!みなさんがいる前なんですから!」
桜っちに怒られて、小声での言い合いを止める。
確かに、知り合いの人が、その知り合いどうしで喧嘩を始めちゃった場合、
とてつもなく気まずい雰囲気になるもんね。あの時の空気は物凄く痛いよ、うん。
「部長、スクラップの件についてなんですが・・・・」
「うーん。そうだね・・・・」
彼はそこで言葉を切ると、僕達のことを一人一人、じっくり見ていた。
一番初めに会った時もそうだったけど、
雅さんは、笑顔でプレッシャーを放ってるような気がするんだ。
・ ・・・今は笑顔じゃないけど。
しばらくの沈黙が続く。
水樹君は、紅茶を淹れてくると言ったきり戻ってこないし、
三影さんと月野君は、雅さんに合わせるかのように、僕達のことを見る。
なんだか重たい空気に包まれて、
「誰でもいいから、早く誰か話してーー!」
と心の中で叫んだ時、その言葉が通じたかのように、雅さんが口を開いた。
「うーん、まぁ、多分大丈夫だと思うけどね・・・・」
「そうですか、わかりました」
「うん。じゃあ、俺、ちょっと出かけなくちゃいけないから。
三影さん、後はよろしくね」
「わかりました」
彼女がうなずくと、安心したようにシークレットランドを出て行った。
僕は、その後ろ姿を寂しい気持ちで見送った。
なんだか、あの時の出来事がなかったかのように感じる。
しかし、そうでないことは、一番最初の雅さんの反応からしてわかってた。
でも、なんだかあまりにもサバサバしてて、
あれは、僕が思ってた幻なんじゃないかなって思ってしまう。
それに、スクラップのことも、凄く渋々と言った感じだった。
何か嫌われるようなことでもしちゃったのかと不安を感じて、自然とため息がもれた。
「あれっ、OKもらえたのに嬉しくないんですか?」
「そうだぜ、あんなにワーワー言ってたのによ」
「あ~うん。嬉しいよ?うん、嬉しい」
「何かあったんですか?」
「いやっ、なんでもない!」
心配してくれる二人に向かってOKのサインをすると、三影さんに質問をする。
「あの、質問してもいいですか?」
「ええ。いいわよ」
「あの、自己紹介の時、浅岡さんは、
『シークレットランドの管理人』っておっしゃってましたけど、
あれはどう言う意味なんですか?顧問の先生とかはいないんですか?」
「顧問の先生はいません。
ですから、部室の管理や維持費などは、浅岡さんが管理しています。
他に質問はありますか?」
「いえ・・・・」
随分と機械的に答えられて、僕はそのまま会話を終えてしまった。
本当は、まだ聞きたいことがあったんだけど、三影さんの話し方は淡々としていて、
「これ以上質問するな!」って言われてるように感じちゃったんだ。
「質問がないのでしたら、早速空接の門を開きますけど・・・・いいですか?」
彼女の言葉にそろってうなずくと、ワクワクしながらその瞬間を待つ。
「空接の門」と言うのだから、何もない空間に門が現れるのか。
はたまた扉が現れるのか。それがとても気になった。
「扉が現れるのかな!」
「門って言うぐらいだから、門が現れるんじゃないか?」
「どうなんでしょうね!」
そんな会話をしていると、
奥の方から、慎重に紅茶を運んで来る水樹君の姿が見えて、僕達はそれを手伝う。
だって、明らかに大変そうだったんだもん。
「すっ、すみません!ご迷惑をおかけして・・・・」
「いやいや、気にすることないよ!こぼしちゃったら大変だからね」
「あっ、ありがとうございます」
水樹君のお礼に笑顔で答えて、無事、紅茶の配達を終了した。
「あっ、凛君、あれ見てください!」
「ん?」
指をさされた方向に目を向けると、
僕達が見ていない間に、テーブルの正面に変な渦のようなものが出来ていた。
それはとても大きく、僕達の体がスポッと入るほどの大きさで、
向こう側の景色は、ここのものではないみたいだった。
でも、歪みがひどくて、正直、どんなところなのかはわからない。
「おおっ!扉でも門でもないっ!」
「向こう側の景色は、ここのとは違うみたいだな!」
「なんか、歪んでるように見えない?」
「だよな!俺の目がおかしくなったのかと思ったぜ・・・・」
「皆さん、こちらへ来てください」
「あっ、はーい!」
渦の直ぐ横に立っていた三影さんに手招きをされ、
急いでそちらの方へと歩いて行った。