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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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人間だって、ナメたものじゃないです

「ほら、目的の人物登場だぜ」

「えっ、ほんと!?」

「じゃ、何かあったら呼んでくれればいいから、好きなだけ話してろよ」


竜君は彼を僕らの座っている机まで連れてくると、

ドタバタと走り回っている子供達の輪の中に入って行った。


僕よりも幼いのに僕よりも身長が大きい。

その事実を知った時とてつもなく驚愕した覚えのある彼。そう、月野君だ。


月野君は不思議そうな顔をしながら空いている席……

もともとは亜修羅が座っていたけど、突然席を立ったことで空いた席に座った。


「目的の人物ってどう言うこと?」


「えーっと、とりあえず、

僕達と言うよりは伊織さん達が気になってるみたいで……」


「どう言うことですか?」

「……」


僕は黙り込む。誰かが聞いてくれると思ったから。

でも、みんながみんなそう思っているのか誰も口を開いてくれない。


「ちょっと神羅、聞いてみてよ。気になるんでしょ?」


「んなこと言ったってよ、

なんかどう説明したらいいのかわからないし

そもそもお前、あの機械壊しちゃったじゃんかよ」


神羅に言われたことで昨日のことをより鮮明に思い出す。

今までは水樹君や琥珀君のことで頭がいっぱいだったから

その部分しか思い出せていなかったんだけど、神羅の言葉で思い出した。

僕が、妖力測定器を壊してしまったことを……。


それを思い出したら余計に話しかけづらくなってしまう。

だって、ねぇ?僕が壊しちゃったんだもん……。


そんな様子をみかねてか、竜君がこちらへ近づいて来た。


「昨日、お前に渡された機械でちゃんと妖力値を測ったぜ」

「あっ、そうですか?ありがとうございます」


「ああ。それから、凛の妖力値を測定しようとした途端、その機械が壊れちまってな。

測定出来なかったんだ」


そんな竜君の言葉をヒヤヒヤしながら聞いていた。

だって、包み隠さず真実を告げちゃうんだもん。

ちょっとぐらい嘘ついてくれるかなとか期待したんだけど……。

いや、ダメだ!竜君を責めちゃいけない。壊した僕が悪いんだもん。


そう思いながらも竜君の方をじっと見る。

すると、僕の視線に気づいたのか首を振った。

意味がわからなくて首をかしげていると急に肩を叩かれた。

その方向は月野君の座っている位置。……怒られる。


嫌だなと思いながらも無視する訳にもいかないから振り返ってみる。

視線の先にいた月野君は怒ってもいなければ笑ってもいなかった。

なんでかわからないけど凄く真剣な顔で僕のことを見て来るから

段々と睨まれてるんじゃないかと錯覚してしまうほどに。


「あっ、あの……ごめんね」


どうしていいのかわからなくて咄嗟に謝る。

月野君はフッと笑って首を振った。


「勘違いさせてしまったのならごめんなさい。

測定器のことは気にしなくても大丈夫です。予備がまだいくつかあるので」


「そっ、そうなの!?」

「はい」


「それじゃあさ、どうして僕のことをじっと見てたの?」


「大体の力量を測ってたんです」

「ええっ!?」


それには僕を含めた全員が驚いた。不思議なことに、水樹君や琥珀君まで驚いてた。

それに対しても僕は驚いた。

だって、僕達妖怪の間では普通に行われていることではあるけれど、

人間である彼が出来るなんて……。


「驚く程のことじゃないですよ、ランクと大体の数値しかわからないですから」

「いやいや、十分凄いことだと思うよ?」


「そうですよ! 僕だって似たようなことは出来ますが、

強いか弱いか程度のものしかわからないですから」


「ええっ!? 月野君、そんなに凄い人だったんだね!」


「ううん。正直なところ弱い相手にしか使ったことがないから、

力が強い皆さんにまで通用するかはわからないんですよ」


「……じゃあ、当ててみろよ」


突然聞こえて来た声の主は亜修羅のようで、どうして突然話し始めたのかと驚く。

だって、今までずーっと目をつぶって黙ってたんだ。

てっきり眠ってるのかなと思ってたよ。


一度は亜修羅の方を見たけど、直ぐに月野君の方に向き直る。

どんな展開になるのか物凄く気になる。


「わかりました」


彼は短く答えると、初めて亜修羅のことを見た。

その視線を受け止めるように亜修羅も月野君を見返しているから、

若干にらみ合っているようにも見える。


「……Sの450万より高いぐらいですかね?」

「おおっ、凄い! 当たってる!」

「本当ですか?」

「うん。亜修羅はね、Sの463万だよ!」


僕が教えてあげると月野君は凄く驚いたような顔をして

直ぐにメモを取り始めた。

この様子からすると、彼もまた誰かに頼まれてるみたいだ。


そんなことを考えながらスラスラと文字で埋められて行く紙を見下ろしていると、

いつの間にか背後にいた亜修羅に背中を突かれる。


「おい、本題聞けよ」

「亜修羅が聞けばいいのに」

「俺は嫌だ」

「ったく、わがままだなぁ~」


ボソッと小声で言ったのに、足を踏まれた。


全く……亜修羅は僕が自分勝手だって言うけど、

亜修羅の方がよっぽど自分勝手だよ!


あるテレビで「世の中は理不尽だらけ」って言ってたけど、

今まさにその「理不尽」とやらに遭遇した気分だ。

でも、僕だって気になっていることは事実だから、

酷いなと思いながらも月野君に聞いてみる。


「聞いてもいい?」

「なんですか?」


「どうして妖力を測定出来る装置を持ってたり

見るだけで相手の力量が的確にわかったりするの?

昨日水樹君達からスクラップの話と

所属してるクラブのことは少しだけ聞いたんだけど、

それと何か関係してるのかな?」


すると、彼はなぜか水樹君の方を向いた。

その仕草は僕達が竜君に助けを求める仕草と同じもののような気がした。

でも、水樹君にはその意味が伝わらなかったようで、不思議そうに首をかしげたまま

月野君の方に身を持って行きこそこそと何かを話し合う。


「僕、変なこと聞いたのかな?」

「んー、わからん」

「ねえねえ、神羅の能力で二人の心は見れないの?」

「無理!」


「やっぱり?」

「ああ。あくまで、見えるってだけで、心の声が聞こえるわけじゃないからな」

「ちぇっ」

「おい、舌打ちは酷くないか!?」


神羅の言葉にうなずくと、「ごめん」とだけ言って二人の方に向き直る。


「さっきの質問の答えですが、関係してますよ。

僕は、そのクラブの中で相手の力量を測ってまとめる係をしてるので、

見ただけでランクと力量が大体わかるんです。

皆さんのデータは部長に頼まれたんです」


「へぇー、なるほどね。あっ、そうだ! お願いがあるんだ!」

「お願い?」

「うん、あのね……」


そこまで言いかけた時、僕の言うお願いをいち早く察知したのか、

だれかさんがどうにかしてでも口を塞ごうと動き出す。

きっとめんどくさいことに巻き込まれるのが嫌だとか言うんだろうけど、

そんなことないじゃん、きっと楽しいよ!


彼の動きを察知して全ての攻撃を華麗に避けて僕は堂々と宣言した。


「僕達も、そのクラブの活動に参加したいんだ!」


その言葉は想定外だったみたいで月野君は困った顔をした。

そして、一人だけがっかりした人もいた。


「そんなにがっかりすることないじゃん?」

「めんどくさいことに巻き込まれそうだからだよ」

「でも、まだ絶対にOKだって決まった訳じゃないでしょ?」


そう言ってみると、

「・・・・それを期待するしかなさそうだな」とだけ言って黙り込んでしまった。


「僕の独断では決めかねないので、ちょっと電話して聞いてみてもいいですか?」

「うん! ねぇねぇ水樹君、その部長って怖い人なの?」


「怖い人じゃないですよ。むしろ少し天然って言うか楽観的って言うか。

フリーダムって言うのかな?

うーん、難しいんですけど、今の言葉が全て似合う人ですね」


「なるほど……」


その言葉を聞いて尚更ワクワクしてくる。

スクラップに会いたいんだもん! 時間や空間を移動したいもん!

とにかく、水樹君達が行っているクラブ活動に沢山魅力を感じたんだ。

手伝えるものなら是非手伝いたい。


それにね、少しだけだけど戦いたいって気持ちもあった。

人間界にいると思うがままに戦う機会なんてないからね。

それが人間界のよさではあるんだけど、やっぱり退屈になって来てしまう。


「物騒なこと考えんな~」

「え?」

「戦いたいって」


「ああっ、そっか、聞こえちゃうんだ!」

「そうそう。だから、気をつけた方がいいぜ?」

「……うん」


最もなことを言われて素直に落ち込む。


こんなことを言ったら亜修羅達は「怖い」って言うんだ。

だから思うだけで、出来るだけ口にしないようにして来た。

でも、竜君の前ではそれすらも通用しないんだからね……。


「大丈夫だ、俺は怖がったりしねぇよ。なんせ、道行く人全員の声が聞こえんだぜ?

中には恨みを抱えてたり殺す殺すって連呼している奴だっているんだ」


「そうなの?」

「ああ。後は、下品なこと考えてる奴もいんぜ」

「下品?」


「ま、お前とは無縁の話しだからな、うん。

想像出来る奴は出来るだろってことで、俺はあえて言わねぇよ」


「ええっ!?気になるんだけど……」。

「おっ、電話が終わったみたいだぜ。じゃあな!」

「あっ、ちょっと!」


なぜか突然話しを切り上げると、そのままキッチンの方へ早歩きで行ってしまった。


僕は何がなんだかさっぱりわからなくてため息をつくけれど、

最終的にはいいや! と考えることを放棄した。

たまにはこう言うことも大事だよね!


「『現時点で決断を出すことは難しいけど、一応来てください』って、部長が」

「ほんとっ!? やったーー!!」

「俺は行かない」

「ダメだよ! みんなで行こうよ!」

「嫌だ!」


亜修羅は全力で自らの気持ちを告げると、

僕が止める間もなく階段を上って行ってしまった。


「……そんなに嫌だったのかな?」


「疲れてるんじゃないでしょうか?

最近はドタバタしていることが多かったのでゆっくりと休みたいのでは?」


「あーっ、確かにね!……しょうがない。ここは三人で行こう!」

「ええっ!? ぼっ、僕も強制参加ですか?」


「もちろん! ね、水樹君、いいでしょ?」


「はっ、はい、多分……」

「それじゃあ、僕達の学校にご案内します」


月野君は早々と立ち上がり玄関の方へと行ってしまうので、

僕らは慌ててその後を追いかけた。


本当はもう一回だけ誘ってみたかったんだけど、

みんなが動き出しちゃったんだからしょうがないよね。

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