魔界の国宝 雷光銃編 意外な一面
楠の車が大きなドームの前で止まる。
そのドームは、東京ドームを十個分並べたぐらいの広さがある。・・・・こんなところでやるのか?
「ここが会場です」
「大きなドームですね」
「ええ。我が楠建設一番の出来ですからね」
さりげなく宣伝をした後、俺達を車から降ろし、ドームの中に促す。
余程自らのドームを自慢したいのか、時間がないのかと、どちらかだろう。
入り口は自動ドアで、中は、これもまた大きなホールだった。
まだ人がまばらにいるからいいが、人が誰もいなかったら、大きさに威圧されてしまう。
「どうですか?」
「凄いですね!何だかワクワクします!」
「そうですか。それはよかった。ささっ、受付はこちらです。受付で登録をした後、部屋の鍵をもらえるから、その鍵の部屋で休むといい」
楠は去り際にそう言うと、そそくさと走って行った。妙に動きが小さい奴だ。小心者と言うのか?
受付はホールのど真ん中にあり、長い机に二人の女が座っていた。
あんなど真ん中にいて、寂しくならないだろうか?普通だったら、少しは嫌になるだろうな。
「あの・・・・トリックバトルに出たいんですけど・・・・」
「トリックバトルトーナメントの出場者ですね?では、ここにチーム名を書いて下さい」
「ちっ、チーム名?」
桜木が、想定外と言うようにこちらを振り返る。
俺は、顔を合わせないようにそっぽを向く。
凛はと言うと、再び髪を触って来る。いい加減慣れて来たが、あまり心いいものではない。
「おい、だから触るなって!」
「シャンプーのCMに出てみればいいのに。と言うか、むしろ・・・・。亜修羅って女だったり・・・・」
「するかよ!何で髪から俺が女だと言う結論にたどり着く?おかしいぞ!」
「いや、そうとしか思えないほどだからさ」
「あの、チーム名・・・・」
「だからってな、俺がどうして女になるんだ?」
「別に変な意味はないけどさ」
「だから、チーム名・・・・」
「変な意味がなくても、俺はそう思われるのは嫌だ!」
「チーム名は『犬神!』」
「わかりました。犬神ですね」
全く話がかみ合っていない気がするが、気にしないでくれ。
俺は、髪のことを話していた。桜木は、チーム名のことだ。ことがゴチャゴチャするようになったのは、凛が鞍替えをしたからだ。
「おい、何で犬神なんだよ?」
「だって、妖狐よりかっこいいじゃないか」
「ふん、ナルシストが。自分がかっこいいと思ってる大バカ者め」
「そんなんじゃないもん!亜修羅みたいに、自分の髪をそこまで丁寧に手入れしてないもん!」
「俺だって、そんなこと一度もしたことないぞ。何も知らないくせに、知ってる風に言うなよ!」
「二人とも、行きますよ」
「どこに?」
「部屋ですよ」
「僕達、後で行くから!」
凛がそう言った途端、空気が一変して冷たくなった。空気中の成分が、全て凍りついたような感じだ。
「みっともないですよ。行きましょう」
「はい・・・・」
「・・・・」
桜木の威圧に、俺と凛は怒りが冷めて、冷静になる。普段怒らない奴を怒らすと怖いって言うが、桜木の場合、怖いどころじゃない。それ以上の何かがあるんだ。何かはあえて言わないが。
「すみませんでした。騒いでしまって」
「いいのよ」
受付の女に謝ってから、先に鍵を持って歩いて行く。
その後を、少しビビリながら歩いて行く。
あいつ、怒らせるとヤバイな。
「亜修羅、さっ、桜っちが・・・・」
「ああ」
「何か話しかけてよ」
「何で俺が話しかけなくちゃいけない!お前が話しかけろ!!」
「でも、僕、怖いよ」
「俺だって嫌だ」
小声で言い合いをしていると、不意に桜木が振り返った。しかし、もう怒っていない様で、辺りの空気が冷たくなることはなく、正常なままだった。
「あの・・・・もう怒っていませんので、そんなに恐縮しないで下さい。そんなに怖かったですか?」
無言で思い切り首を縦に振る。凛も同様、硬く口を結んだまま、思い切り縦に首を振っている。
「脅すようなことをしてすみませんでした。大して怒っていた訳ではないんですけど、ちょっとムッとしたぐらいで・・・・」
こいつ、ムッとしたぐらいであんなに怖くなるのかよ?それに、普段はムッともしたことがないのか?いや、今のあいつに反論したら、いいことは起きないな。やめておこう。
「じゃっ、じゃあ・・・・、もう怒ってないの?」
「はい。怒ってません」
「本当?」
「はい。滅多に怒らないと言われてるので。その分、怒ると怖いと友人に言われました」
「そっか、今はとりあえず怒ってないんだね?はぁ、ちょっと気が抜けた」
張り詰めていた空気が溶けて行き、元の空気に戻る。
桜木にはあまり感じないんだろうけど、空気を操る力か何かを持っているんじゃないか?それぐらい空気が変わるぞ。
「まぁ、さっきのことは忘れて下さい」
桜木と付き合っている限り、一生忘れない出来事になったと思う。そう簡単に忘れることは、不可能に近い。
「ねぇ、どんな部屋かな?」
「俺に聞くなよ」
「桜っちはどう思う?」
「・・・・普通の部屋なんじゃないでしょうか?特別汚くもなく、綺麗でもなく・・・・」
「そう言えばさ、どうして部屋なんかあるんだろうね?ちょっとしかいないはずじゃないのかな?受付のお姉さんの言葉だと、何だか、しばらくそこにいることになるようなことを言っていたような・・・・」
「はい。そうしっかりと言ってましたよ。それに、手ぶらのようですが、何か必要なものはありますか?って聞かれましたから、一応日常生活で必要なものをお願いしますと言ったら、住所を聞かれました。きっと、持って来て頂けるんだと思います」
「おい、待て!俺は、銀行には金を預けてないんだぞ?そいつらが泥棒だったら、全財産盗まれることになるんだぞ!?」
「そっ、そうなんですか?何で銀行に預けないんですか?」
「銀行強盗とかいるだろう?だから、自分で守った方が安全だと思ったからだ」
「きっと大丈夫だよ、信用しようよ」
凛が凄くのんびりとした声で言うから、イラッとする。人間界なんか、金さえなければ生きていけないんだぞ?
「なに呑気なことを言ってるんだ?」
「もしお金を盗まれたところでさ、まだ何でも屋の仕事をしてるんだったら、生きていけるじゃん。前よりはお金を溜めるのが大変にしても」
「おい、働くのは俺なんだぞ?金がなくなった時は、お前等も何でも屋じゃなくてもいいから働け!同じ住人として」
「でも、中三ぐらいってさ、あんまり請け負ってくれないよ?」
「じゃあ、俺の仕事を手伝え。俺なんかな、十六で一つの仕事を一人でやり切ってるんだ。凛達も手伝った方がはかどるに決まってる」
「ええぇ~~」
嫌がる凛を無視し、本当に金がなくなった時は、無理矢理にでも手伝わせると決めて、廊下を歩く。こいつらは、(特に凛は)俺を保護者みたいに思ってるけどな、俺だって、まだ現役の高校生だ。
しかも、一歳しか歳が変わらないのに、俺は働いて、凛達は遊んでと言うのは明らかに不幸だ。たった一歳年上なだけで。
後ろでブツブツ言っている凛を無視して、鍵の番号の部屋を見つけた。見た感じだと、そう広くもないように見える。しかし、ドアが小さい。俺の身長と差ほど変わらない。
「うわぁ、このドアちっちゃいね。亜修羅の身長と差ほど変わらないんだけど。部屋もこれくらい小さいのかな?」
「いえ、ドアが小さくても、部屋は広いってこともあるかもしれません。でも、こう見ると、修さんが大きいのか、ドアが小さいのかわかりませんね。修さんは小さくはないと思うんですけど・・・・。でも、ドアが小さいと、不思議な気分がします」
俺は、未だに桜木の言動に警戒を示しているが、凛は怒っていないとわかった時点で、いつも通りに接している。ある意味、そこは凛の凄いところだと思う。
「取りあえず、考えるよりもさ、中に入っちゃおうよ。そっちの方が考えるより簡単だし」
「そんなに単純でいいのか?」
「大丈夫大丈夫。受験勉強みたいに眉間にしわを寄せて考え込むなんて嫌いだよ」
「そう言えばお前ら、受験勉強はいいのか?もう十一月だぞ?」
「大丈夫。高校に行くつもりはないしね」
「はい。僕も行きませんから」
「じゃあ、俺も高校を中退しようか。いい加減飽き飽きして来たところだしな」
「僕らだってさ、義務教育って言う制度がなければさ・・・・。いいな亜修羅は。高校生は義務教育じゃないから、無理に行くことはないんだもん」
「そんなことより、さっさと部屋に入るぞ」
たまたま、人間界に来たのが十六の時なのだから、仕方がない。
凛につべこべ言われる筋合いもない。(まぁ、これはつべこべとは言わないだろうが)
そう割り切って部屋の中に入った。