表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
465/591

サバイバルが起きるほど美味しいらしいです

「悪い子じゃない・・・・か」


帰り際、美香達に言われた言葉を思い出す。

最初は、栞奈さんのことをあまりよく思ってなかったみたいだけど、

少し遊んだら、誤解は解けたようだ。


それは素直に嬉しいと思う。私も、栞奈さんのことはいい子だと思ってるから・・・・。


ふと時計を見上げると、時刻は12時を過ぎており、ため息をついた。

学校のある日は、遅くても11時には寝るようにしてるんだけど、

今日は、大幅に時間をオーバーしてしまった。


それなのに、全然眠くならない。

もうパジャマにも着替えて、いつでも寝られるように、

電気だって手元のランプしかつけてないのに、目が冴えちゃって全然眠れないんだ。


「こう言う時は・・・・」


おじいちゃん達はとっくに眠っていると思うので、

出来るだけ音を立てないように静かに階段を下りると、台所に向かう。


昔、おばあちゃんに教えてもらったんだ。

夜眠れない時は、ホットミルクを飲むといいって。

今は丁度体が冷えてるから、きっと体が温かくなって、ぐっすり眠れるかもしれない。


小さな声で鼻歌を歌いながら牛乳をコップに注いでいた時、

ピンポーンと言う音がして、私は首をかしげる。

さっき見た時計の記憶が正しければ、時刻は十二時過ぎ。

さすがにこんな時間に人が訪問してくるなんて・・・・。


そう思って再び作業に戻ろうとすると、再びピンポーンと音が聞こえた。

しかも、相手はかなり気が競っているのか、何度もインターホンを押して、

家中に、「ピンポンピンポン」と響いている。


このままでは二人を起こしちゃうかも知れないので、

慌てて椅子にかけてあったカーディガンを羽織ると、駆け足で玄関に近寄る。


しかし、直ぐに開けることは出来なかった。

だって、もしかしたら相手が泥棒だったらどうしようって思ったんだもん。

でも、私の家にはドアの外を覗ける覗き穴はないから、チェーンをかけてドアを開ける。

すると、その先には不機嫌そうな聖夜君が立っていて、びっくりした。


「遅い!」

「あれ?聖夜君、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、遅い!凍える!」

「あっ、うん。わかった。今開けるね」


急いでドアを開くと、更に驚いた。

だって、聖夜君の他に有澤君と、白衣を着た男の人が立ってたから。


「えっ、えっと、どうしたの・・・・?」

「ごめんな、聖夜が無理やり連れて来て・・・・。おい、聖夜、帰るぞ!」

「ダメだ!僕はしばらく休まないと歩けない!」

「そんなわがまま言うなって。ほんとにごめん、石村さん」

「あっ、うっ、ううん。大丈夫。とっ、とりあえず上がって?寒かったでしょ?」


まだ状況は把握出来ていないものの、とりあえずは三人を家の中に上げる。

すると、聖夜君が走るようにストーブの前に立つと、ため息をついた。


「全く、遅いじゃないか」

「ごめんね。気のせいかと思って」

「気のせいじゃない!」

「ほら、聖夜、あんまりでかい声出すなよ。家族が寝てたら迷惑だろ?」

「うるさい!」


聖夜君はそう言って反発したものの、迷惑だと思ってくれたのか、

その声はさっきよりも格段と小さくなっていた。


「えっとさ、どうしたの?こんな時間に」

「うん。遊びに来た」

「えっ?」

「遊びに来たんだ」

「そっ、そっか・・・・」


私は苦笑いを浮かべながら、ずっと話さない白衣の男の人のことをチラッと見る。


どんな人なのかもわからないから、

下手に話しかけることも出来ないんだけど、不思議な人だ。


だって、わんちゃんを抱えてる。白衣にわんちゃん・・・・獣医さんかな?


ジーッと見ていると、私の視線に気づいたのか、その人が私の方を振り返ったので、

慌てて目を逸らす。


すると、いつの間に隣にいたのか、

聖夜君が服の袖を引っ張ってきて、こそこそ話しをする。


「あれからどうなった?」

「え?」

「昨日のこと。上手く行ったか?」

「あっ、うん。おかげさまで・・・・」

「そうか!それはよかった」


聖夜君がうんうんとうなずいた時、どこからともなくお腹の鳴る音が聞こえて、

私は聖夜君の方を向く。

すると、少し照れたような様子で後ろを向いた。


「もしよかったら、何か食べる?」

「いいのか!?」

「うん。聖夜君にはお世話になったからね。あっ、肉じゃがだけど、いい?」


「肉じゃが?」


「食べたことない?」

「うむ。興味深い」

「そっ、そっか」


まさか、肉じゃがを興味深いと言われるとは思ってなくて、

苦笑いを浮かべた後、有澤君と獣医さんに椅子を勧めた。


「あの、これから肉じゃがを温めるんですけど、食べますか?」

「えっ、いいの?」

「うん。聖夜君の分もあるから、全然大丈夫だよ」


「でっ、でも・・・・」

「んじゃ、4人前よろしゅう」

「えっ、あっ、あの、でも、三人しか・・・・」


「えーじゃんも食べるんじゃ」

「そうだよ!」

「ええええっ!?」


色々な驚きが一気に襲って来て、一瞬目の前が暗くなった。

しかし、それを有澤君が受け止めてくれて、お礼を言う。


「赤槻さん、そんなに一気に言われたって、きっと戸惑いますよ?」

「ん?知り合いじゃないんか?」

「ううん。僕の知り合いだ」

「なら、知ってるんじゃろ?」

「いやいや、俺も今日まで知らなかったんだから・・・・」


三人のやり取りの間、赤槻さんに抱えられていたワンちゃんは、

私の方に走ってきたかと思ったら、話しかけて来た。


「びっくりさせちゃったらごめんなさい。僕は、マスターから生み出されたんだ」

「えっ、ちょっ・・・・もしかして、機械?」

「はい。それで、僕も肉じゃがと言うものを見てみたくて・・・・」

「俺も初めてじゃから、興味あるんよ」


まさか、ここにいる4人のうち、3人が肉じゃがを知らないなんて、とても驚きだ。

肉じゃがって、結構代表的な料理だと思うんだけどな・・・・。


「あっ、俺は知ってるよ?」

「うっ、うん・・・・」

「日本食なのか?」

「そっ、そうだよ?」


「日本食のシェフは、そんなもの作ったことないぞ?

哉代の方こそ、どうして肉じゃがを知らない?」


「俺は、いつもコンビニ弁当もしくは通販で買ったご当地グルメじゃ。

肉じゃがなんて、知らん」


「偏った食事はよくないぞ」

「大丈夫じゃ。ちゃんと栄養ドリンク飲んどるからな」

「ほぉ、意外と健康に気をつかってるんだな」

「当たり前じゃ。医者が栄養失調なんて、シャレにならん」


二人の様子からして、かなり仲がいいことは伺えるけど、

有澤君はどうにもそこに馴染めていないようで、私の方に近づいて来た。


「もしよかったら、手伝おうか?」

「あっ、ううん。大丈夫だよ。今温めるから、待っててね!」


気を回してくれた有澤君にお礼を言うと、急いでキッチンに向かう。

そこで、コップに入れた牛乳を見て、自分が何をしに下りて来たのか思い出す。


そのコップは、とりあえずラップをして冷蔵庫に入れると、

肉じゃがの入ったタッパーを取り出す。

聖夜君達がどのくらいの量を食べるかわからないから、とりあえず全部を鍋に入れる。

かなり多めに作ったから、いつもなら2日は持つはずなのに、もうなくなってしまった。


「それが肉じゃがですか?」

「うん。そうだよ」

「美味しそうなにおいがしますね!」

「そっ、そうかな?そう言ってもらえると嬉しいかも!」


私が笑うと、驚くことに、ワンちゃんもニコーッと笑ったんだ!

その顔があまりにも可愛くて、

私は鍋を放り出して、ワンちゃんを撫で撫でしてしまった。


「どっ、どうしたんですか?」

「ううん、なんでもないの!」


「うっ、うーん。僕、マスター以外の人にこんなに撫でられたの初めてだから、

なんだか凄く照れます・・・・」


そんな顔もまた可愛いくて、抱きしめたくなってしまう。

私はもともと、そこまで犬好きってことはないんだけど、この子はとてつもなく可愛い!

表情が人間みたいにわかりやすくて、

ロボットだって言うのに体がとっても温かくてやわらかかった。

毛並みもとてもよくて、とにかく可愛い!!


「おっ、よかったな、えーじゃん。石村さんに撫でてもらえるなんて」

「うっ、うん・・・・。でも、恥ずかしいよぉ・・・・」

「なんだ、えーじゃん。僕が触った時は全然平気な顔してたじゃないか」

「そっ、そりゃ、聖夜のことは知ってるからさ」


どうやら、このワンちゃんの名前は、えーじゃんと言うらしい。

なんだか不思議な名前だけど、可愛いよね?


「なんだと!友美だって知り合いじゃないか!」

「べっ、別にいいじゃないか!」


「ああ、喧嘩すんな。

聖夜、えーじゃんは犬とは言え、オスなんだよ。だから、しょうがないんじゃ」


「僕も男だぞ!」


聖夜君があまりにも堂々と言う為、赤槻さんはそれ以上何も言わなくなった。

多分、赤槻さんが言いたかったことって、そんなことじゃないと思うんだけど・・・・。


その時、ふと肉じゃがのにおいが漂って来て、私は火をつけたままのことを思いだす。


「あっ、大変!」


慌てて立ち上がると、鍋のふたをあける。

幸いなことに、肉じゃがは焦げてる様子もなく、ホッと胸を撫で下ろす。


冷めないうちにお皿に盛り付けようと動いている時、ふと聖夜君の家のことを思い出す。

聖夜君の家はとてもお金持ち。お金持ちってことは専属のシェフがいるんだと思う。

そんな子が私の肉じゃがを食べるんだ。そう考えたら、なんだか緊張して来てしまった。


「大丈夫?」

「うっ、うん、大丈夫!」


えーじゃん君にそう告げると、意を決して肉じゃがを運んで行く。

すると、えーじゃん君もキッチンから出て来て、赤槻さんの隣の椅子にお座りをした。

それを見て、とてもおりこうさんな子だなと認識する。


「これが、『肉じゃが』と言う食べ物なのか?」

「なんじゃ、肉とじゃがじゃな」

「美味しそうなにおいだね!」

「おっ、美味しそう!」


みんなそれぞれ違う反応を示したけれど、食べる時は面白いぐらいに同時だった。

せーのって合わせてないのに、一斉に「いただきます」って言って食べ始めたんだ。

えーじゃん君を除いて。


「どう?美味しい?」

「おお、これは中々じゃな。食べたことない味じゃ」

「いいなぁマスター。僕も食べたい」

「ダメだぞ、えーじゃんが食ったら壊れる」

「わかってますよー」


そんなことを言いながら悲しそうに肉じゃがを見つめるえーじゃん君の様子を見て、

もしかしたら私は、随分と酷いことをしちゃったのかなと申し訳なくなる。


「美味しい!」

「ほんと?」

「うん、お金払っても食べたい味だね!」

「そっか!ありがとう!」


大げさとも思えるほどに褒めてくれた有澤君に対してお礼を言う。

たとえお世辞だとしても、その気持ちが嬉しい。お世辞じゃなかったら、更に嬉しい!

やっぱり、自分の作ったものを人に食べてもらえるなんて、嬉しいことだよね!


チラッと聖夜君の方を伺う。

箸は進んでるみたいだから、まずくはなかったみたいだけど、やっぱり言葉が気になる。


しかし、聖夜君は私の視線に気づいていないようで、モクモクと肉じゃがを食べている。

その様子に変わりはない。

まるで、食べることに集中してるみたいで、有澤君が何度話しかけても答えない。


そんな様子を、私はずっと見ていた。

すると、急にえーじゃん君の方に身を乗り出したかと思いきや、

目の前においてあるお皿を取って、更に食べ始める。


「おお、凄い食欲じゃな」

「ああっ、僕の肉じゃが・・・・」

「あっ、じゃあ、入れてこようか?」


「ううん、大丈夫」

「おかわり!」

「えっ!?もう食べちゃったの?」


「うん、美味しかった!僕はこんなに美味いものを食べたことがないぞ!」

「そっ、そっか、よかった!」

「うん。おかわり!」


聖夜君にお皿を突き出されて、私は笑顔でそれを受け取ると、肉じゃがを入れた。

しかし、それも直ぐに無くなって、また入れて・・・・。


そんなことを繰り返してたら、鍋の中はすっかり空っぽになってしまった。

そのことを聖夜君に告げると、とてもがっかりした顔を浮かべたけれど、

ゆっくり食べていた赤槻さんや有澤君の肉じゃがを奪おうとし始めた!


しかし、二人も全力で盗られないように逃げ回るので、

夜中とは思えない騒がしさになってしまった。


「みんな、石村さんに迷惑かけちゃダメだよ!ね?」

「うっ、うん・・・・私は迷惑じゃないけどさ、周りの人達は違うかもしれないからさ」


「うん、確かにそうだ。

でも、友美の肉じゃがは、サバイバルが起きるほど美味しいんだ。

しょうがないと思う」


「そっ、そうかな?」


かつて類を見ないような褒められ方をしたものの、

聖夜君に褒められたことが嬉しくて、自然と口が笑ってしまう。

それを何とかしようと一人で格闘していると、騒がしい音がしなくなって、顔を上げた。

すると、赤槻さんと有澤君は無事に食べ終えたようで、

不機嫌そうな顔をした聖夜君が私の正面に座っていた。


「あっ、あのさ、また作るから、ね?」

「またっていつだ?」

「えーっと、聖夜君が食べたいなって思った時かな?」


「今食べたい」

「ええっ!?」


「でも、あんまり無茶を言うと怒られちゃいそうだから、我慢する。

でも、約束したからな、僕が食べたい時は作るって」


「うん!」

「よしっ、わかった。それじゃあ僕らは帰るとしよう」


聖夜君がそう言って立ち上がると、赤槻さんと有澤君も立ち上がり、

えーじゃん君は椅子から飛び下りた。そして、一斉に「ごちそうさま」と言った。

やっぱり、とてつもなく息ぴったりだ。


そんな様子に少しだけうらやましいなと思いながら、三人を見送った。


一人残されたリビングは、さっきとは打って変わって静けさが漂っており、

得体の知れない恐怖を感じた私は、

早急に皿洗いを済ませると、急いで自分の部屋に戻った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ