勘違いと思い込みと天然と・・・・
「やった!あがり!」
「えーっ、栞奈さん、もうあがっちゃったの?」
「うん!」
「カードゲーム得意なの?」
「うーん、どうだろ。昔から負けたことはなかったかな。カード運だけはよかったみたい」
「へぇーっ、凄いね」
そんな会話が女の子達の間で繰り広げられている。それがとても嬉しかった。
トランプをやって機嫌がよくなったおかげか、栞奈ちゃんの様子も普段どおりに戻った。
すると、石村さんのお友達さんも、
本当は栞奈ちゃんが怖い子じゃないってわかったみたいで、
普通の友達のように接せれるようになった。それがとても嬉しい。
「ね?僕の言ったとおりでしょ?」
隣に座っている亜修羅にボソッと話しかけてみるけれど、返事がない。
どうやら、こちらは相当ご立腹のようだ。
「怒ってるの?」
「怒ってない」
「じゃあ、どうしてそんなに不機嫌な顔してるの?」
「そりゃ、負け続きだからじゃないか?」
「・・・・俺は、カード運がないんだ。だから、嫌だったんだ」
「でもさ、栞奈ちゃんの悪い印象、取り除けてよかったんじゃない?」
「・・・・まぁ」
「それは誰のおかげ?」
「お前のおかげとは絶対に言わないからな」
僕の言いたいことが直ぐにわかったようで、食い気味に言った。
そんな亜修羅のことが憎たらしくて、後ろに手を回すと、背中をつねった。
「おい!何するんだ!」
「え?何にもしてないよ?」
とぼけてみると、亜修羅は、自分の隣にいる神羅の方を睨んだ。
どうやら、神羅がつねったと思ってしまったらしい。
「お前か」
「は!?俺、何にもやってないですって!」
「嘘つくな!」
「宗介だろ!」
「うっ、ええ?」
「ほらほら、喧嘩しないで。
せっかくみんなでワイワイ楽しくトランプやってるんだから」
「こいつが悪いんだ!それに俺はトランプが嫌いだ。カードゲームが大嫌いなんだ!」
「おっ、落ち着いてください!もう夜遅いですよ?」
「・・・・」
桜っちの言葉に亜修羅は黙り込むと、深いため息をついた後、座り直した。
その時、亜修羅の大声が聞こえてしまったのか、
階段を下りて来る足音が聞こえて来た。
「どっ、どうしたの?何かあった?」
「ううん、大丈夫!修がお騒がせしちゃってすみません。石村さんも、やる?」
「でも、まだプレイの途中じゃないの?」
「大丈夫!もう一度配りなおせば、修もごねることはないと思うから」
「おい、俺はごねた覚えは一度もないぞ」
「いじけたじゃん」
「いじけていたとしても、ごねてはいない」
「認めちゃうんですか・・・・」
「ほら、石村さん、おいで!」
「あっ、うん、それじゃあ・・・・」
石村さんをみんなの輪の中に入れて、再びトランプを配り始めようとした時、
玄関の方でガチャガチャと言う音が聞こえた後、おじいさんとおばあさんが顔を出した。
それを確認した僕らは、一斉に「おじゃましてます」と頭を下げた。
一瞬、亜修羅もやってるかなと不安になって横を向くと、
ちゃんと頭を下げてたからホッとする。
人間界に来て早三ヶ月。ようやく礼儀と言うものを覚えたらしい。
「おい・・・・」
僕の心の声が聞こえたのか、亜修羅の視線を感じる。
だから僕はごまかしの笑顔を浮かべると、ゆっくり目を逸らした。
「お友達が来ていたのかね、ゆっくりどうぞ」
「あっ、でも、もう遅い時間なので、私達そろそろ帰ります。
だから、どうぞお構いなく」
お友達さんがそう言うと立ち上がったので、僕らも、これを期に家へ帰ることにした。
「おじゃましました~!」
「いえいえ、何のお構いも出来なくてすみませんねぇ」
「そんなことありません!
僕達、晩御飯をご馳走してもらっちゃったので・・・・それだけで十分です」
「そうかい、それはよかった・・・・」
「はい。わざわざ見送ってくださってありがとうございます。
それじゃあ、おじゃましました」
わざわざ玄関までお見送りに来てくれた、
おじいちゃんとおばあちゃんにお礼を言うと、家を出る。
石村さんのお友達さんは、石村さんと少し会話をした後、
おじいちゃん達にお礼を言ってから、みんなで家を出て来た。
もう夜も遅いので、「女の子だけで大丈夫なの?」と聞いたら、
「大丈夫!」と返事が返って来た。
「でも・・・・」
チラッと亜修羅の方を見てみる。すると、目が合った。
僕がニコッと微笑むと、首をブンブン振ってそっぽを向いた。ダメか・・・・。
本当は、僕が送ってあげたい気持ちはある。ただ、問題が一つある。
それは、外見的な意味で男の子ってわからないから、
僕が一緒にいても、変な人に話しかけられる可能性が高いってこと。
もしものことがあった時に守ってあげることは出来るけど、
見た目が女の子みたいだから、話しかけられることはあると思う。
前に、僕が一人で歩いてた時、変な人に絡まれたことがあったから。
もちろん、女の子と勘違いされて。
その時は上手くおっぱらったけど、また絡まれるのは面倒だ。
だから僕は、亜修羅に頼んでるんだ。
「それじゃあ・・・・僕が送りましょうか?」
「え?そんな、悪いからいいよ」
「でも、やっぱり女性だけでは不安ですし・・・・。
治安が悪いことはないですが、やっぱり夜も遅いので・・・・」
桜っちがそう申し出た時、亜修羅がため息をついた。
「わかった。俺が送ってやるから。お前らは、さっさと竜のところへ帰れ」
「おおっ、わかってくれたかい、修!」
「確かにそうだと思ったからな」
「いっ、いいの?」
「ああ。行くぞ。出来るだけ早く帰るんだからな」
亜修羅はそう言うと、
アタフタしているお友達さんと栞奈ちゃんを置いて、歩き出してしまった。
僕らは、女の子達が亜修羅のところに走っていくのを見届けた後、
反対側の方向へと歩を進める。
「・・・・なんか、あの様子、女を沢山連れた社長みたいだな?」
「確かに!」
「・・・・うーん」
「あれ?どうしたの?」
「修さんに負担をかけてしまったかなと思いまして・・・・」
「大丈夫だよ!あっ、ねえねえ。
桜っちはさ、夜中に一人で歩いてる時、変な人に絡まれたことある?」
「あっ、はい。昨日、怖い人に絡まれました」
「いや、そう言うんじゃなくて、女の子と間違えられるとか・・・・」
「・・・・ないと思いますけど?」
「えーっ」
驚愕の事実に開いた口がふさがらなくなる。桜っちも、僕と同じようなタイプの子だ。
だからてっきり、女の子と間違えられて、
話しかけられたこともあると思ってたんだけど・・・・。
「凛の方が女っぽいってことだな!」
「そうなんだ!まぁ、落ち込みはしないけど!慣れてるからね!」
「そっ、そうですね!プラスに考えましょう!」
僕らの考えの何かがおかしかったのか神羅が笑うけれど、
僕らはそれについて言及しなかった。
「そう言えばさ、僕達の家、どうなったかな?」
「見てみるか?」
「家の様子も見えるの?」
「ああ」
「じゃあ、お願い!」
「りょーかい。・・・・ん?もう完成してるな」
「え?って言うことは、明日にでも帰るのかな?
亜修羅のことだから、明日にでも帰るって言いそうだもんね」
「そうですね・・・・。
となると、竜さんの家で過ごせる時間は、後わずかってことですね・・・・」
「えーっ!?やだよー!僕、もっと竜君のところにいたい!あそこ、天国だもん!
亜修羅が厳しい変わりに甘やかしてくれるから、天国なんだもん!」
「んなこと言っても、あんまりわがまま言うのはよくないんじゃないか?」
「うーん・・・・。無念!悲しい・・・・」
「そうですね、なんだか寂しいですね・・・・」
「・・・・そうだよなぁ」
しんみりとした空気になって、そのまましばらくの間沈黙が続く。
遠くで車の走る音が聞こえるだけで、それ以外は、ほとんど音が聞こえない。
「・・・・そういやよ、魔界の国宝の片割れ、どうなんったんだよ?」
「え?」
「ほら、凛や明日夏はもらってたじゃんか。魔界の国宝の片割れ」
「ああ、あれね!天華乱爪。
あれね、僕が人間時、もしくは犬神の姿の時には現れない武器なんだよね。
逆に、エンジェルの時は、冥道霊閃が現れないんだけども」
「明日夏のは?」
「はい・・・・。実は、一度も月下遊蘭の姿を見たことがないんです・・・・」
「ええっ!?一体どんな入手の仕方をしたの?」
「えーっと、気がついたら不思議な世界に飛ばされていて・・・・
月下遊蘭と名乗る人と会話をした後、最終的にはその人と戦って、
勝つことは出来たので、認めてもらえたんですけど・・・・。
元の世界に戻っても武器を持っている訳でもなく、
僕の手元にある武器は、雷光銃だけなんですよね・・・・」
「ええっ!?もしかして、その月下遊蘭を名乗った人って、偽者なんじゃない?」
「うーん、どうなんでしょうか・・・・。
武器の形も見なければ、『月下遊蘭』と言う名前も初めて聞きましたし・・・・。
よくわからないんです」
「僕の場合、冥道霊閃は普段の姿でも、意識すれば・・・・ほら」
手に意識を集中させると、今まで姿を消していた冥道霊閃の姿が現れる。
桜っちの方に促してみると、同じように雷光銃は出て来た。
でも、月下遊蘭は何度やっても現れない。
「嫌われてるんでしょうか・・・・?」
「うーん、僕、冥道霊閃と天華乱爪ともに仲良くないけど、操ることは出来るよ?
だから、好きとか嫌いとかは関係ないと思うんだけど・・・・。
亜修羅はどうなんだろう?」
「族長は、国宝の片割れじゃなく、技を受け取ったみたいなんだ」
「ええっ!?なんか、ずるくない?」
「んー、俺は、刀がもらえない代償として技を受け取れたと踏んでる」
「・・・・そんなもんなのかな?」
「だと思うぜ」
「・・・・そう言えば、僕だけ雷光銃と会話してないですよね?」
「あっ、そう言えばそうかもね!
試練って言う試練もなく扱えてるよね、うらやましいね!」
「僕、これから毎日、雷光銃と月下遊蘭に話しかけてみたいと思います!」
「きゅっ、急にどうしたのさ?」
「嫌われちゃってるのかと思って!
だから、毎日話しかければ、きっと姿を現してくれると信じてますから!」
桜っちはそう言うと、小走りで僕らから少しだけ離れると、
雷光銃を自分の顔の高さまで持ち上げて、何かをぶつぶつと話している。
その光景に、僕らは思わず吹き出してしまった。だって、なんだか不思議なんだもん。
でも、桜っちは、そんな僕らの様子には気づいてないようで、
一生懸命雷光銃に話しかけていた。
そんな姿を見ていたら、なんだか寂しい気持ちがなくなって来た。
「あれが、わざとじゃなくて本気だから面白いよね」
「そうだな。天然ってやつか?」
「そうかもね」
神羅の言葉に笑いながらうなずくと、暗く晴れた空を見上げた。