魔界の国宝 雷光銃編 ひょんなことから・・・・。
まず、言いたいことはただ一つ。玖未子の免許は取り消しだ。
こんな危ない運転をする奴に、車の免許を持たせておいては危険だ。実際、都会に着くまでに死にそうになった回数は、三十六回。無論、生きた心地がしなかった。
「何回も死ぬかと思った・・・・」
「・・・・」
「慣れている僕でさえですからね」
お互い、口数が少ない割りに、互いの気持ちをはっきりと理解することが出来た。
この車に乗って、唯一無事な人間は玖未子だけだ。一人あっけらかんとしている。
「こっちよ」
道の先を行く玖未子を見失わないように歩く。
しかし、目が回ったように視界が回って見えるから、それも苦難の技だ。玖未子はよく平気でいられる。
大道りを渡り、小道に入ったところの階段を下りて行く。凛が言うには、変なおっさんが入り浸るところと聞いているが、見た目は殺風景で、そんなに面白みもなさそうだ。
階段を下りた先にあるドアの中は、何だか不思議なところだった。机と椅子が沢山並んでいて、それに負けないぐらい酒も棚に沢山並んでいて、明かりが妙にまぶしいぐらいに点いている。どうとも例えが思い浮かばない。
「ここのどこが面白いんだ?」
「さぁ?僕には大人の感性が理解出来ないよ」
玖未子に聞こえないように凛に聞くが、こちらもわからないらしい。大人の感性がわからないと言っても、人間の大人より、お前はもっと長生きしてると思うけどな。
「ここにあるものを、全て外に運び出してくれる?」
「あっ、はい。わかりました」
「じゃあ、私は行って来るわね」
玖未子が出て行こうとするところに、ドアが開き、大勢の女達が顔を見せた。誰も化粧が濃い。見てるこっちが気持ち悪くなりそうだ。俺は、あくまで化粧が濃い奴は嫌いだ。そもそも、妖怪は化粧なんかしない。
「あれ?その子達は?」
「前に紹介したでしょ?いとこと、その友達」
その発言の後の騒動は、話したくない。身の毛もよだつ恐ろしいものだったとだけ言っておこう。話すだけで失神しそうだ。
「じゃあ、行って来るわね、よろしく!」
「行ってらっしゃい」
桜木が見送った後、やっと静かになった。これで、しばらくの間は命が保障された。
「あの、ごめんなさい。何だか大変なことになってしまって・・・・」
「まぁ、桜っちが気にすることはないよ。さっさと運び出しちゃおう。あっ、そうだ!僕ら、このままの姿でやるの?」
「多分、人は来ないと思いますので、妖怪の姿に戻りたかったら戻っても大丈夫ですよ」
「じゃあ、戻ろっと」
言うや否や、犬神の姿に戻っている凛は、短気と言うべきか、行動派と言うべきか・・・・。
「亜修羅は?」
「俺は、妖怪になったからと言って、凛ぐらいに力が強くなることはないからな」
「でも、一応なれば?」
「いや、いい」
「どうして?」
「凛は、どうして妖狐の姿にこだわる?」
「何でだろうな?でも、とにかく!」
半ば強引に言われて、仕方なく妖狐の姿に戻る。どうしてそこまで凛が妖狐の姿にこだわるのかがわからないが、取りあえず戻ってみる。大して変わらないんだけどな。
「そう言えば、王子様のイメージって、どんな感じ?」
俺を見るなり、ふと思い出したように問うて来る凛。
俺のどこから王子様の話なんて取り出したんだ?第一、何で王子様だ。
「さあな、知らん」
「白馬の王子様・・・・と言う感じでしょうか?」
「そうだよね、白馬に乗った王子様が助けに来てくれるって言うのが、大体の乙女の夢だよね。それで、白馬の王子様って金髪のイメージがあるんだよね。桜っちはどう?」
「僕もそうですね」
「おい、待て。何で白馬の王子の話になる?俺が金髪なのと、何か理由があるのか?」
「たまたま金髪を見たから聞いてみただけ。さあ、仕事!」
自分から話しかけておいて、話を断ち切る凛。
自分勝手な奴だと思うが、何だか憎めない。と言うか、もう慣れてしまっている。
「まずは、何から運んだ方がいいのでしょうか?」
「大きいものとか?」
「そうですね、大きいものから順に運んで行きましょう」
――それから十分後。
そこは、さっきとは比べ物にならないぐらい、綺麗さっぱりとした場所になっていた。
普通の人間なら、一日以上はかかるであろう量の荷物を、十分で片付けたのだ。
「これからどうすればいいんだ?」
「何かやってようよ」
「やるって、何をだ?」
俺がそう問いかけると、凛が髪を触って来る。
「サラサラだね、髪の毛」
「やたら触るな」
「だってさ、何か、一度触ったらやめられないって感じ。シャンプーのCMに出られるんじゃない?」
そう言いながら、嫌がる俺のことなんか無視をしてやたら触って来る。そんなに髪をいじくりたいなら、自分の髪でも触ってればいいんだ。
「凛君も、さほどごわごわではないように見えますけど・・・・」
「うん。確かに、絡まってはいないけど、亜修羅の髪は一味違うんだよ」
「何が違うんだ?」
「触り心地」
そう言われた途端、なんとも言えない震えが体に走る。こいつはたまに、とても変なことを言うから、俺の体に震えが走るのだ。
「気持ち悪いこと言うな!」
「どこが変だって言うのさ?」
やたら髪を触って来る時点でおかしいと思うが・・・・。それを凛は理解していないにせよ、あまり気持ちのいいものじゃない。
「そもそも、触ってくる時点で変だ!」
「何て言うかさ、触ってると、フワフワのぬいぐるみを思い出す」
「俺は、ぬいぐるみの代わりなのか?」
「違う違う。髪が柔らかいってこと。こんな感じ、前にもあった気がするんだけどな・・・・」
凛が変なことを考え出す。
人の髪が柔らかいだのどうだのと言うことを普通は差ほど考えもしないだろう。しかし、凛は普通ではない。
そんな凛を無視して、桜木に話しかける。
「それより、何でいつも敬語なんだ?」
「いえ、そんな、敬語と言うか・・・・。確かに敬語ですけど。そんなに訳はありません」
「ねぇねぇ、『叩いて被ってじゃんけんポン』しようよ!」
「なんだよ、それ?」
「じゃんけんをして勝った人は、負けた人の頭を叩く。負けた人は、勝った人が叩くよりも先に防いだら勝ち。逆に、勝った人が先に叩いたら勝ち」
「そしたら、二人しか出来ないだろう?」
「いいんだよ、三人でやっても」
凛の申し出で、あんまりルールはわからないが、とにかくやってみる。
「じゃんけんポン!」
俺がグー、凛がチョキ、桜木がパー。
「あいこでしょ!」
今度は、俺がパーで、凛と桜木がチョキ。
凛が頭をバシッと叩く。桜木は遠慮をしたのか、叩いて来ない。しかし、凛は情け容赦なく、パシッでも、パチッでもなく、バシッと叩いたんだ。
「おい!何でそんなに力いっぱい叩くんだ!」
「だって、ゲームだもん。続きやるよ、じゃんけんポン!」
勝った!俺と桜木が勝って、凛が負け。
勝ったとわかると、凛を叩く。バシッと音がした。
「そんなに本気で叩くことないじゃないか!」
「お前だってそれぐらいの力で叩いたぞ?」
「違うよ!僕はもっと優しかったよ!年上のくせに年下をいじめて・・・・意気地なし!」
「お前に言われたくないな!」
「ちょっと二人とも、やめて下さい。他のことをしましょう?」
逆ギレする凛に、宥める桜木。自分から殴ってきたくせに、酷い奴だな。
「そうだね、他のことをしよう。でも、何をするの?」
部屋のど真ん中で丸くなって、お互いの顔を見る俺達。
さっきも、部屋の真ん中で騒いでいたのだ。態々真ん中を陣取らなくてもいいと思うが、何となく真ん中に集まったのだ。
「一緒に、トリックバトルはどうですか?」
不意にドアから聞こえた声に、驚きながらも見上げる。そこには、白衣を着て眼鏡をかけた、何かの研究員か何かのような奴だった。
「あの・・・・どちらさまですか?」
「楠と言う者だよ。どうだね?やって見ないかい?」
「やります!面白そうだし!」
「バカ!勝手に決めるな!!」
即答した凛を押さえつけ、よく考える。今、俺達は妖怪の姿をしている。それを見て驚かないなんて、こいつも妖怪の可能性がある。と言うことは、凛の持っている冥道霊閃や、天華乱爪が目当てで近寄って来ているだけかもしれないからだ。
「何か怪しくないか?」
「そうですね、こんなところに入って来るなんて」
「でもさ、そんなに人を疑っちゃダメじゃん!」
「じゃあお前は、一人で対処しきることが出来るのか?」
「大丈夫。今度の主人公は桜っちだから」
「なんでそう言い切れるんだ!」
余りにも能天気な凛に、苛立ちを隠せない。
自分だって狙われるかもしれないのに、今度の主人公は僕じゃないとか訳のわからないことを言い出すし。
「だって、僕はこの前冥道霊閃を手に入れたからね。もしかしたら、桜っちか亜修羅なんだけど、桜っちの身内が出て来るってことで、桜っちが主人公。だから、僕がどうにかなった時は、桜っちが助けてくれるよ」
「わっ、わかりませんよ!僕だって、凛君を守れるほど凄くないので・・・・」
「大丈夫。ねっ、様子を見て、マズそうだったら抜ければいいしさ、やろうよ!」
「ああ。じゃあ、自分の命は自分で守れよ?」
「了解!」
凛が、どうしても、そのトリックバトルと言うのをしたいと言うから、様子見として行くことにした。
「じゃあ、そのトリックバトルに参加させて下さい」
「OK。じゃあ、ついて来て。会場に案内するよ」
楠はそう言うと、出て行ってしまった。
「とにかく、様子見としてだからな」
「わかってるって♪」
「あの・・・・二人は、そのまま行くんですか?」
「仕方ないだろう、この姿を見られたんだからな」
「じゃあ、せめて耳は隠した方がいいですよ」
「そうだな」
桜木に言われ、獣耳を消す。と言っても、見えなくしただけで、そこにはちゃんと存在している。
「じゃあ、行こう!」
どうしても様子見とは思えない凛の態度に、ため息をつきながら追いかけた。