よくある・・・・ことでしょうか?
「・・・・はぁ」
ため息はいけないとおばあちゃんにいつも言われてるから、
いつもは出来るだけため息をつかないようにしている。
・ ・・・でも、今ばっかりは、我慢が出来なかった。
伊織君達が家に来た時、伊織君は栞奈さんと手を繋いでた。
それを見てしまった時、私の心の中は真っ白になって、思考を止めた。
その直ぐ後に、伊織君は顔をしかめて、小声で何かを言ってた。
その会話は聞こえたはずだと思う。距離は近かったから。
でも、頭の中が真っ白になっちゃって、何も聞こえてなかったのかもしれない。
気がついたら丘本君達も私達の横に立っていた。
だから私は、何とか動揺を抑えようと深呼吸をしながら、二人をリビングに入れた。
それからの会話は、あんまり覚えてない。
ふと気づいたら私はここにいて、今日作ったばかりの肉じゃがを温めてた。
シンクには山積みのお皿。
ここまでの記憶はあるから、きっと、伊織君達を迎えた時から記憶がなかったみたいだ。
「はぁ・・・・」
なんとも言えない敗北感に支配される。
だって、手つないでて、仲よさそうだし・・・・。もう手遅れなのかな・・・・。
「ほらほら、ちゃんと鍋見なきゃ、焦がしちゃうよ?」
「え?」
いつの間に私の隣に立っていたのか、優奈が私の肩をポンポンと叩いた。
そのおかげで、寝起きみたいにボーッとしていた頭が段々と冴えて来る。
「大丈夫よ、あの子、可愛いみたいだけど、性格は悪そうだし!」
「そっ、そうかな?」
「だって、凄く性格がきついじゃない・・・・。今も、友美のことずっと睨んでるわよ?」
「そっ、そうなの?」
「うん」
優奈に言われて、少しだけ後ろを振り返る。
すると、栞奈さんがまばたきもしないで、ずーっと私のことを見ていた。
睨んでるつもりはないみたいだけど、視線が鋭いから、正直に言うと、かなり怖い。
「とにかく、頑張ろう!
さっきのだって、なんだかあの女の子の方が一方的に掴んでたみたいよ?
『痛い』って怒ってたし・・・・」
「うっ、うん。わかった。頑張る!」
「ん。その意気!」
にっこり笑って私の肩を叩くと、優奈は再びトランプの輪の中に入って行った。
優奈にだいぶ勇気付けられた私は、気合を入れる為に両手をギュっと握ると、
二人のもとへ肉じゃがとご飯を持って行った。
ご飯は食べてくれるかどうかわからないから、少なめにしておいた。
時間も結構遅いから、もたれちゃ悪いなと思ってのことだった。
「どっ、どうぞ・・・・」
私が二人の前に今日の夕飯・・・・と言うか、肉じゃがとご飯だけを置くと、
再びもとの場所に座り直す。
二人とも、全く表情を変えない。それが、物凄く不安だった。
もし、栞奈さんが料理がとても上手だったらどうしよう・・・・。
私、そこまで料理が得意って方じゃないから、
まずいって言われちゃうかもしれないし・・・・。
私が不安を感じているまま、二人は食べ始める。でも、やっぱり何も言わない。
伊織君は、何かを考えているのか、何度か首を振っているだけで、
栞奈さんも懸命に何かを考えているようで、目をつぶっていた。
「ごちそうさま」
「うっ、うん・・・・」
栞奈さんはそれだけ言うと、無言で食器を重ねるとキッチンまで運ぼうとするので、
私は慌ててそれを止めた。
「わっ、私がやるからさ、栞奈さんは座っててもいいよ?お客様なんだし・・・・」
「世話になったんだから、これぐらいするのは当たり前よ。気に病むことはないわ」
「そっ、そっか・・・・あっ、ありがとう」
本当は、ここで素直に引き下がっちゃいけないんだと思う。
でも私は、栞奈さんにたてつくような勇気もなく、そのまま椅子に座っていた。
「・・・・本当は、いい奴なんだ」
「え?」
「栞奈のことだ。いい奴ではあるんだけど、少し不器用なところがあるんだ。
だから、きっと、ムカつくとか色々思ったかもしれないが、許してやって欲しい」
伊織君も、かなりの不器用じゃないかな?とか一瞬だけ考えた。
明らかに器用な方じゃないよね、うん。
「・・・・俺は不器用じゃない」
「なっ、えっ!?」
「顔にそう書いてあったからな。単純」
その言葉は、私の心を安堵で包んだ。
だって、私はわかりやすいって言われてるから、
もしかしたら、今まで考えてたこととか全部知られちゃってたのかな?
とか色々考えてたんだもん。
「わかってるよ、栞奈さんの気持ち、わかるから」
「わかるのか!?」
「え?えっと・・・・たっ、多分」
「そうか、凄いな。俺は、全然わからない。
あいつが考えてること、全然わからないんだ」
「そうなんだ・・・・。栞奈さんはさ、普段は普通の子なんでしょ?」
「・・・・そうだな。俺や凜達と接する時は普通だ。
でも、お前や一部の女にはやたらキツい態度をとる。
でも、それは、100パーセントではないみたいだ。
女でも、普通の時があったからな。・・・・よくわかったな」
「うん。栞奈さんがいい子だってことは知ってる。わかってるよ」
「・・・・そうか、ありがとな」
伊織君は、なぜかお礼を言ってくれた。
私が首をかしげると、小さなため息をついてたけれど、悪い意味のものでもなさそうだ。
「ごちそうさま」
「あっ、食器は私が持って行くからいいよ!」
「大丈夫だ。飯も食わせてもらった訳だし、
あいつらを受け入れて面倒まで見てもらったんだからな。これぐらいはする」
「めっ、迷惑はかけてないからね?」
「どうだか・・・・」
肩をすくめると、食器をもってキッチンの方へ歩いて行ってしまった。
私はその後姿を見て、改めてかっこいいなって実感する。
後姿を見ただけで、かっこいいってわかるんだもん。
・ ・・・これって、本当に凄いことだと思う・・・・。
その時、私はふと昔のことを思い出した。私が一番最初に伊織君と出会った時のこと。
私が一番最初に伊織君と会ったのは、横断歩道だった。
いつもみたいに、横断歩道を渡って学校に行こうとしていた時、見つけたんだ。
物凄くかっこいい人を。一目惚れだった。
向かい側に立っていて、私服を着ていた。
だから、その時は年上の人なんだろうなって思ってた。
信号が青になって、互いに進むべき方向に歩みを進める。
ドンドン距離が近くなることに私はドキドキして、目をつぶってた。
右側に、人が通り過ぎたような感覚がする。そうわかった途端、私は後ろを振り返った。
その時に見た姿と、今さっき見た後姿が、なんだか重なって見えたんだ。
あの時は、まさか再び会うことが出来るなんて思ってなかったから、
これで最後なんだろうなと思って、私は、その姿が見えなくなるまで見ていた。
そのせいで、私は遅刻した。遅刻原因を問われた時、さすがに、
「かっこいい人に見とれてて・・・・」とは言えなかったので、
「ねっ、寝坊しました・・・・」とシンプルに答えた。
遅れた時に使ういい訳として、最も定番なものだと思うから。
先生には怒られて、放課後に反省文を5枚書かされたけど、後悔はしてなかった。
私の頭の中は、今朝横断歩道で会った人のことばっかりで、
授業もまともに聞けなかったり、人の話を聞いてなかったり・・・・とにかく大変だった。
その日の夜は、どうか再びあの人に会えますように!ってひたすら願って、
夢の中にまであの人が出て来た。
次の日の朝も、もしかしたらまた同じ時間にあそこに行ったら会えるかなと思って
同じ時間に出たけど、もちろん、出会えるはずもなく、
それからしばらくの間同じ時間に家を出たけれど、あの人には会えなかった。
今日会えなかったら諦めようと思ってた私は、
その日を境にその時間に家を出るのをやめた。
そして、その人のことも出来るだけ考えないようにしようと諦めて外に出た。
・ ・・・そこで、みつけた気がしたんだ。
私の通ってる高校の制服を着ていたから、最初は人違いかなって思ってたんだけど、
顔を見た時、そうだってわかった。
その途端、私は話しかけていた。
年上とか年下とか関係なく、とにかく、同じ学校であることが嬉しくて、話しかけた。
それが、伊織君にとっての初接触だったと思う。
私は、横断歩道ですれ違った時から覚えてるけど、伊織君は覚えてないみたいだし。
「伊織君のこと考えてるでしょ?」
「へっ!?」
「何々?何考えてたの??」
「べっ、別に、何も考えてないもん!」
「ほんとに~?」
「・・・・なっ、なんでわかったの?」
「そりゃ、友美は単純だからね」
「うぅ・・・・」
ここで伊織君のことを考えていたら、
こっちに戻って来た伊織君にさえも私が考えていることを知られてしまいそうで、
私は一人で二階へ上った。だって、恥ずかしかったんだもん・・・・。