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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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今までのことと、これからのこと

「ねぇ、どこに行くの?」

「・・・・」


さっきから何度も何度も聞いてるのに、絶対に教えようとはしてくれない。


昔からよく、「お前はしつこいんだ」ってよく怒られてたけどさ、

気になるんだもん・・・・。


絶対に答えるつもりはないみたいなので、私はついに諦めた。

機嫌を損ねちゃったら、大変だし。今は、機嫌がいいみたいだからね!


「着いたぞ」

「あれ?ここって、噴水広場じゃないの?」

「・・・・まぁ、な」

「どうして?イルミネーションならやらないよ?」

「ん。まぁ、とりあえず、な」


なんだか様子のおかしい亜修羅の後について、ベンチに座る。

ここは丁度、私が座ってた場所だった。


「何にもないところだな」

「う、うん・・・・」

「・・・・俺を待ってる間、何してたんだ?」


「え?何するって・・・・ずっとここに座って、時計みたり噴水見たり・・・・

あっ、きぐるみの人と話してたの」


「きぐるみ?」

「うん・・・・あっ、ほら、あそこで風船を配ってるきぐるみの人!」

「・・・・ああ、なるほど」

「うん!」


そこで会話が途切れる。昨日に比べて人の数が少ないし、人通りも少ない。

だから、きぐるみの人もなんだか退屈そうだ。


「・・・・ごめん」

「なっ、何!?突然・・・・」


「なんだか、いつもがっかりさせてばっかりだから。

・ ・・・どうして俺なんかを追って、一人で人間界に来たんだよ?

親父さんだって、心配してるんじゃないか?」


「ああ・・・・」


人間界に行く直前のやりとりを思い出す。

私は、「人間界に行きたい!」ってお父さんに言ったんだ。

そうしたら、お父さんは考えもしないで、「ダメだ」って即答。


どうしてなのかって理由を聞いてみても教えてくれないし、

ただ、「ダメだ」の一点張りだった。


だから私は、その夜、お父さんが寝てから人間界に来てしまったんだ。


その時は、「どうして反対するの!反対するなら理由を教えてくれればいいのに!」

って言う気持ちでいっぱいで、

自分がいかに悪いことをしているのかなんて考えてもいなかった。


でも、しばらく経って気持ちが落ち着いて来ると、罪悪感が芽生えて来た。

夜中に出て来たから、当然お別れもしてないし、

どこに行ったのか紙にも書き残さないで出て来ちゃったから。


きっと心配してる。そう思った私は、何度も電話をかけようとしたけど、

怖くて電話がかけられなかったんだ。

お父さんから電話がかかってくるかもしれないと思ってしばらくは様子を見てたけど、

電話がかかってくる様子はない。


それがわかって、尚更怖くなった。よっぽど怒ってるんだろうなって。

あんな風に喧嘩して勝手に飛び出して来てしまったのだ。

とても怖くて電話なんか出来なかった。


・ ・・・でも、きっと心配してると思う。心配してないはずがないと思う。


「・・・・亜修羅さ、魔界を出る時、

私に教えてくれなかったでしょ?友達には教えてたのに。

幼馴染である私には自分の旅立ちを告げてくれなかった。

それが物凄く悲しかったんだ。

だから、人間界に行ったってわかった時、つい追いかけちゃったんだ。

もちろん、その後のことなんか考えずにね」


「・・・・そうは言っても、お前に言ったら、

『やめた方がいいよ』か『私もついて行く!』って言うに決まってるじゃないか。

あの時はまだ、人間界って言う世界がどんな場所だかわからないから、

お前を連れて行きたくなかったんだよ」


そう言ってくれる言葉を素直に受け取ることが出来ない。

多分、とやかくうるさいことを言われるのが嫌だったんだと思う。

もちろん、亜修羅の言ってるこの言葉が全て嘘だとは言いたくないけど、

少しだけでも、そう言う思いはあったと思うんだ。うるさかったからね・・・・。


「別に、無理にあいつに似せなくていいんだ。

代わりになろうなんて、思わなくていいんだ」


「・・・・」


亜修羅は、「あいつ」と言って名前を伏せたけど、

私には誰のことを指しているのか痛いほど伝わった。


私もあの人のことはよく考える。

だからこそ、行動を似せてしまう部分があるのかもしれない。自覚はないけど。


「・・・・自覚ないよ?」


「自覚がないなら、いい。

無理に似せようとして、代わりになろうとして頑張ってるんじゃないならいいんだ」


「まだ・・・・」

「わからない。ただ、考える。ことがあるごとに思い出すんだ」

「・・・・そっか」


ため息をついて亜修羅から目を逸らす。


とても完璧な人なんだ。

綺麗で優しくて、お母さんみたいに世話を焼いてくれて・・・・。


今でもわたしは敵わないと思う。どんなに頑張っても、私はあの人には勝てない。

全てのことに対して、私はあの人より劣ってた。

料理だって苦手で、裁縫だって上手じゃなかった。

そんな私に料理や裁縫を教えてくれたのはあの人で、それに何より・・・・。


チラッと亜修羅の方を向いた。

その目は、前を見つめていると言うよりは、

どこか違う世界のものを見ているような気がした。


「とりあえず、年末あたりにでもちゃんと魔界へ帰って、

親父さんと話しをしてくるんだぞ」


「うっ、うん・・・・」

「親父さん、大切にしろよ」

「・・・・うん」


亜修羅が言うと、とても言葉に重みを感じる。

私の家は、言わば父子家庭。シングルファザーってやつだ。


お母さんが、私の幼い時に亡くなって、それ以来お父さんと二人で生きて来た。

婚期は今までもずっとあったはずだけど、

お母さんに気を遣ってか、再婚をすることはなかった。


今からでもまだ間に合うかもしれないけど、

一人で診療所を切り盛りしてるみたいだし、それどころじゃないみたいだ。


そんな私は、自分でご飯を作らなくちゃいけないから、

嫌でも上手になるはずなんだけど、料理と裁縫だけはどうにも出来なくて、

いつもあの人に教えてもらってたんだ。


親がいない時、私達にご飯を持って来てくれたりして・・・・本当に優しい人なんだ。


「・・・・亜修羅は、連絡とってるの?」


「いや。連絡はしてくるなって言われてる。

家に帰ってもし自分が死んでいた場合は、葬儀もしないで埋めてくれとだけ言われた」


「・・・・お葬式も出来ないの?」

「ああ。それが親父の望みだからな」

「・・・・」


お父さんの話しになった途端、亜修羅の雰囲気は変わった。

目はちゃんと前を見据えてる。表情も固かった。

でも、どこか幼げに見えて、昔の亜修羅みたいに見えた。


涙を流してはいないけれど、涙を流して泣いているように見えて、

私は、離していた手を再び握った。


「なっ、どうした!?」

「え?」

「・・・・いや、別に」


「大丈夫。私は代わりになろうとして頑張ってる訳じゃないから。

亜修羅の傍にいたいからいるの。

でもね、もし迷惑だったら、年末には帰る。そして、もう、人間界には来ないから」


話してる途中、なぜだか目の奥が熱くなって来て、うつむく。

そのまま少しの沈黙の後、ようやく亜修羅が口を開いた。


「・・・・迷惑じゃない。

人間界は、魔界よりも安全だってわかったから、無理やり帰す必要もない。

それに、お前がいなかったら家の中はグチャグチャで、飯も食えないから、

出来る事なら帰って来て欲しい。

ただ、親父さんに止められてるなら別だ。俺達でなんとかする」


その言葉がとても嬉しかった。迷惑だって思われてないってわかったこと。

それに、年末に家へ帰っても、また戻ってきて欲しいと言われたこと。

その全てが嬉しかった。


「うん、ありがとう。年末になったらお父さんのところに帰るね。

そこで、今までのことを謝って、これからも人間界にいていいかって聞いてみる」


「それでもし、ダメだと言われたら、来ない方がいい。

親父さんも一人で診療所をやりくりしてる訳だ。その仕事を手伝ってあげた方がいい」


「・・・・うん」


「追い払おうとして言ってる訳じゃないからな?お前、わかってるだろ。

俺が料理出来ないことも、家事が出来ないことも。

一番最初にお前が来た時、酷いありさまだったじゃないか」


「たっ、確かに・・・・」


うん。あれは酷かった。今考えても酷かった。

ごみが散らかってる訳じゃないんだけど、掃除はしてないから家の中埃だらけだし、

ふすまの中にはいろんな生物がいた。

ごみは一応捨ててあるみたいなんだけど、

賞味期限切れのものが冷蔵庫の中に入ってたりしたから、

部屋の中がなんだか異臭を放ってたんだ。


「あの異臭の中、よく耐えられたよね?」


「まあな。今思えばとても信じられないけどな。

あの時は心が荒んでたから、きっと異臭ぐらいじゃどうにもならなかったんだろ」


「ふふっ、今じゃ、賞味期限切れのものが冷蔵庫に入ってると、

『腐るぞ!』って直ぐ喚くのにね?普通、一日、二日じゃ腐らないよ?」


「そっ、そりゃ・・・・あの時は直ぐ物が腐ったから・・・・危ないと思ったんだ」

「はいはい。やっぱり、心配ですねぇ。私がいない間、どうやって過ごすの?」

「・・・・」


「考えてなかった?」

「・・・・まぁ、これも学習だ!」


「あっ、無茶なこと言ってる」

「無茶じゃない!自分でもやってみようと努力するんだ。勇気が要る」

「そうだね。うんうん、いい子いい子」


「やめろ!そう言う言い方するな!

・・・・とにかく、俺達のことは心配しなくていい。最悪は・・・・あっ!」


「え?どうしたの??」


急に何かを思い出したように亜修羅は立ち上がったから、私は首をひねった。

最悪は・・・・何を言おうとしてたんだろう?


「竜のところにいる。これで解決だ」

「だっ、大丈夫なの?」

「大丈夫だ。あいつなら、きっと」


「そっ、そっか・・・・」

「だから、ゆっくり親父さんと話して来い。お互いが理解し合うまで話し合うんだ」

「・・・・わかった」


「よし。・・・・じゃあ、帰るか」

「うん、そうだね。あっ、凛達はどこに行ったの?」

「ああ、さっき竜に電話してもいないって言ってたからな。電話してみるか」


亜修羅の言葉にうなずくと、私は少しだけ離れた場所に走って行き、空を見上げた。

空には綺麗な星が光っていて、

心がワクワクしているせいか、とても明るく輝いて見えた。


「・・・・いつも、ありがとうございます。これからも、どうぞよろしくお願いします」


空の向こうからいつも見守ってくれている人達に向かってつぶやくと、

ゆっくりとお辞儀をした。


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