・・・・続きですか?
水斗の家と篠崎の家は5歩分しか離れていない為、直ぐに篠崎の家にたどり着く。
玄関のインターホンを押すと、家の中でガタガタと変な音がした後、
篠崎と栞奈が二人で顔を出した。
「・・・・どうして二人で出て来たんだ?」
「えっ、えっと・・・・」
「ここには、今私達しかいないから、危ない人だったら大変だと思って」
「そうか・・・・。まあいい。帰るぞ」
「えっ!?もう帰るの?」
「もう帰るのって・・・・まだ帰らないつもりなのか?」
驚いて問い返してみると、栞奈はなんのためらいもなくうなずき、
嫌がる俺の腕を引っ張って家の中に連れ込む。
「あんまり遅くなったら、お前の友達も心配するんじゃないか?」
「大丈夫大丈夫!」
「・・・・はぁ」
なぜかとても機嫌のいい栞奈に連れられてリビングまで来ると、椅子に座る。
「どうしたんだよ?」
「え?どうもしないよ?」
「・・・・は?」
「えーっとね、今ドラマを見てる最中だから、これ見終わったら帰るの。
だけど、外じゃ寒いでしょ?って」
「・・・・じゃあ、終わったら帰るぞ」
ため息をつきながらそれだけ言うと、なんだか父親と子供みたいだなと思った。
「・・・・伊織君、前、座ってもいい?」
篠崎の問いに無言でうなずくと、
篠崎は出来るだけ音を立てないように歩いて来ると正面に座った。
「何かあるのか?」
「・・・・あのさ、謝りたくて」
「謝る?」
「デートの邪魔、しちゃったでしょ?」
「・・・・」
篠崎の言葉で思い出した。今日は、栞奈に誘われて映画館に行く予定だったこと。
しかし、まだ朝早い時間だからと言って寄った公園に水斗達がいて、
そこからドタバタと色々なことが起こって、結局この時間まで過ぎてしまったことを。
「栞奈さん、凄く残念そうだったから・・・・」
「・・・・わかった」
篠崎の言いたいことはよくわかった。
とは言え、もう遅い時間だから映画はやってないだろうし、
どこかに行くには遅すぎる時間だ。
「ねぇ、篠崎さん、これ、誰が犯人だと思う?」
「えっ!?えっと・・・・多分、デザイナーの人じゃないかしら?
アリバイが完璧過ぎて、逆に怪しいわ」
「そうだよね!」
どうやら俺達の会話は聞こえていなかったらしい。
そこまで声を抑えたつもりはなかったのだが、よっぽどドラマに見入っていたらしい。
「・・・・それは?」
「ん?」
「ほら、テーブルにおいてある黒くて四角いやつ・・・・」
「ああ、これは、さっき聖夜からもらったものだが、それがどうかしたのか?」
「玲菜も、似たようなものの色違いを持ってたような気がして・・・・」
「そうなのか」
「・・・・これも、あの友達の作ったものなのかしら?何か聞いてない?」
「そんなに不安か?」
「だって、人の体を縮めちゃうような薬を作る人なのよ?
何か危ない研究でもしてる人なんじゃないかって思って・・・・」
「大丈夫だ。確かに、少し危険なことをしているが、
危害を加えるようなことや迷惑はかけないと言っていた。
一度かかわったからにはいつ狙われるかわからない。守るためにあれを持たせたんだ」
そう説明すると、篠崎の顔からみるみる血の気が引いて行くのがわかって、
少し変なことを言い過ぎたなと後悔するものの、
今更後戻りは出来そうにないなと考え、更に言葉を重ねる。
「絶対に裏切ることはないはずだ。だから、信じてくれ」
「・・・・」
篠崎は無言でうなずくと、「わかった、信じる」とだけ言うと、そのまま話さなくなった。
とりあえず、このことについて聞かれることはないだろうなと思って栞奈の方を見ると、
丁度ドラマが終わったようで、こちらに歩いて来た。
「ごめんね、待たせちゃって。どうしても最後まで見たくって・・・・。
篠崎さんも、遅くに押しかけちゃってごめんね」
「ううん、大丈夫。気にしないで」
「ほら、行くぞ」
「あっ、うん。それじゃあ、そう言うことだから、ごめんね、ありがとう!」
栞奈は篠崎に礼を言うと、外に出てきた。
「もう、どうしてそんなに急かすの?」
「疲れたから、早く帰りたかったんだ」
「篠崎さん、なんだか元気がなさそうだったけど、何か言ったの?」
「聖夜のことについて思いつくことを言った」
「・・・・はぁ」
「なんだよ?」
「篠崎さんにとって、玲菜ちゃんは唯一の家族なんだよ?」
「知ってる」
「・・・・もう少し言葉を気をつけようよ?」
「わかった」
素直にうなずくと、それが意外だったのか栞奈は少しだけ驚いた顔をしたけれど、
うんうんとうなずいた。
「わかってくれたのならよろしい」
「・・・・そんな言い方はよくないと思う」
「あれ?いつもより反応が柔らかいね?」
「・・・・まぁ」
「なんだか嬉しいですね!」
そう言って歩き出す栞奈の背中を見ながら、篠崎の言った言葉を思い出す。
この様子だけじゃ、残念がっているようには見えないが・・・・隠してるのか?
「・・・・残念だったか?」
「え?」
「今日のこと」
それだけで、栞奈には何が言いたいのかわかったみたいで、顔を伏せた。
その表情を見て、篠崎の言っていた言葉が事実なんだと理解する。
「・・・・残念じゃないって言ったら嘘になるけどさ、でも、しょうがないじゃない?
誰が悪い問題でもないんだからさ」
栞奈の言葉に無言でうなずくと、歩き出す。
「行くぞ」
「行くって、どこに行くの?」
「それは・・・・秘密だ」
「秘密じゃダメ!」
「今回ばっかりは譲らない!」
「ええっ!?どっ、どうしてそこまで教えてくれないの??」
「ついて来たらわかる。ほら、急ぐぞ」
そう言って手を差し出すと、栞奈は嬉しそうにうなずくと、手をつないだ。
それからはずっと何も言わない為、
俺は「走るぞ」とだけ告げ、目的地に向かって走った。