表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
453/591

かくれんぼではルール違反です

「・・・・はぁ」


そんな風にため息をつく栞奈の方をちらりと見ると、俺は時計を見上げた。

時計は8時46分を指しており、俺達を囲む空気はとてつもなく重かった。


栞奈は、あれから少ししたらまた戻って来たのだが、なんだかずっと不機嫌そうで、

俺はあれから話しかけていない。

亜稀はと言うと、弟が危機的状況に陥っていると言うのにとても落ち着いていた。

しかし、心配してないことはないようで、チラチラと時計を見る様子は伺える。


俺は、そんな二人に背を向けるように、地下へ通じる場所をずっと見ていた。

まだ可能性は費えた訳じゃないから、

篠崎と瑞人が一緒に出て来るかもしれないと思って、じっと見ていた。


聖夜と爺さんは何を思ったか二人で外出してしまい、

篠崎の妹は、聖夜について来いと言われて出て行った。

だから、この家には俺と栞奈と亜稀、この三人がリビングにいる状態になっている。


「・・・・出て行っちゃったけど、いいのかな?」


「・・・・わからない。何を思って出て行ったのか。

ただ、篠崎が呼びに来なかったから、

計器に動きがあったと見て篠崎に任せたのかもしれない」


「・・・・そうなんだ」


そこで会話が途切れる。

みな、何もしていないはずなのに、とても疲れているように感じる。

話す力も、この緊張に耐える力も残っていないみたいだ。


そのまま時間は過ぎ、やがて、8時50分になった。

しかし、瑞人はおろか篠崎が出て来る気配もなく、どうしようかと話し合うことにする。


「・・・・もしかしたら、間に合わなくて悲しんでいるところなのかもしれない。

9時まで待って、更に動きが無かったら、俺達も地下へ行こう」


亜稀の言葉にうなずくと、ため息をついた。

案外、普通なものだった。

少ししか過ごしていないとは言え、友達が動かなくなったと言うのに涙すら出なかった。


それは亜稀も同じようで、涙一つ見せず、一心にどこかを見つめていた。

悲しんでいないことはないと思う。

ただ、目で確かめた訳でもなければ、実感出来るような出来事もないから、

イマイチ感情が動かないのかもしれない。


速いとも遅いとも思える速度で時計は進み、やがて9時を回った。

しかし、一向に篠崎がこちらに来る様子がない為、俺達は地下へ行くことにした。


一番最初は亜稀に譲ろうとするが、亜稀は無言で首を振ると一番後ろに回った為、

俺が先頭となって地下への階段を下りて行く。


誰も口を利かず、そのまま地下におりると、瑞人達がいる部屋の中に入る。

しかし、二人の姿がどこにも見当たらなかった。


「・・・・あれ?部屋、ここじゃなかったっけ?」


「いや、間違いはないはずだ。

篠崎があの機械に向かって語りかけるように指示されていたのを覚えてる」


「・・・・」


しばらくの間その場を動かなかったが、

とりあえず、その部屋の中を探し回ってみることにした。

隠れていると言うことはないかもしれないが、まずは探してみようと思ったのだ。


「・・・・いないね」

「そうだな・・・・。何か、心当りのある場所はないか?」


「・・・・わからない。ただ、機器が外れてることから、瑞人が自分で外したらしい。

花恋はきっと外し方を知らないだろうからな」


「・・・・と言うことは、瑞人は無事ってことか?」

「そう言うことになる」


その途端、今まで張り詰めていた空気が一気に和らぎ、

俺と栞奈は、ほぼ同時に息を吐いた。

これはきっと、安堵のため息と言うものらしい。


「・・・・とりあえず俺は、聖夜と師匠に電話をかけておくから、

二人は、瑞人達を探しててほしい」


「心当たりは、やっぱりないのか?」


俺がそう聞くと、亜稀はゆっくりと首を縦に振ると、

ケータイを取り出して出て行ってしまった為、俺達はリビングに戻ることにする。


「有澤君、無事みたいでよかったね」

「ああ、そうだな・・・・」

「あれ?元気ないの?」

「疲れたんだ。張り詰めた空気にずっといたせいでな」

「確かにそうかも。私もちょっと疲れちゃった・・・・はぁ」


重くなった体を無理やり動かして階段を上っていると、

聞きなれた声が聞こえた気がして、慌てて階段を駆け上る。

すると、俺達が必死で探していた人物が、何食わぬ顔でリビングの椅子に座っていた。


「なんかわらないけど、お疲れ様!」

「・・・・無事だったのか?」

「ええまぁ。ギリギリ間に合ったみたいで、目覚めることが出来たよ」

「・・・・今までどこにいたんだ?」

「ああ、もう遅いから花恋を家に連れて行って、今帰って来たところなんだよ」


そう普通に会話をする水斗の方へ俺は歩み寄ると、

不思議そうな顔をしている水斗の頭を思い切り殴った。


「いった!」

「痛くない!俺が感じていたあの重苦しい空気に比べれば、月とすっぽんだ!」

「とっ、とんだとばっちりを受けた気がする・・・・」

「うるさい!」


「そっ、そんなに怒らなくても・・・・

ほら、僕、仮にも生死を彷徨っていたんだからさ!」


「・・・・」


水斗の言葉にため息をつくと、椅子に座って再びため息をついた。

とりあえず、今まで溜まっていた感情を吐き出したことで、少しすっきりしたのだ。

だから、後はディスプレイ上で起こった出来事に対しての質問をするだけなのだが、

今は栞奈がいる為、その話題を伏せることにする。


「そうそう。実を言うとさ、僕も色々説明しなくちゃいけないから気が重いんだよ」

「説明?」


俺がそう聞くと、水斗はうんうんとうなずいた後、耳元でコソッとつぶやいた。


「君が気になってることだよ」

「・・・・気づいてたのか?」

「気づいてたも何も、君の行動を見ればわかるよ。怪盗ってことを思い出してみてよ」

「いや、それとこれとは話が違うだろ?」

「・・・・まっ、まぁ」

「・・・・ねぇ、二人でコソコソ何話してるの?」

「いや、なんでもない」


「・・・・・もしかして、私、邪魔だったりする?

それなら私、篠崎さんのところに行くね」


栞奈はそう言うと、俺達が何を言っても聞こえないふりをして出て行ってしまった。


「・・・・いいのかい?」


「・・・・よくはないが、出て行っちゃったなら仕方ないな。

今から追いかけても、多分、遅いだろうし」


「本当は、レディーを放っておくなんて僕の美学に反することだけど、

その気持ちもよくわかるからね」


「・・・・そうだな。まぁ、色々ツッコミどころはあったけど、ツッコむのはやめよう。

話が長くなるから」


俺がそう言うと、水斗はいじけたように机の上の五円玉を弾くとため息をついた。


「それじゃあ、質問をする。完結的に答えるように」

「・・・・はいはい」

「聖夜が言うには、お前は二重人格だって言うんだ。そうなのか?」


「ああ、そのことね。それは確かに。僕と瑞人は違う人格だ。

元々先にいたのは僕だったんだけど、演技として他の人になりきってたら、

段々と別の人格が生まれて来た。それが瑞人だ。記憶の補完等は僕が行ってる」


「・・・・記憶の補完?」


「自分以外に違う人格がいると気づかれないようにってこと。

だから、例え僕が表に出て来ている状態でも、

必要だと思った部分の記憶は瑞人の方にも渡しておくんだ」


「・・・・へぇ」


想像以上に不思議なことをやっている水斗に対して、少しだけ尊敬の意が芽生えた。


「どうやって、その・・・・・記憶の補完とやらをしてるんだよ?」


「水斗・・・・僕が外に出ている間、瑞人は眠っているのと似た状態だ。

だから、彼に催眠術をかける。

ちなみに、瑞人の方が外に出てる場合だけど、僕は起きてる。

ただ、瑞人に気づかれないように姿は隠してるんだ」


「眠っている奴に催眠術なんてかけられるものなのか?」


「うーん、まぁ、一般的な催眠術とは少し違うやり方だからね。

睡眠中の人にかけることで、特定の夢を見せることが出来るもので、

それを見せた後、今度は夢を忘れさせるんだ。

そうすることで、夢の内容は覚えてないんだけど潜在的な記憶の中に焼き付けられて、

まるで、自分が体験したかのように思わせることが可能なんだ。

ただ、100%正しく伝わるかと言ったら、そうは言い切れない。

出来るだけ正しく伝えようとしてもさ、

言葉の取り方次第で色々解釈が変わってきちゃうからね」


「・・・・ふーん」

「後、何か質問はあるかな?」


「おまえ自身が瑞人の演技をすることもあるのか?」


「そりゃあるよ。朝飯前さ。

エンジェルの話をされた時は、バレないように入れ替わるんだ。

そうすることで、外からは何も変化が見られないし、

瑞人自身もエンジェルが自分だと言うことを知らずに済むから。

ただ、そうした場合、しばらくは瑞人になりきってないとダメなんだ。心も声もね。

途中で戻しちゃうと、記憶の補完が中途半端な形になっちゃうからさ。

そうなると、色々ややこしくなるからね。OK?」


「・・・・それは、新見水斗が有澤瑞人と言う者に成りきっている時と、

有澤瑞人と言う人格自体が出ている時があるってことか?」


「そうそう。

僕が演じる有澤瑞人も、人格となった有澤瑞人も、趣味思考は全く同じだから。

もともと、僕が演じる有澤瑞人って言う人物が

一つの人格として生まれちゃっただけだしね」


「・・・・ややこしいな」


「まあまあ、本当にそう思ってるのは僕自身だよ。

もともとそうしてたわけだから、今更大変ってこともないんだけど。次の質問は?」


確かに演じたり本当に別人格だったりと忙しいのは水斗自身だと思うので、

その言葉には素直にうなずいた。


「瑞人が気絶する時の信号は、

お前が出すのではないかと聖夜は考えてるみたいだけど、

本当のところはどうなんだ?」


「いやいや、それは間違い。

この体が眠りにつくのは、僕が操作出来るものじゃないんだ。

だから僕も、いつこの体が眠りにつくのかわからない。

ただ、ショックを受けて気絶するところを考えると、多分、本能だと思う。

僕がさっき伝えた事実も、もしかしたら忘れてる可能性がある。

眠りについてる状態では、さまざまな記憶が引き出しの中から取り出されて、

自分にとってショックが大きいものを消去する作業に入ってるんだ。

僕のあの話も相当ショックを受けたようだから、

僕が消えた後の彼の意識の中で消されちゃったかもしれない」


「・・・・そうなのか」


水斗の言葉にゆっくりとうなずいた時、ふと疑問が浮かび上がる。

まだ、説明されたことを全て正しく理解出来た訳でもないのに、

新しいことを聞こうとするのは馬鹿がすることだとは思うが、一応聞いてみた。


「お前の記憶は消えてないのかよ?」


「うん、そこが不思議なことに、僕の記憶は消えてないんだよ。

どうしてかわからないんだけど」


「・・・・それじゃあ、お前が倒れたきっかけとなることも覚えてるのか?」


「ううん。そのことは覚えてない。倒れた直後は、僕も意識を失ってた。

その間に記憶を消されちゃったらしい。

目が覚めてからのことは覚えてるから、消されてないみたいだけどね。

だから、僕が瑞人に真実を話したことを覚えてるってわけ。

でも、僕が覚えてたからって、彼も覚えてるってことにはならないみたいで、

僕が覚えてることを、彼が忘れてることもあった。

そのあたりは連動してないみたいで、僕も、どうなるのかわからないんだ」


「めんどくさいな」


「うん。僕もそう思う。

でもまぁ、こうなってしまった以上、どちらの結果になったとしても、

僕はこれまでの状況を変えるつもりはないよ。

でも、もし記憶から消されていたのなら、僕の存在を再び話すことはないかな?

目覚めの邪魔をしてたみたいだからさ」


「確かにそうだな。

お前の余計なカミングアウトのせいで、危うく目覚めなくなるところだったんだ」


「・・・・それは悪いと思ってるよ」


俺の言葉に素直に落ち込む水斗を見て、

これは本当に思ってることなんだなと思って、少し言い過ぎたかと反省する。

だから、これ以上このことについてからかうのはやめることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ