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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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強い思いが奇跡は起こす

「・・・・あのさ、私、今まで散々あなたに酷いことを言って来た。

でも、本当は本心なんかじゃないの。もちろん、本当のこともあったけど・・・・。

っていうのは、えっと・・・・強く言い過ぎるのは本気じゃないけど、

やめて欲しいとか、そう言うことは本当なの・・・・」


自分でも、何が言いたいのかわからなくなってくる。

時間が少ないっていうのはわかってるけど、何を話していいのかわからなくて、

変なことばかりを話してしまう。

もう少し、自分の話したいことをまとめてから話せばいいんだけど、

そうしている時間がもったいなくて、とりあえず、思ったことを全て口に出してみる。


「例えばさ、あなたが女の子とよく遊んでること。あれ、物凄く嫌なの!

昔は、人見知りが激しくて、私やおじいちゃん達としかまともに話せなかったあなたが、

他の人と話せるようになったのは嬉しいことだけど、女の子とばっかり遊ぶのは嫌なの。

幼馴染の私がこんなこと言って

瑞人の人生に口出しするのはいけないことかもしれないけど、

嫌なものは嫌なの。もう、ぜ~ったい、嫌なの!」


自分で言っていて、段々とため息が出てくる。これじゃあ、愚痴を言ってるみたいだ。

このままじゃ、どんな人でも目覚めたくないだろうなって思って、

昔のことを話すことにした。


「・・・・あのさ、覚えてる?小さい頃、二人で冒険した時のこと。

あの時はまだ玲奈がいなかったから、遊ぶ時は二人きりだったよね。

いつもいつも冒険って言って、暗くて狭いところや見知らぬ道に連れて行かれたりして、

正直、物凄く嫌だった。


でも、あなたが『どうしても!』って言うからついてってあげたのよ?

あなた以外の人の言葉だったら、私は絶対に嫌だった。

『あなただったからこそ』私は嫌でもついて行ったの。信じてたから。

『大丈夫、俺はこの町の探求者なんだ!絶対に迷わない!』って言う、

今考えれば不安になりそうなほど頼りない言葉を、私は信じてついて行ったの。


ある時さ、私の嫌な予感が当たって、迷子になっちゃった時あったよね?森の中で。

空はドンドン赤くなって、やがて、暗くなり始めて・・・・。

それでもさ、ずっと歩いてたよね?


迷子になってるんだから、下手に動かない方がいいってわかってるはずなのに、

どんどん奥の方に進んで行っちゃって・・・・。


本当は、その場にとどまっていたかった。

でも、あなたがドンドン奥に歩いて行っちゃうから、ついて行くしかなかった。

一人で残されるのは嫌だったんだもん。


その時、私、何度も『迷子になっちゃったの?』って聞いてたのに、

絶対に答えてくれなかったよね。


最初の時は、どうして何も答えてくれないのかわからなかったけど、

最近になってようやくわかった気がしたの。『私を不安にさせないためだ』って。

私が、あなたを信じてたってわかってたからこそ、

私を不安にさせない為に、一生懸命出口を探してくれてたんだよね・・・・」


その時のことを思いだして、目の奥が熱くなって来る。


あの時は本当に怖かった。

懐中電灯とか明かりになりそうなものも持たない状態で歩いてたから、

木や石にぶつかったり水溜りを踏んじゃったりして、

その度に恐怖や寂しさなどの感情が積み重なって行って、泣きたくなった。

でも、泣けなかった。

瑞人は弱虫だから、私が泣いちゃったらダメだって思ってたんだ。


「・・・・あの時の瑞人は、物凄くかっこよかった。

いつもの弱虫で直ぐ泣いちゃうような瑞人じゃなくて、

とっても頼りになるお兄さんみたいだった」


そこまで話して、私は何か大事なことを忘れているような気がした。

私が瑞人のことを好きになったのは、多分、その時からだと思う。

でも、何かが足りないような気がした。

あの時の瑞人も物凄くかっこよかったけど、それだけじゃないような気がする。

もっと他の大事な何かがあって・・・・。


必死に思いだそうとするけれど、中々思いだせない。

暗い道を歩いていたことは覚えてるけど、それよりも先のことが思い出せなくて、

私は泣きたくなった。


何よりも大切な思い出はなんですかって聞かれたら、私はこのことを話すはずだ。

それほど記憶に残っていた大切な思い出を、忘れてしまったのだ。

しかも、こんなに大事な時に。


そんな自分が憎くて憎くて仕方が無い。

なんで、よりによって一番大切な部分を忘れちゃうのかなって、

ただひたすら自分が憎かった。


「・・・・ごめん、ごめんね。思い出せない。

とても大事な思い出のはずなのに、思い出せなくて・・・・」


未だ瑞人は反応を示さない。その原因を作ったのは私。私が自分の思いを伝えたから。

私が自分の思いを伝えるようなことをしなければ、

瑞人が倒れることはなく、きっと幸せに暮らせたのかもしれない・・・・。


そう思うと余計に自分が恨めしくなって、自分の頬を思い切り叩いた。

誰も叩いてくれはしない。だから、自分で自分の頬を叩いた。


こんなことをしたって無駄だってわかってるけど、自分が瑞人の未来を奪ったのだ。

これぐらいじゃ、自分自身を許せない。許したくない・・・・。


そう思ってもう一回自分のことを叩こうとした時、

不意に体から力がぬけて、そのまま座り込む。

目の前が真っ暗で何も見えない。立ちくらみと似たような状態が続いた。


地震が起きたかのように体がグラグラ揺れていて、耳鳴りまで聞こえる。

遠くの方でピッ、ピッと機械の音が聞こえるけれど、

耳鳴りと重なって、定かなことではない。


「大丈夫」


遠くの方で、そんな声が聞こえる。でも、私は首を振った。

気分が悪い。

体がしびれてしまって、立ち上がることはおろか、指すらも動かすことが出来ない。


早く立ち上がらないといけないのに、体が上手く動かなくて、気持ちが焦る。


私は、本番に弱いタイプだ。いつも本番で失敗して、

一生懸命練習したことを無駄にしてしまうことが多かった。


それは、自分の心の弱さが生んだことだと思う。

そして今回も、私の心の弱さが生んだ出来事なんだ・・・・。


「伝わったから」


(・・・・何が伝わったの?私は、何も伝えられない。届かない)


目の前に広がる暗闇をじっと見る。


とても寒い。体を温めなければ死んでしまう・・・・。

そう思った。心臓が寒さで縮み上がっているような感覚がする。体に悪い・・・・。


なんだか頭がボーッとして、意味のわからないことばかり考えてしまう。

このままでは時間が過ぎてしまうとわかっているのに、

体は動かないし、思考もおかしい。そんな自分がやっぱり嫌だった。


「嫌わなくていい。思いは伝わったから。

強い思い、心が伝わったから。だから、安心して」


(・・・・伝わったの?)


「そう。沢山の願いが届いた。奇跡は、沢山の人が願うことで生まれる。

でも、一人の人の願う思いが強ければ、一人でだって奇跡は起こせる。

不可能なことはないよ。奇跡があるんだから。


奇跡を起こすことが出来れば、不可能を可能にすることが出来る。

奇跡を起こすのは神じゃない。みんなの思いが奇跡を起こすんだ。


だから、信じて。神が出来ることは、強い思いを後押しすることだけ。

強い思いで奇跡を呼ぶことが出来るのは、人間(みんな)なんだ」


(・・・・奇跡)


奇跡が起きれば瑞人は助かるかもしれない。でも・・・・。


「奇跡は起こるよ。思いが伝わったから」


その言葉が聞こえた途端、ハッと意識を取り戻す。

慌てて立ち上がると、瑞人のところに向かう。


さっきの感覚がなんなのかわからなかったけど、あの言葉を信じたいと思ったのだ。

もし、私の言葉が通じて奇跡が起こったのなら・・・・そう思ってカーテンを開けた。


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