一時の休息
「・・・・やっぱり、そうだったのか」
「え?」
慌ててエンジェルの方を振り返ると、
エンジェルの移動は間に合わなかったらしく、無言で背を向けていた。
「やっぱり、エンジェルだったのか」
「・・・・そう。今日は、話があって来たんだ」
そんなエンジェルの言葉に、瑞人は嬉しそうにうなずいた。
あいつは、私みたいに、
エンジェルがどうして自分の意識の中にいるんだろうってことは考えてないみたいだ。
「話しですか!?えっ、何ですか!」
「・・・・これから話すことは、全部本当なんだ。だから、驚かないで聞いて欲しい」
エンジェルはそう前置きすると、さっきみたいに首の辺りを触った。
そして、めくる・・・・。
私は、自分の目の前で起こった出来事が信じられなくて、思わず目を伏せた。
エンジェルは、特殊なマスクみたいなものをかぶっていたらしい。
だから、私が見ていた顔は本当のエンジェルの顔じゃなかった。
そして、本当の顔とは・・・・。
エンジェルの顔が見えた。
その直後、私はさっきとは別の空間にいて、慌てて辺りをうかがう。
さっきまで広がっていた草原も、風もなくなっていて、
エンジェルと瑞人の姿もなくなっている。
(えっ、何これ・・・・)
そう思った直後、体が浮く感覚がしたかと思ったら、そのまま何も見えなくなった。
何がどうなってるのか全くわからず、ゆっくりと目を開けてみると、
私はあの卵型の機械の中にいた。
椅子に座って、目を覚ましたみたいだ・・・・。
「30分経ったから、強制的に呼び戻した。調子はどうだ?」
そんな聖夜君の声が聞こえるけど、私は話せなかった。
頭がボーッとしていて、言葉を話すことが出来ない。
そもそも、聖夜君の話した言葉の内容が、
聞こえたとおりで合っているのかすら危うかった。
「おい、聴いてるのか?」
聖夜君に腕を叩かれて、ようやく意識を取り戻す。
でも、自分がおかれている状況がいまいち把握出来なくて、
そのまま1分ぐらい経った時、ようやく思い出した。
自分が、瑞人に目を覚ますよう伝えることが出来なかったこと。
せっかくゴールの目の前まで来ていたのに、間に合わなかったこと。
それがわかった途端、私は物凄く悔しくて悲しくて、涙がこぼれた。
「・・・・私、ダメだった」
「そうか・・・・」
聖夜君はゆっくりうなずくと、私の手を握った。
「お前はよく頑張った。後は僕に任せてくれ。まだ時間はある。
疲れただろうから、上に行って、少し休んで来た方がいい」
聖夜君の言葉に私は首を振りたかったけど、なぜか首を動かすことも出来ず、
そのまま目の前に映る聖夜君の顔を見つめていた。
本当は、もう一度瑞人の意識の中に入って、説得をしに行きたい。
でも、体が麻痺したみたいに動かなくなっちゃって、
自力で立ち上がることさえも困難だった。
「修、悪いけど、花恋を上に連れて行ってくれないか?」
「・・・・わかった」
伊織君は聖夜君の言葉にうなずくと、私のことを抱き上げた。
まるでお姫様だっこっみたいな状態で、なんだか恥ずかしいような気がする・・・・
はずなんだけど、今のわたしには何も感じることが出来なかった。
なんだか、心身ともに疲れ果てたって感じで、言葉すら発することが出来ない。
もし、30分以上瑞人の意識の中に入っていたら、
私はどうなっていたんだろうと思うと不安になる。きっと、死んでいたかもしれない。
「聖夜の言うとおり、篠崎はよく頑張った。
だから、そんなに落ち込まなくていいと思う。後は、聖夜に任せておけ」
優しい言葉をかけてくれる伊織君に、申し訳ない気持ちになる。
私は、頑張ってなんかない。
瑞人の意識の中で好き勝手暴れた挙句、目的一つ果たせなかった情けない女なんだ。
それなのに、優しい言葉をかけてくれるなんて・・・・。
「俺は、お前の様子をずっと見てた。
真剣な顔で、どこにいるのかわからないあいつを、ただひたすら探してた。
その姿を見て凄いと思ったんだ。
・ ・・・まぁ、これはあくまでも俺の意見であって、
みんながみんな、そう思う訳じゃないだろう。でも、俺はそう思ったんだ」
「・・・・そうなんだ」
「・・・・とにかく、後は俺達に任せろ。
聖夜だって言ってただろ?『後は僕に任せてくれ』って。
あいつは、ひねくれてて生意気な態度をとる奴だが、嘘をつくような奴じゃない。
きっとどうにかしてくれる。だから、お前は、瑞人のことを信じて待っててくれ。
もし、お前が必要になったら呼びにくるから、それまではゆっくり休んでいてくれ」
「・・・・ありがとう」
何とかお礼を言うと、伊織君はうなずいた。
その様子を見た途端、急に体が重くなってまぶたが落ちて来る。
そして、そのまま真っ暗になった。