意識の中での対面
「私がこの世界に入って来てから何分経ったかわかる?」
「・・・・さぁ?僕にはよくわからないなぁ」
「あんたはさ、時間制限とかないわけ?」
「時間制限?」
「そう。私の場合、瑞人の意識の中に入っていられる限界時間は
30分だって聖夜君に言われたんだけど・・・・」
私がそう言うと、エンジェルは慌ててうなずいた。
・・・・この反応も、やっぱり変に思える。
よく考えれば、こいつはなんだか怪しいことばっかりだ。
私を助けてくれてるみたいだから悪い奴じゃないとは思うけど、
何かを隠してるような、そんな感じがする。
「あんたさ、なんか隠してる?」
「なっ、なんでそう思うんだい?」
「だって、なんかさっきから怪しいことばっかりなんだもん。
瑞人は、エンジェルに憧れてた。だから、エンジェルのことを知ってるのは当然。
でも、あんたはきっと瑞人のことなんか知らないはず。
それなのに、名前はおろか、勝手に意識の中に入って来たり、
ましてや、私と瑞人の記憶を知ってるなんて、明らかにおかしいじゃない。
さっきからどことなく言動も変だし、それに何より、
なんで瑞人のことをかばうような言動をするの?そこが一番おかしいわよ」
私が問い詰めるように問うと、エンジェルはため息をついた。
どことなく、雰囲気が瑞人と似てる。でも、顔が似てる訳じゃない。
まさに、雰囲気が似てるって感じ。
だから、ここまで信じようと思えたんだろうけど、さすがにもう限界だ。怪し過ぎる。
「確かに、君の言い分も最もだ。
でも、僕の正体を言う訳にはいかない。後で説明するよ」
「後でっていつよ?」
「・・・・瑞人君が目を覚ました後」
「そうなったら、話が聞けないじゃないのよ!」
「・・・・それじゃあ君は、瑞人君を悲しい気持ちにさせたいっていうのかい?」
「え・・・・?」
どうして、ここで瑞人のことを言われるのかがわからない。
最初はごまかしてるのかなって思ったけど、
エンジェルの表情はとても真剣だったから、
そんなことはないはずだって言うのはわかる。
だけど、どうしてエンジェルの正体を知ると、瑞人が傷つくことに・・・・。
できることなら瑞人のことは傷つけたくないけど・・・・
このまま、怪しいエンジェルの言うことを聞くのもどうかと思う。
「・・・・どうして、エンジェルの正体を知って、瑞人が傷つくことになるのよ?」
「・・・・」
「ねぇ?」
「・・・・まぁ、これは、一つの機会かもしれない。
瑞人も薄々感づいていたはずだし、教えてあげよう」
ついに決心したかのようにエンジェルはつぶやいたけど、
今度は逆に、こっちが怖くなって来る。
自分から聞いてなんだけど、そこまで決意をしなくちゃいけないことって言ったら、
逆に怖くなってきちゃったんだ。
「そっ、そんなに重大なことなら言わなくてもいいわよ・・・・?」
「いや。伝えておかなきゃいけない。その決心がついた」
「そっ、そう・・・・」
「うん。それじゃあ話そう。僕は・・・・」
そう言ってエンジェルが首の辺りをを触った時、急に風が吹いたかと思ったら、
瑞人の声が聞こえて来た。
《やめろ!!》
その声とともに、物凄い風が吹いて来て、私とエンジェルはゴロゴロと転がった。
最悪なことに、今日はスカートだ。
幸いなことは、エンジェルも一緒に転がってるから見えないかもしれないってことだけ。
もし見えてたら・・・・。
転がされながらも、そんなことを考えてしまう。
本当は体中が痛くてそんなことを考えてる暇じゃないかもしれないけど・・・・。
仕方ないじゃない!私一人だったらまだしも、エンジェルが横にいるんだから!
しばらくの間ゴロゴロと転がって行き、減速。そして、ようやく止まることが出来た。
その時にはもう目が回るし体中は痛いしで、最悪な状態だった。
しかし、隣にいるエンジェルはそれと言って辛そうでなく、
ため息をつきながら普通に立ち上がった。
私と同じくらい転がされたはずなのに、普通に立ちあがれるなんて、凄いと思う。
「災難だったね、全く・・・・。ほら、立てるかい?」
エンジェルに手を差し伸べられるけど、私は首を振った。
まだ立てる状態じゃない。
目がぐるぐる回ってて、立ち上がろうとした途端、しりもちをついちゃいそうだ。
「全く、レディーにこんなことするなんて、酷いじゃないか」
「別にいいわよ」
何とか立ち上がれるまでに回復した為、私は一人で立ち上がる。そして驚いた。
今までは、体が痛いことや目が回ってることばかり考えていたから気づかなかったけど、
立ち上がってみて、再び暗闇じゃない場所にいることがわかったからだ。
無限に広がるような草原の真ん中に、大きな一本の木が見える。
その木のところに、人がいるのが見えた。
「わたしたちが転がって来てからずっとここだったの?」
「そうだね、僕が立ち上がってからずっとそうだった。転がってる最中もそうだったね」
その言葉を聞いて、私の背筋は一瞬で凍った。
と言うのも、転がってる最中にも周りの変化に気づく余裕があるってことは、
私の・・・・。
そこまで考えて、顔が赤くなるのがわかった。
聞きたいけど、聞けない。
でも、こいつは瑞人みたいに鈍感だろうから、聞かないと絶対に答えてくれなさそうだ。
「ん?どうしたの?」
「・・・・あんたさ、転がってる時、私の方見た?」
「・・・・さぁ?」
エンジェルはそれとなしに答えた後顔を背けたけど、さっきの余白がおかしい。
気を遣ってるのか遣ってないのかわからないけど、とにかく怪しい!!
「はっきり言いなさい!」
「・・・・見ました」
「バカ!変態!!」
思いっきりエンジェルの背中を叩くと、後ろを向いてため息をついた。
結構大きな声を出したけど、木の裏にいる人は私達の存在に気づいていないみたいだ。
ううん。そんなこと、今はどうでもいい。
「へっ、変態とは酷いな!僕は、別に見るつもりはなかったんだ。
素直に白状したんだから、偉いと思ってくれよ!」
「・・・・たっ、確かに、変態は酷かったかもしれないけど・・・・酷いもん。
とっ、とにかく、さっきのことは忘れなさい!
忘れなかったら、わたしが叩いてでも忘れさせるからね!!」
「・・・・」
エンジェルは無言でうなずくと、ポケットから振り子のようなものを取り出して、
それを二、三回振った。そして、直ぐに顔をあげる。
「忘れたよ」
「・・・・本当?」
「本当さ。僕は嘘をつかない。さっきだって、怒られることを承知で白状したんだ。
そんな僕が、嘘をつけるような人間に思えるかい?」
「わからないわよ、忘れたフリしてるだけかもしれないしね。
・ ・・・でも、一応は信じるわ。そうじゃないと、私の方が落ち着かないもの」
「そうそう、忘れて。
それじゃあ、さっきからずっと放置だったあの人のところに行こう。可哀想だからね」
「・・・・そうね」
私がうなずくと、エンジェルはなんだかホッとした表情をしながら歩き出した。
その後を追うように私も小走りで近づいて行くと、エンジェルが急に立ち止まった。
「どうしたの?」
「・・・・あそこにいるのは瑞人だ。
記憶なんかじゃない、意識の中にいる、本物の瑞人だ」
「!?」
「ここから先を、僕は歩けない。君一人で行ってきて」
「えっ?どっ、どうして突然・・・・」
「さっきは言おうと思った。でも、瑞人は嫌がってる。
だから、話すのを止めようと思うんだ。
本人の前に姿を現したら、きっと確信してしまうから」
「・・・・よくわからないんだけどさ、それ、逆なんじゃないの?
もし嫌がっているんだとしたら、遠ざけるはず。
でも、自ら意識のある場所に呼んだのなら・・・・」
「・・・・」
なんだか自分の心がガタガタなのはわかってる。
さっきは自分から言ったくせに、途中で怖くなって止めて欲しいなと思って止めた。
でも今は、エンジェルが真実を言うのを手伝おうとしてる。天邪鬼にもほどがある。
「・・・・とにかく、君がまず、彼を説得した方がいい。
そして、瑞人の意識から出ないと。
僕の話を聞いたら、説得が時間内に間に合わないかもしれない。
そうなった場合、君はまず、助からないんじゃないかい?」
「・・・・」
聖夜君の話によると、時間以内に戻れなかったら、
体の負担が大きくて危ないと言っていた。
それが、死の危なさなのか、
それとも、健康の中での危なさなのか、私にはわからなかった。
「・・・・わかった。話して来る」
「うん。行っといで。今なら隠れるのもまだ間に合うから、僕は隠れることにするよ」
「・・・・ここまで一緒に来てくれて、ありがとう。
色々ひどいこと言ったけど、物凄く助けられた。
・ ・・・だから、出来るだけ早く説得するようにするから、
あんたも出来るだけ早く外に出るようにしてね」
「わかってるさ。僕だって、体の負担はかかるんだ。
だけど、君より入ったのは遅かったからね、まだ猶予はある。それじゃ、また・・・・」
そう言ってエンジェルが歩こうとした時、
今までずっと後ろを振り返らなかった瑞人が、こちらを振り向いた。
そして、こうつぶやいた。
「・・・・やっぱり、そうだったのか」