ある意味恥ずかしい映像です
「よし、無事に送れたみたいだな」
「お姉ちゃんをお兄ちゃんの意識の中に?」
「そうだ。映像を繋ごう」
聖夜君はそう言うと、再びコードみたいなものを取り出して、テレビに似た機械にくっつけた。
すると、暗闇の中にお姉ちゃんが映し出されて、私はびっくりする。これは・・・・。
「これは、花恋の見ている夢を映像化した景色だから、瑞人の意識の中と言えるだろう」
「えっ?夢って・・・・」
「花恋は今、浅い眠りの状態・・・・いわゆる、レム睡眠状態だ。
だから、夢って表現が正しいだろう」
「そうなんだ・・・・」
「うん。さすがに、体ごといれるのは出来ないからな。
花恋を目覚めさせるには、睡眠を誘発する波動を止めれば目覚める。故意に眠らせてる状態だからだ」
「なるほど・・・・」
凄く面白いことを言ってるなぁと思いながら、
キョロキョロ辺りを見わたしているお姉ちゃんの姿を見ていると、
急にお姉ちゃんの声が聞こえて来て、思わずおねえちゃんのいるχの方を見てみる。
しかし、お姉ちゃんは聖夜君の言うとおり、目を瞑って眠っているため、私は首をかしげる。
「ここだ、ここ」
聖夜君が指さしている方向には、お姉ちゃんの映像が映ってる機械があって、
そこから音声が再生されてるんだとわかる。まるで、テレビみたいだ・・・・。
そんなことを思いながらボーッとしていると、
聖夜君がχの方に歩いて行ったかと思ったら、χに向かって話しかけている。
「花恋、聞こえるか?聞こえるなら、しゃべらなくていいから、聞こえると念じてくれ」
そんな聖夜君の言葉が聞こえたのか、
スクリーンの中にいるお姉ちゃんが上を向いて、聞こえると言った。
ううん、この場合、念じたって表現すればいいのかな?
「どうやら成功したらしいな。今見えるその不思議な空間は、瑞人の意識の中だと思う。
今からカウントダウンをスタートするから、頑張って瑞人を探してくれ」
聖夜君はそれだけ言うとこちらに近づいて来て、再び沢山の機械の真ん中に座る。
「直接話しかければ聞こえるの?」
「うん。人の声が聞こえるぐらいの浅い眠り状態にしてあるからな。
ちなみに、花恋は話せないから、思ったことが直接聞こえるようにしてある」
聖夜君の言葉の直後、お姉ちゃんの声が聞こえて、そう言うことかと納得する。
(瑞人、どこにいるの?いるんだったら、返事をしなさい)
お姉ちゃんはそう言った後、なぜかキョロキョロと辺りをうかがった。
私は不思議に思いながら首をかしげると、聖夜君の方を見る。
聖夜君は、パソコンのキーボードを叩いている。
それにもコードがついていて、その接続先は、χとΖ。
だから、二つとも操作出来るってことなのかな?
そんなことを思いながら聖夜君のことを見てると、聖夜君が首を振って、
「画面を見てろ」と言うように指を動かされるから、
私は、少しだけ嫌々、テレビっぽい機械の画面を見た。
それとほぼ同じタイミングで、聖夜君がΖの方のボタンを押した。
すると、画面の中で凄い風が吹き始めて、
お姉ちゃんが必死に腕を前にして飛ばされないようにしている姿が映し出される。
「せっ、聖夜君、これ、お姉ちゃんが・・・・」
「大丈夫。直に風が納まって、道が開ける」
「・・・・どう言うこと?」
「見てればわかる」
聖夜君の言葉にうなずいて、食い入るように画面を見つめる。すると、急に景色が見えて来た。
その景色と言うのは、白い砂浜に、青い海。これは・・・・ビーチ?
「うーん、どうやらこれは、瑞人の楽しかった過去らしいな。なるほど、瑞人らしい」
「たっ、確かに・・・・」
画面には、水着を着た女の人に囲まれて楽しそうにしてるおにいちゃんが映し出されていて、
お姉ちゃんはと言うと、物凄く怒っているのがわかる。
でも、音声は聞こえないから、私はおねえちゃんがなんて思ってるのかわからなかった。
だから、聖夜君もわからないはずなんだけど、なぜだか聖夜君が笑ってる。
声を殺して笑ってるけど、笑ってるってことぐらいはわかる。
いつも聖夜君が声を出して笑ったところを見たことがないから、かなりびっくりする。
「ん?なんだ?」
「あっ、えっと・・・・ううん、なんでもない」
「そうか?ならいいが」
聖夜君のそんな顔を見ながら、私はため息をついた。
疲れたとか呆れたとかの意味じゃない、嬉しいため息ってやつだ。
「なっ、なんで笑ってるの?」
「ん?ちょっとな。ほら、お前はそっちの画面の方を見てろよ、もし何か異常がったら教えてくれ」
「うん、任せて!」
私が言うと、聖夜君がこっちを向いて、親指を立ててくれた。
それがとても嬉しくて、お兄ちゃんが大変な状況におちいっている中、
不謹慎ながらも喜んでしまった。