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想造世界  作者: 玲音
第二章 三つの国宝
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休憩タイム 何とかなった・・・・かな?

あれからゲームセンターに行き、散々遊んだ後、凛はやっと帰る気になったようだ。


「あのさ、ゲームセンターのところ、何でとばされてるの?」

「まぁ、なんだ。作者の都合だろう。休憩があんまり続くのもまずいと思ったんだろうな。」

「ダメだよ!僕のバッタークリーンヒットが!ベストハイスコアが!」


「別にいいだろう。ゲームでハイスコアが出たことが話されなくても。それに、バッタークリーンヒットって何だよ?バッターをバットでフッ飛ばすのかよ?」

「違うよ、超剛速球をカーンって打ったじゃないか!」


「そうですね、あれは凄かったです!」

「とにかく、飛ばすぞ。お前の活躍なんか、どうだっていいんだ」

「何でさ!これ、僕のための休憩でしょ?」

「うぬぼれるな。そもそも、俺はそんなことは知らん!とにかく、先に進めるぞ」


ブツブツと文句を言い続ける凛に、たこ焼きを買って食わせると、文句を言わなくなった。


こいつは、本当に赤ん坊だな。腹が減って文句をいい、満たされると黙る。


これで、たこ焼きは五個目だ。(六個入りのやつを、五個だ)その他にも、アイスクリーム、ケーキ、クレープ、それからパン。(これは、昼食の二時間後までに食ったものだ)


二時間でここまで食うと、見てるこっちが腹いっぱいになる。しかも、甘い物ばっかりだ。俺にとっては我慢のならないことだ。


「もう帰るの?まだ都会の物を食べたいんだけど・・・・」

「凛、お前は食う為に都会に行きたいって言ったのか?」

「そうだよ、それ以外ないじゃないか」


「ああそうか。うるさく付きまとって来る女に別れをするんじゃないのか?」

「あっ、そうだったね。でも僕、バイオリンあげちゃったからな。持ってないんだよ」

「とにかく戻るぞ。今日を逃したら、また何時会えるのかわからないんだろう?」


大事なところを忘れてしまっている凛を引っ張って電車に乗る。桜木は、ちゃんと覚えていたようだからよかった。


長い間電車に揺られて、約二時間半ぐらいで目的の駅に着く。時間は四時半だ。多分、まだ行っていないだろう。


駅から家に帰る途中に、この前の公園に通りかかった。


そう思ったら、凛は、そっちの方に足を向けている。


「おい、どこに行くんだ?」

「教えに行くんだよ。その時に、バイオリン貸してもらえばいいよ」

「女はどうする?」


「うーん。ここに来るんじゃない?亜修羅がいることを察知して」

「・・・・それはないだろう」


言葉ではそう言いながらも、あの女だったら本当に来そうで、自らあの女に近づく気はなかった。あいつだったら本当に来そうだ。


「だから、教えるんだ」


凛に流されて、一緒に公園に入る。


公園に入ると、少し控えめにバイオリンの音が聞こえる。


それと、何だか他の奴の声が聞こえる。


「あれ?あの子の他に、違う声が聞こえる」


なぜか、茂みに隠れるように促される。


なぜ隠れる必要があるのかわからないが、取りあえず様子を見ると言うことかもしれない。


「おい、クソガキ、耳障りなんだよ!こんなところでキーキー音を鳴らすなよ。俺達の邪魔だ」

「でも・・・・」

「んな下手で練習したって、上手く行かねぇってわからねぇのかよ?だから、お前はどこか行けってんだ!」


「でも・・・・ここで練習するって決めたから・・・・」

「ああ?ガキが生意気言ってんじゃねぇよ。才能のかけらもない、ガキが。他に生きる意味なんてないんだろう?なら、死んじまえよ」


そいつは、持っていた金属バットを子供に向かって振り下ろす。


そいつがそう言った時、凛の表情が無表情に変わり、スッと立ち上がって茂みをかき分けて行く。


いつもと雰囲気が全く違う。怒っているようだ。


「ねぇあんた、そう簡単に死ぬとか言うなよ」


凛が、いつもと全く違う能面のような無表情で、何の感情もこもっていない声で話す。いつものニコニコしている凛と違って、何だか大きな恐怖に見える。


男が振り下ろそうとしていた金属バットを何の苦もなく止めると、グイとひねって金属バットを奪うと、真っ二つに折った。


「なんだ、お前。俺達になんか文句でもあるのかよ?」

「大有りだよ」

「ああ?ガキが生意気言ってるんじゃねぇよ。てめぇも殺されてぇのか?」

「だから、死ぬとか簡単に言ってるんじゃないって言ってんだよ」


「お兄ちゃん・・・・」

「大丈夫。こいつらは、一瞬で片付けるから」


震えている子供に向かって、いつもの笑みを浮かべるけれど、まだ怖がっているようだ。不良と言うより、凛のことを。


しかし、そんなことに気づいていないようで、ゆっくりと子供の前に歩いて行くと、かばうように前に立って不良の方を見る。


その視線が、にらんでいる訳でもないのにやけに鋭く見える。


「うるせぇ、ガキに関係ねぇだろう!」


不良は凛に突っ込んで行った。と思ったら、凛の近くにあった木が倒れた。


きっと、不良が近付く前に、凛が木をなぎ倒したんだろう。一発のパンチで。


砂埃が上がって、思わず咳き込む。砂埃は、もろに俺達の方に向かって来たからだ。


もう少し考えてやってくれよ・・・・。


しばらくの沈黙の後、凛の声が聞こえた。


「言っておくけど、あんたより僕の方がよっぽど長く生きてるから。あんたのじいちゃんより長生きしてるよ。だから、ガキとか言うなよ。それに、そんなに殺すって連呼するなら、殺して欲しいとみなして、僕が本気であんたらを殺すよ」


凛の目が、嘘のかけらもないとわかった不良は、さすがに怯えて走り去ってしまった。当たり前だ。一発殴っただけで太い木を倒したのだし、金属バットも折ってしまうのだ。凛が本気になれば、人間の骨を折るのもたやすいだろう。普通の人間では無理な技だ。


不良を追い払うと、いつものフニャフニャな笑顔で子供の方に向き直る。


この転換の早さ、まさに神業だ。この様子を見ても、神童と言えるだろう。


「大丈夫?佐藤君」

「あ、はい。いっ、今のは・・・・」


明らかに怯えられている。あんなのを見せられたら当たり前か。


「ちょっと空手をやっててね。それよりも、友達を紹介するよ。お~い!」


いつもの凛に戻り、動作も子供じみている。


さっきのは、本当の妖怪って動きだったからな。


それを見て、少しほっとする。それは俺だけじゃなく、固唾を呑んで見守っていた桜木も同じようだった。


「こっちが修で、こっちが桜っち」

「あの、その名前で教えないで下さい。僕にもちゃんと名前があるので」

「ああ、ごめん。でも、そう呼んでもいいよね?」

「あっ・・・・はい」


明らかに嫌そうではあったが、うなずくしか選択肢がないような雰囲気だった。


あれを見せられた後では、俺でも逆らうのは気が引ける。


いつもはフニャフニャしているけれど、あれは素の性格じゃないらしい。


「あのさ、ちょっとそのバイオリンを貸してもらえないかな?」

「いいですけど・・・・」

「ちょっと訳ありでね」


凛は子供からバイオリンを受け取ると、丁度近くにある建物の中に入って行く。


と、ほぼ同時に、嫌な声が聞こえて来た。


まさか、本当に来るとは・・・・ある意味凄い。


「やっぱりここにいたんだ。ここにいるかなって思って!」

「ああお前、いいところに来た。ちょっとこっち来い」


本当にやって来た女を、凛が入って行った建物の傍に連れて行く。


ついでに、さっきの子供も連れて来た。


「どうしたの?こんなところに連れて来て?」

「いや、少しここで待っててくれ」


そう言うと、桜木と子供を連れて、急いで裏の入り口から建物に入る。


「何をするんですか?」

「ちょっとね。これから、あのお兄ちゃんがバイオリンを弾くんだよ」

「本当?」

「うん、本当」


俺の変わりに説明をしてくれる桜木。そのおかげで説明が省けるからいい。


俺なら、口が裂けても、凛のことをお兄ちゃんなどと言えない。


「弾くよ。いい?」


凛に声をかけられた部屋に入ると、沢山の老人の目が俺らに止まった。


ちょっとまずいところに来たんじゃないのか?


「おい、先客がいるじゃないか。いいのかよ、乱入して」

「いいんだよ。聞かせて欲しいって言われたんだもん」


凛がそう言い切り、窓の傍の椅子に座る。


聞かせて欲しいと言われたのは、嘘じゃないらしい。みんなが真剣な顔で耳を傍立てている。子供も、真剣に耳をそばだてていた。


みんなの視線を浴びる中、凛はバイオリンを弾き始めた。


この曲は、アメイジンググレイスだ。


音楽の時間に聞いたことがあるけれど、それよりも上手いかもしれない。音楽のことはよく知らないが、とても心に染みて来る。


気づいた時には凛は弾き終えていて、小さな拍手を恥ずかしそうに受けていた。


そして、紙を下に向かって落とす。


何を書いてあるのかわからないが、何か書いてあるんだろう。


「ああよかった。行ったよ行った。ちゃんとわかったみたい」

「あの紙になんて書いたんだ?」

「え?それは内緒♪」


聞いてみたが、答えるつもりはないらしい。


でも、これでちゃんとあの女がわかったのだ。それなら、凛が何を書こうと、俺が聞く必要はない。


「もう一回、聞かせてくれんかのぉ。老い先短い私らでも感動したんじゃ」

「わかりました!もう一回弾きます!」


凛は、そう元気に申し出ると、アメイジンググレイスを弾いた。


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