姉の心配と、妹の焦り
「・・・・遅いわね」
「そうだな、あれから20分弱か。十分程度で着くと言っていたはずなんだがな・・・・」
そう言って時計を見上げる亜稀さんの様子を見て、私はとてもハラハラしていた。
後二時間弱で、瑞人が助からなくなってしまう。
それがわかっているから、一分、一秒を無駄にしたくなかった。
・ ・・・それなのに、その科学者とやらが来ないから、
私達は何も出来ないまま無情にも時間だけが過ぎて行く。
「・・・・ちょっと電話して来る」
そう言って亜稀さんが立ち上がった時、丁度いいタイミングで玄関のチャイムが鳴り、
私と亜稀さんは競い合うかのような勢いで玄関のドアを開けに行った。
玄関を開けて一番最初に見えたのは、とても大きなダンボールで、
その次にそれを抱えている数人の男の人達が見えた。
「申し訳ないのですが、そこを退いていただけませんか?」
あまりの驚きに、
その人達の通ろうとしている道に立ちすくんでしまっていたから注意をされてしまった。
「すっ、すみません」
慌てて退くと、その人達は奥の部屋へとその大きなダンボールを運んで行く。
もしかしたら、あれは、瑞人を目覚めさせる為に必要な機械だったりするのかなと思って、
亜稀さんの方を向くと、亜稀さんに私の思いが伝わったのか、亜稀さんが奥の部屋へと歩いて行った。
本当は、私が地下への扉を開ける方法を知ってたら自分で開けるけど、
残念ながら見せてもらえなかったから、こうやって亜稀さんにやってもらうしかない。
でも、やっぱり年上の人をあごで使うみたいで嫌だなと思いながらドアを閉めようと前を向いた時、再び驚くことになった。だって、そこには、聖夜君と、玲奈がいたんだもん。
「れっ、玲奈!?何やってるの??」
「あっ、お姉ちゃん!お兄ちゃんの様子はどうなの?」
「・・・・」
「僕の知り合いがあの装置を作ったんだけど、あいつは人と交流を持つのが苦手だから、
僕が代わりに持って来たんだ」
「そっ、そうなんだ・・・・」
その話し自体もあまり信じられるものではないけど、
聖夜君本人が作ったと言う話よりは信じ易いなと思ってうなずく。
「じゃあ、僕はこれで」
聖夜君はそう言うと、私達の前をよこぎって地下へと向かって行く。
私はその様子を見送った後、玲奈に話を聞くことにした。
「玲奈、今まで何やってたの?その友達って、あの白衣の人?」
「・・・・白衣??」
「うん。金髪で二十代そこそこの白衣を着た人」
「・・・・あっ、ああ。うん、そうそう」
そう言ってうなずく玲奈を見て、どこか異常がないかと目だけで確かめる見たところ、
変なことはされてないみたいだけど・・・・。
「どっ、どうしたの?」
「何かされなかった?」
「なっ、何もされてないよ?」
「本当?」
「ほんとだってば!お姉ちゃん心配し過ぎだよ!
変な薬も飲まされてないし、それに、変な実験にも付き合ってないし、
ただ、私がくっついてただけよ!」
そう言ってそっぽを向く玲奈を見て、その言葉に疑問を抱く。
この子は、一般的には子供って言われる年齢だ。でも、一応10歳になっている。
10歳になれば、お菓子をあげるとかOOを買ってあげると言われてついて行くことはないと思う。
と言うことは、玲奈の言葉は本当だと思うけど、
この子は私と似ていて、結構警戒心が強かったりする。
だから、そんじょそこらの言葉じゃ知らない人について行くはずないと思うんだけど・・・・。
「玲奈、もしかしてあの人、知り合いだったりするの?」
「え?どう言うこと?」
「子供子供言われてたって、あなたは一応10歳でしょ?
それぐらいになったら、きっと知らない人について行ったりはしないと思う。
となると、さっきの言葉は嘘じゃない。なら知ってる人だからついて行ったのかなって・・・・」
私がそう言うと、なぜか玲奈が思い切り慌て始めて、私は尚更不思議に思う。
そこまで知られたくないことなのかなって思うと尚更知りたくなる。
危ない人じゃなきゃいいけど・・・・。
「多分、大丈夫だと思うぞ」
「・・・・どうしてそう言えるの?」
「瑞人の知り合いだからだ」
「・・・・そうなの?」
「絶対とは言い切れないが、亜稀だって瑞人だって面識がある。それなら、大丈夫だ」
なんだか、物凄く無理矢理な理屈だと思うけど、なぜだか納得する自分がいて、
ある意味怖いなって思った。
伊織君は9月に転校してから色んな噂の立つ不思議な人だった。見た目もいいし頭もいい。
それに、スポーツも出来るみたいだから物凄くモテるみたいだけど、性格が少し怖がられてる。
思ったことを全部言っちゃうから、泣かされた子も多いみたい。
だから今では、よほど粘り強い子じゃなきゃ、寄ってこないらしい。
男の子にも女の子にも、不思議で怖いって言うレッテルが張られちゃってるから。
私も、前までは伊織君と話すことはなかったからそう思ってたんだけど、
クリスマスで少ししゃべって、案外普通の人なんだなって思った。
噂だけが大きくなってるだけで、そんなに怖くもなければ、悪い人でもないらしい。
・ ・・・まぁ、さっきの無理矢理の理屈は、ちょっと理解し難いけど、
全てが理解出来ないほど変な人じゃないってことはわかった。
「お姉ちゃん!聖夜君が呼んでるから、来て!」
「わかったわ」
玲奈に呼ばれて、今さっき大きなダンボールが運び込まれた瑞人の部屋へと行く。
すると、不思議なゴーグルのようなものを装着した聖夜君が立っていて、私は首をかしげる。
「これより、瑞人の意識の中に入ろうと思う」
「ええっ!?」
まさかの発言に、私は大きな声を出してしまう。
そのせいで、リビングにいた栞奈さん達と、キッチンにいた亜稀さんがこっちに近づいて来る。
「何をしようって言ったんだ?」
「だから、これから瑞人の意識の中に入ろうと思うんだ」
「・・・・なるほど」
「うん。だから、花恋を連れて行くけど、それ以外の人物は地下に来ては行けない」
「なんでだ?」
「花恋が集中出来ないだろうからだ。だから、地下へ行けるのは、最小限の人数。
僕と玲奈と花恋だ。それ以外、絶対に地下に来るなよ」
聖夜君はそう言うと、慌てる私の手を引っ張って無理矢理地下への階段を下りた。
そのせいで、みんながどんな顔をしているのかを見ることは出来なかったけど、
きっと不満そうな顔をしてるに違いない。