恋する心は繊細なのです
私はあれから、聖夜君に言われたとおりに写真を撮っていた。
でも、そのχと言う装置は、まるで美容院にあるパーマをかける機械みたいなものにそっくりだった。
唯一違うところと言ったら、ヘルメットみたいに、
ちゃんと顔まで覆うような深さになってるってことぐらい。
とにかく、とても凄い機械のようには見えないんだ・・・・。
「よしっ、出来た・・・・。そっちの方はどうだ?上手く撮れたか?」
「あっ、うっ、うん。何とか撮れたと思うけど・・・・どうかな?」
私がカメラを渡すと、聖夜君はうんうんとうなずいて、指で丸を作った。
と言うことは、私の撮った写真はどこも問題がなかったらしい。
「上出来だ。まさか、ここまで上手に撮れるとは思ってなかった。さすがだ」
「あっ、ありがとう・・・・」
想像以上に褒めてもらえて、私はとても嬉しくなる。
まさか、ここまで褒めてもらえるなんて思ってなかったし、
それに、聖夜君がここまで人を褒める人だとも思ってなかったから、尚更だ。
「うん、じゃあ、早速データをおじい様に送るとしよう。ちょっと待っていてくれ」
「うん」
聖夜君の言葉にうなずくと、私はとりあえずその場にある椅子に座った。
聖夜君は、正面にある机に座って、いつも持っているパソコンとカメラを繋いで
おじいちゃんに手紙を送る準備をしている。
その顔があまりにも真剣だったから、色々と話しかけちゃったらいけないかなと思って、
無言で聖夜君のことを見つめる。
そんな私の視線に気づいてか、聖夜君もたまに私の方をチラチラと見て来るから、
私はなんだか嬉しかった。なんでかって言われるとわからないけど、嬉しいと思った。
そのままの時間がどのくらい続いたんだろう・・・・多分、そのまま10分ぐらい経った時だと思う。
急に、聖夜君の携帯電話が鳴り出して、聖夜君が不機嫌そうに眉をしかめる。
私は、その電話の相手の声が聞こえないから全然状況が把握出来ないんだけど、
聖夜君の表情から、ちょっと大変な話なのかなって言うのが理解出来た。
「篠崎、今から瑞人のところへ急ぐぞ」
「えっ!?なっ、なんで??」
「瑞人が倒れたんだ。至急、来てくれとのことだから、お前も一緒に来い!」
「でっ、でも、私がついて行ったら、逆に迷惑なんじゃない?邪魔でしょ?」
「邪魔じゃない。お前は僕の助手なんだ。ついて来ないなんて言わせないぞ」
いつの間にか自分が聖夜君の助手になっていて、
思わず、「いつの間に!?」って言うツッコミを入れたくなったけど、
そんなことをしてる余裕は絶対ないんだなって言うことがわかってたから、
その言葉を何とか飲み込む。
「そっ、それじゃあ、邪魔にならないように頑張ります!」
「うん。じゃあ早速、何人か大人を呼んで来てくれないか。出来れば男がいい」
「わかった!」
元気よくうなずくと、今までの道のりを戻って研究所から出ると、
たまたま目の前を通りかかった男の人に声をかける。
「あの・・・・聖夜君が何人か男の人を集めてくれって言ってて・・・・」
私がそう言っただけで、その人は理解したようで、
「わかりました。ダンボールを持ってきます」と言って足早にどこかへと行ってしまった。
私は、「ダンボールを持って来て」って言ったつもりはないのに
なぜかダンボールを取りに行ってしまった男の人に、私は不満を隠せなかったけど、
とりあえずは研究所にいる聖夜君の元へと戻る。
「準備が出来た。さぁ、いくぞ」
「えっ、あっ!」
研究所内のとある一室に入った途端に声をかけられて驚くけれど、
それよりも更に驚いたことがあった。
それは、今さっきまでそこにあった、χと言う装置が跡形も無く消えていたからだ。
それを見て、あることが頭に浮かんだけれど、ありえないと思って、首を振る。
「・・・・あのさ、そこにあった機械は?」
「あれなら、今さっき解体してダンボールに詰めて運び出したから、大丈夫だ。
それよりも、早く行くぞ!」
聖夜君に手を取られ、私はドキドキするのを感じたけど、
それと同じ場所に、さっきのことに対しての驚きが存在してるから、
なんとも不思議な気持ちになっている。
心が感情を感じる前に次の感情が流れてくるから、きっとこんな感じになってるんだと思う。
・ ・・・それにしても、まさか、あの短時間であの複雑そうな機械の解体、運び出しをするなんて・・・・
最初に考えていたありえないと言うことが真実だったから、本当に驚いた。
「・・・・ここにいる人達、とっても凄い人なんだね」
「うん。僕の行動パターンを先読みしてすばやく動いてくれるから、とても優秀な奴らだと思う」
「・・・・聖夜君は、そうやって先を読んで待機しててくれる人が好き?」
「うん。遅れるような奴は大嫌いだ」
その言葉は、私の胸に深く突き刺さった。そして、その傷口から、私の中の気力がドンドン流れ出す。
私は、まだまだ甘いみたいだ。
仲良くなれたと思ってるのは私だけで、聖夜君は、そんなこと、かけらも思ってないんだろうな・・・・。
そう思うと猛烈に悲しくなって来て、ため息をつきながら待機していた車に乗って、
お兄ちゃん家に向かった。