切なる願いも、神様には届かないものでしょうか?
「ここ、なに・・・・?」
「地下だ。瑞人の部屋にあるスイッチを押すと現れる階段を下りた先の」
「えっ、えっと・・・・それはわかってるんですけど、まるで別世界みたいだなって思って・・・・」
私が言うと、亜稀さんはようやく意味がわかったようで、小さくうなずきながら歩いている。
私と栞奈さんは、突然現れた階段と地下に驚きを隠せないままでいた。
まさか、地下が作られていたなんてね・・・・。
「あのカーテンの中に瑞人はいるはずだ。誰かちょっと様子を見てくれ。
俺は、装置の方を調べなくちゃいけないから」
「わかりました」
亜稀さんの言葉に三人同時にうなずくと、保健室や病院とかにあるカーテンを開けて中に入る。
そこには、なんだかよくわからないけど、不思議な装置を頭につけて横たわっている
瑞人の姿があった。
私はその姿を見て、思わず涙が出そうになる。
今までこんなに静かだったことがないから、とても寂しい。
「瑞人の様子はどうだ?」
そう問うて来る亜稀さんの言葉に、伊織君が動き出す。
まずは、手首を触って脈の確認。それから、手を何度か叩いた。
「反応はないみたいだ。まだ気絶しているらしい」
「そうか・・・・おかしいな。もう一時間経ったはずなんだが・・・・」
「いつもはどのくらいで意識を取り戻すんですか?」
「場合にもよるけど、平均は約40分から一時間の間。
だから、もう目を覚ましてもおかしくない時間だとは思うんだが・・・・」
そう言いながら機械をいじる亜稀さんを見て、私はなんだかとても不安になって来る。
いつもなら目覚めている時間に目覚めていないなんて・・・・。
このまま瑞人が目覚めなくなったらどうしようかと思った。
もしそうなってしまった場合、瑞人を動けなくさせたのは、私だ。
私のせいで、瑞人は動けなくなっちゃったんだ・・・・。
そう思うと足から力が抜けそうになるが、何とか栞奈さんに支えてもらって立ち続ける。
ダメだ。まだマイナスのことを考えるのには早い。
いつもはその時間で目覚めることが多くても、今回は遅いだけかもしれない。諦めちゃダメだ。
「どうにか有澤君を目覚めさせる方法はないのかな・・・・」
「・・・・もう一回その装置を使ってみたらどうだ?時間に猶予はないんだろ?」
そんな伊織君の言葉に、なぜか亜稀さんは顔を伏せた。
その行動だけでも、その先に待っている言葉がいいものではないと予想出来た。
「それが出来るなら、俺もそうしたい。
しかし、この装置は体と脳に大きな負担をかける為、連続での使用は止められているんだ。
だから、次に使用出来るのは、今から2時間経った後だ」
「それじゃあ、間に合わないかもしれないじゃない!」
「・・・・」
私の言葉に亜稀さんは何も言わずに立ち尽くす。とても腹立たしい気持ちでいっぱいだった。
話に聞いてる限りじゃ、私達の声や触ったことなどを感じることが出来ない。
それじゃあ、応援のしようもない。
それに、この不安を亜稀さんにぶつけてしまっている自分が一番嫌だった。
亜稀さんだって、自分の弟が生命の危機にさらされてるんだ。私以上に不安な気持ちだろう。
それなのに、こんなに平静を保とうとしているんだ。私も平静を保てれば・・・・。
「・・・・とりあえず、このことを伝えてみる」
「誰に?」
「この装置を作った奴だ。そいつに事情を説明すれば、もしかしたら助かるかもしれない」
その言葉を聞いて、私は必死に神様にお願いすることにした。
普段はあまり神様とかを信じるようなタイプじゃないけど、今はそんなこと関係ない。
どうにかして瑞人を救って欲しいと言う気持ちでいっぱいだった。
「篠崎さん・・・・?」
「神様にお願いしてるの。
普段はこんなことしないんだけどさ、私にはこうすることしか出来ないみたいだから・・・・」
私がそう言いながら目を開けると、私の隣に立っていた栞奈さん、
そして、伊織君までもが私のように手を合わせて目をつぶっていたのだ。
その様子に私が驚いていると、伊織君と栞奈さんが同時に片目を開いて、
それぞれバラバラのタイミングで言った。
「俺も普段は神なんて信じてない。
だから、都合のいい時だけ頼ってくんなって追い払われるかもしれないけど、
俺が参加することで、少しは願いが通じる気がしたんだ」
「私はね、神様を信じてない訳じゃないけど、
今までこうやって真剣にお願いしたことがなかったから、願いが通じるかどうかわからないけどさ、
みんなで必死にお願いしてれば、何だか叶うような気がしてさ」
そう言う二人の行動が嬉しくて、私も負けじと目をつぶって神様にお願いする。
私は神様のことを信じてないし、今まで生きて来た中で酷いことを何回もして来た。
だから、私に罰を与えるのは全然かまいません。
でも、どうか瑞人のことだけは救って下さいって、お願いした。
あいつは、馬鹿で単純で・・・・。だからかもしれないけど、悪いことは全然しない。
正義感が妙にあるから、ちょっとでも曲がったことは大嫌いで、
その割には、自分に甘くて少しだけ道を踏み外したり。
でも、私が怒ると直ぐ謝って元の道に戻って来る。
そんな馬鹿だけど、私にとっては大事な人なんだ。
正直言って、あいつがいなくなっちゃった後のことを想像するけど、それが全く想像出来ない。
まぁ、形が恋人であれ幼馴染であれ、あいつがいない未来を想像することが出来ないんだ。
あいつがいなくなった時、私はどうなっちゃうんだろう・・・・なんて想像もつかない。
もう、この際この恋が叶わなくたっていい。片思いのままだっていい。
ただ、生きて傍にいてくれるだけでいいから、だからどうか、あいつを救ってください。
懸命に祈った。神様に自分の思いを全部ぶつけて、いかに自分の思いが強いか見せ付けてやった。
うん、なんか、最初と思いをぶつける相手が違っちゃったけど、いいのかな?
そう思ってため息をつく。いい訳がない。
だって、今のはまるで神様に喧嘩を売っているようなものだ。
そう思われちゃったら、もう絶対願い事をかなえてくれないだろうなと思って、
私は必死に弁解をする。
私は、あなたに喧嘩を売った訳ではありません。
ただ、どうしてもあいつに生きてて欲しいから言ったような言葉で・・・・。
そんな風に話しかける自分が、何だか変な人のように感じるけど、私は必死に祈り続けた。
普段は絶対に神様を信じていなさそうな伊織君だって、私と一緒にお願いしてくれてるんだ。
だから、私も必死にお願いしないと・・・・。
「本当に、どうか、お願いします・・・・」
小さな声で呟いたその時、不意に、私の願いが叶うような気がした。
あまりにも急な出来事に、私は何だか訳がわからなくなる。
さっきまでは、必死にお願いしてたんだ。自分の願いが叶いますようにって。
だから、叶うような気を起こしたことは一回もない。それなのに、急に願いが叶うような気がした。
それが何だかおかしくて目を開けると、
いつの間にか部屋から出ていた亜稀さんが部屋の中に入って来た。
その手には携帯電話を持っているから、きっと、装置を開発した人に電話をしたんだろう。
「とりあえず、こっちに来るらしい」
「助かるの?」
「・・・・わからない。ただ、新しい装置を持って来るみたいだから、少し時間がかかるらしい」
「・・・・そうですか」
私が感じたあの気持ちは、きっと思い過ごしだろうと感じた。
やっぱり、神様と言うものは、必死にお願いしても願いをかなえてくれるってことはないらしい・・・・。
いつも通ってる神社で恋愛成就のお願いをしても叶わないようにね・・・・。
「でっ、でもさ、篠崎さんプラスの方向には向いてるよ?」
「・・・・そうね」
「とりあえず、後30分程度で来るらしいから、それまで地上に戻っていよう」
「・・・・」
本当は、瑞人の傍にずっといたかった。
でも、私がそれを言う前にみんながぞろぞろと部屋を出て行ってしまうため、
私は、仕方なく地上に戻ることにした。