大事なこと
「それじゃあ、ここに寝かせて」
亜稀の指差す手術台らしきところに水斗を寝かせると、俺はそのまま一歩後ろに下がる。
水斗を寝かせたのは、ベットと言うには少々固く、
手術台と言うには、少々機械が多い不思議なものだった。
普通の手術台ならライトのある位置には、
まるで美容院にあるパーマをかける機械みたいなものがある。
まさか、この状況でパーマをかけるって言うんじゃないだろうな・・・・。
そんな風に疑っている俺には目もくれず、
亜稀は、俺の考えていたその不思議な機械を水斗の頭に取り付けた。
その姿は、まさにパーマをする時と大して変わらず、あまり緊張感のない姿だ。
このピリピリとした空気には似合わないその格好に、
俺は不謹慎ながらも少し可笑しいと思って笑いそうになるが、
亜稀はいたって真剣で、水斗に被せた機械のコードを伸ばし、近くにあったやっぱり変な機械に繋ぐ。
それは、聖夜の家にあるものと似たようなもので、
もしかしたら聖夜が作ったものなのかと首をかしげる。
色々気になることはあるが、今話しかけても亜稀は、絶対に答えてくれないだろうなとわかっている為、俺は、亜稀の動きが止まるまでその答えを聞くのを待つ。
亜稀は、ひとしきり機械を触ると、ふぅとため息をついて俺の方を振り返った。
「とりあえず、これで大丈夫だと思う」
「・・・・そうか。ならよかった」
俺がそう言って出て行こうとすると、なぜか、亜稀が呼び止めて来た。
「聞かなくていいのか?」
「・・・・まぁ、聞きたくないと言ったら嘘になる。
でも、何だか普通の病気って感じじゃなさそうだしな。
外部の人間である俺に話していいような内容じゃない気がする」
「もう、俺が堕天使だって知ってる訳だ。十分、部外者じゃない」
「・・・・じゃあ、教えて欲しい」
俺の言葉に亜稀はなぜか満足そうにうなずくと、さっさと地上への階段を上って行ってしまった。
残された俺は、不思議な機械に繋がれた水斗のことをじっと見る。
普通の気絶程度なら、救急車は呼ばない。それに、至急連れて来いと言うこともないだろう。
しかし、水斗のこの症状が、難病か何かだった場合、普通なら家よりも先に救急車だ。
この矛盾した出来事であるからこそ、俺は、あんな反応をしたのだ。
通常、救急であれば、大体病院に連れて行くのが正しいだろう。
まぁ、例外として貧困で悩んでいたりしては別だが、
こいつのうちは、金持ちって訳ではなさそうだが、貧乏でもないはずだ。
となると、病院に連れて行くはずだ。しかし、病院に連れていかない。
と言うことは、病院に行ってはいけないような何かがあるんだと思う。
それか、単に病院に行っても無駄・・・・いや、もしその場合だったら、
家で色々やっても無駄だからな。やっぱり、前者の方か。
「どうでもいいけど、早く目覚ませよ」
気絶をしているから聞こえないはずではあるけれど、なぜか声をかけていた。
いつもなら、そうする奴に「聞こえない」だのなんだの言う側の人間のはずなのだが・・・・。
何だか余計なことばかり考えてしまう自分に首を振ると、リビングに戻った。
「話は長いのか?」
「長いって言ったら長い」
「・・・・まぁ、それでもいいか」
「瑞人が目覚めるまでには終わるはずだから」
「・・・・それって、何分後だよ」
「早くても一時間後」
そんな亜稀の返しに、俺はただため息をついた。
これは、こいつなりのジョークなのか、それとも本気なのかわからないが、
どちらにせよ、さっきよりも余裕が感じられる。
「・・・・出来るだけ完結に、わかり易く話してくれ」
俺がそう言ってリビングの椅子に座ると、
亜稀は無言でうなずいて、なぜか部屋中の扉や窓を閉め始めた。
「そんなに外部には聞かれたくない話なのか?」
「まぁ、警察、そして、花恋には絶対に」
「警察はともかく、どうして篠崎も・・・・」
「それは、瑞人の意思だ。警察はわかるけど、花恋のことは俺もよくわからない」
「・・・・そうか。それじゃあ、準備が出来たら話してくれ」
俺が言うと、亜稀は窓と扉の最終チェックを終え、ソファーに座ると、ゆっくりと話し出した。