休憩タイム デパート最高!!
階段を上った先に見えたのは、大きなショーウィンドゥだった。と言うか、そこ以外に沢山のショーウィンドゥが並んでる。都会の奴らは、ショーウィンドゥが好きなのかと思う程だ。
「ああ、ここはつまんないな」
「じゃあ、三階に行くか?」
「あったり前じゃん♪」
階段を上った瞬間にそう呟いたかと思ったら、また階段をダーッと駆け出す。引っ張ってもらってるから楽なのだが、凛は疲れないだろうか。
三階に到着。確か、三階は婦人服売り場。二階よりも(二階は紳士服売り場)縁がないだろうと思って、上に行くのかと思ったら中に入って行く。
「おい、バカ!ここは婦人服売り場だぞ?」
「いいの」
何がいいのかわからないけれど、取りあえずついて行く。
こいつ、いつも女ものを着てたのかと思っていたら、凛の目的地が違うことがわかった。
「僕、ここに行きたかったんだ」
「何だよ、朝からこんなのを食ったら腹壊すぞ?」
「大丈夫、胃は丈夫だもん」
「じゃあ、買って来いよ」
財布を渡してその場にとどまった俺を見て、凛が引っ張る。
「亜修羅も来るの!」
「俺は朝からそんな甘い物は食いたくない!」
「だから、買わなくてもいいから」
「じゃあ、何で俺がついて行く必要がある?」
「だって、買い方わからないんだもん」
「桜木がいるだろう」
「桜っちだって、ほとんど知らないって言ってるよ」
「嘘だろう・・・・」
そうは言ったけど、凛は嘘ついているようには見えない。凛はともかく、桜木も経験がないって・・・・今までどうやって生きて来たんだよ。凛なら何とか生き延びていられそうだけど、あいつは普通の人間なんだし。
「そう言うことだからさ、よろしく!」
気を抜いたところを引っ張って行かれる。六時に出て来て、六時十分発の電車に乗ったのに、店内にある時計は九時を回っていた。随分時間が経ったようだ。
そう思うと、俺達が住んでいるのがどれだけ田舎なのかと言うことがわかるな。
凛が来たのは、婦人服売り場の一番奥にあるアイスクリームが目的だったらしい。
俺だったら絶対腹を壊すと思うのだが・・・・。
店員は、俺達を見て少しいぶかしんだが(今は学校の時間だからな)、すぐに接客を始めた。
「なにするんだよ?」
「・・・・」
「おい」
「・・・・」
「お連れのみな様は、あちらにいますけど・・・・」
店員に言われて振り返る。二人は後ろにはいず、店の奥にある大きな看板を見上げていた。
子供だな、あいつらは本当に。
「おい、なにするんだ?」
「何でもいいよ!桜っちも僕と同じ!」
「いや、悪いからいいですよ」
俺は、凛の言葉を聞いて、桜木の言葉を聞く前に、取りあえず頼んだ。あいつらの好みなんか知るか。あいつらが自分で決めないのが悪い。
「お待たせしました。五百六十円です」
電車に乗った時にかなりくずれたから、何とか大量のおつりをもらうことはなかった。しかし、また、店員に不思議な目で見られた。と言うか、驚きの目か。
金を払うと、さっさと受け取り、二人を引きずり出してから、やっと話した。
「何見てたんだよ?」
「おっきなアイスだよ!コーンの上にアイスが五個乗ってた!!」
「そうか、でもそれはソフトクリームだ。五段になんかしたらくずれるぞ」
「このデパートの中にあるんだって。だから、後で行こうよ」
「まだ食うのか?」
「後でって言ってるでしょ!」
後でと言ったって、俺にとっては驚愕だ。どうしてそんなに甘い物を食べられるのか不思議なくらいだ。気持ち悪くならないのか?
「さぁ、行こう♪」
「まだ食ってるだろう?」
「時間がもったいない。それに、ここに立ってるのは邪魔だしね」
「落としたって知らないぞ」
「平気平気♪ちゃんと歩くから」
凛はズンズンと歩いて行く。仕方がないからついて行くが、危なっかしいんだよな、思い切り。
売り物の服にアイスクリームをつけそうになったりする。
金を払うのは俺だと言うことを自覚してもらいたい。
四階は、子供服とゲームを売っている階だった。それを見て、凛がはしゃぐ。きっとゲーム目当てだろうな。
「おい、そんなにはしゃぐな。落とすぞ」
「じゃあ、亜修羅が持っててよ。ちょっと遊んで来る。桜っちもね」
凛と桜木の分のアイスを無理矢理持たされる。桜木は、半ば強引に引っ張られて行ったが、実際にゲームをしているのを見ていると、まんざらでもなさそうだ。
あまりにも二人が楽しそうだったから、少し気になって覗いてみた。そこには、おどろおどろしい建物に、ゾンビが徘徊している。まるで、バイ○ハザードみたいだな、これ。
「おい、そんな気色悪い生き物をぶち抜いて、面白いのか?」
「出来ると楽しいよ。何と言うか、快感♪」
ゴキブリは怖いくせに、こんな生々しいゾンビをぶち抜くことは快感らしい。
凛のことを気に入っている読者のみなさん、凛はこう言う恐ろしい奴だ。それだけは言っておこう。
「亜修羅、今変なこと言ったでしょ?僕は、ゾンビをぶち抜くことが楽しいって言ってる訳じゃないよ。ただ、倒せた時が快感って言うんだよ。ほら、ラスボスを倒した時の快感と同じようなものだよ」
後ろを向いて考えていたのに、凛に考えを見透かされた。画面に集中しているはずなのに・・・・。なぜ?
「僕は、ちょっと怖いんですけど・・・・」
「そう言いながらやってるな」
「そうですね、僕はちょっと怖いのでやめさせてもらいます」
桜木は、真っ青な顔で、俺からアイスクリームを受け取る。そんな顔で食っても、余計気分が悪くなるだけだぞ。
「じゃあ、僕もやめたっと。あっ、あっちにもある!」
凛が走って行った方向にあったのは、モンスターを倒して行くと言うような奴だ。所謂、ロールプレイングゲームだな。
「おい、凛!もうそろそろやめろ。時間がなくなるぞ。ここで遊んでたら、ゲーセン行けないぞ」
「それはまずい!」
何がまずいのか・・・・。とことん凛の思考は理解しがたいが、取りあえず、ゲームをやめてくれたことはよかった。
しかし、五階に行く前に凛が何かを発見した。その目線の先にあるのは、また食い物屋。どんだけ食い意地が張ってるんだ。
「僕、お腹空いたから、あそこに入ろう?」
「そうですね、さすがにお腹も空きますね」
「まぁ、確かにな」
「じゃあ、行こうよ」
自分も腹が空いてるから、今度はすんなりと凛に同意した。
そこは、ファーストフード店で、朝だからか、客はほとんどいない。朝食とも昼食とも言えない時間帯なら、当たり前か。
店に入り、注文をしてから品を受け取り、近くの椅子に座る。
「おい、その高い壁はなんだ?」
俺の目の前に立ちはだかる壁を指差す。
隣の桜木は、すでに包みを開けて、ハンバーガーにかじりついているから、全く気づいていないようだ。
「壁・・・・ですか?」
俺の言葉に、初めて前を見る桜木。そして、目の前の壁に仰天する。
すると、その壁が崩れて凛の顔が見えた。
「壁じゃないよ、美味しそうなハンバーガーだよ!」
「お前、何個頼んだんだよ」
「二十個」
「二十個!?」
普通に言う凛に、驚きを隠し切れない桜木。
俺は、驚きを通り越して呆れていた。こいつ、絶対太るぞ。
「お前、体重いくつだ?」
「四十」
「嘘つくな、五十はあるだろう」
「そんなにないもん!」
「あの・・・・多分、凛君はそんなにないと思うんですけど・・・・」
「そうだよ、じゃあ、亜修羅はどうなのさ!」
「おっ、俺は・・・・秘密だ」
「何でさ」
「うるさい!」
凛に教える必要はない。個人情報は絶対に他人に言うなと言われてるし(これは少し違うが)、それに何より、自らの体重を把握していないから、いくら聞かれたって、答えられる訳がない。
「そう言えば修さんは知らなかったですよね、凛君の食べる量。僕は学校でいつも見てるんですけど驚きますから、初めて見る修さんはかなり驚いたと思います」
「まぁ、そうだね。大体の人は驚くけどさ、これくらい食べないとお腹がたまらないんだよね」
話す時すらも、口を動かしモグモグと食べ続ける凛。凄い食欲だ。育ち盛りと言ったって、これは食い過ぎだと思うぞ。同い年の桜木は一個だけだし。
「じゃあ、行こう」
最後にコーラを飲み終わると、席を立つ凛。俺は食べ終わっていたけど、桜木は何だかもたついている。
「桜っち、頑張れ」
「はい・・・・」
・・・・もしかして、こいつは小食なのか?凛は大食い。桜木は小食・・・・まともなのは俺だけか。
桜木は、何とかと言った様子でハンバーガーを飲み込むと、ため息をついた。
「よっし、次行こうか♪」
あんなにも食った後なのに、すばやく動ける凛を凄いと思うが、言うことはしない。
「待ってください、あんまり早く動けません!」
「早く!早く!」
「待て!」
走って出て行く凛を、俺達は慌てて追いかけた。