一途に思う心は、時に相手の危機を呼び込むことがある
「そう言えばお前、俺達を縮ませることの出来る人物に検討がついたって言ってたな」
「ああ、そんなの簡単だぜ。だって、この世の中でそんなことが出来る人物と言ったら、俺、一人しか知らないもん」
「・・・・聖夜か」
「多分な。どうして俺達を実験台にしたのかわからないけど、聖夜の仕業だと踏んで間違いない!」
「・・・・よし、後で問いただす」
「ちょっ、これ、あくまで俺の憶測なんだけど・・・・」
「でも、可能性は限りなく百に近い。あいつしかいない」
「そっ、そう・・・・」
なぜだか微妙にうろたえている水斗の言葉にうなずいた時、遠くの方からこちらに向かって歩いて来る足音が聞こえて、そちらの方を向く。そこにいたのは、水斗の知り合いだった。
「おい、お前の知り合いが凄く怒りながらこっちに来てるぞ」
「知り合いって・・・・花恋のことか?」
「多分な。ほら、向こうを見てみろ」
「わっ、ほんとだ。げっ、すっごい怒ってる・・・・そりゃまぁ、俺から誘ったのにすっぽかして何時間もいる訳だし、怒られないはずないか・・・・」
「当たり前だ。謝る準備しとけよ」
「そう言う修は平気なのか?」
「多分な。あいつ、そうそうのことじゃなきゃ怒らない。まぁ、女が絡んで来ると、小さいことで怒るけどな」
「・・・・羨ましいなぁ」
そう切実につぶやく水斗に半ば同情のまなざしを向けてやると、なぜかうなずいて、ベンチから立ち上がった。
「覚悟を決めたぜ」
「じゃあ、頑張れ」
「え?」
「俺は栞奈を探しに行く。お前は一人で頑張れ」
そう言って歩いて行こうとすると、何を思ってか、水斗が俺の腕をつかんで離さない。
「おい、何するんだよ!」
「頼む!一緒に説明してくれって!」
「俺は知らない!このままじゃ俺も怒られかねない」
「怒らないって言ってたじゃんか!」
「俺も、栞奈の沸点がよくわかってないんだよ!」
「お取り込み中悪いけど、ちょっと瑞人お借り出来るかしら?」
「どうぞ」
「げっ!」
「ありがとう。ほら、こっち来なさい!」
「ああっ、ちょっ、待って、花恋。これにはちゃんと列記とした理由があるんだ!」
瑞人はそう言いながら引きずられて行く。それを見ながら俺はため息をついた。あいつも中々大変そうだとは思う。しかし、栞奈はもっと怖いぞ。
怒る剣幕もそうだが、それよりも、怒りの上を行った時が一番怖い。妙に静になって、ドンドン追い詰めていくんだ。あれにはたじたじになる。
「へぇ~、理由なんてあるの。じゃあ何よ!」
「えっ、いやぁ・・・・修がね、その、ゲームセンターに行きたいって・・・・」
「そのことじゃなくて、これ!このメール、どう言うこと!」
「えっ、あっ!?なっ、なんで俺のケータイを花恋が持ってるんだよ!ないなと思ってたら、花恋が持ってたのか!そんでもって、中身まで見たのか!」
「ええ。確認よ、確認。あんたが変なことしてないかってね」
そう言って瑞人のことを見る篠崎の視線はヤバかった。さっきは栞奈の方が怖いと言ったが、訂正する。「女はみんな怖い」これが結論だ。
「まっ、まさか、メールの中身とか見てないよな?」
「だから怒ってるの!何よこれ!女からのメールばっかりじゃない!」
「ちゃっ、ちゃんと、男の友達もいるぞ!」
「そう言う意味じゃない!問題は文面よ、文面!これじゃあまるで、恋人じゃない!!」
「そう言うつもりはない!俺は全く、一切ない!」
「あんたはそう思ってても、本気にしてる子がいるかもしれないでしょ!」
花恋に言われ、瑞人はもうたじたじだった。そんな様子を見て俺は可笑しくなる。篠崎は、この様子を俺に聞かれなくて距離をとったみたいだが、二人とも声が馬鹿でかくて、俺はおろか、近所の人間にすらも聞こえている可能性が高い。
「そっ、そう言われても・・・・レディには優しくって師匠が・・・・」
「何?」
「あっ、えっと、おっ、女の子には優しくってじいちゃんから教わったんだ!」
「じゃあ、私にも優しくしてよ!」
そう花恋が言った途端、瑞人の声が聞こえなくなった。多分、小さな声で何かを反応したのだろうが、その声は遠くて聞こえなかった。
しばらくの間沈黙が流れ、やがて篠崎が首を大きく振って、再び大きな声で怒り出した。
「いっ、今のは違うの!聞かなかったことにして!」
「わっ、わかった。でも、俺は・・・・」
「とにかく、その女と会う約束したから!」
「は!?えっ、一体どう言うことですか!!」
「そのままの意味よ!あんたが子供の時にメールが来たから、会うって約束したわ!四時にね!」
「よっ、四時って・・・・後20分しかないじゃないか!」
そんな水斗の声に篠崎は嬉しそうにうなずくと、そのまま歩いて行った。
その一部始終を見て、俺はふと、自分のケータイがちゃんと自分のところにあるかどうか不安になった。もし、栞奈にケータイを見られていたら・・・・。
別に、見られてはいけないメールやものはないが、何だか嫌な気持ちになる。だから、慌ててケータイを探していた時、向こうの方から栞奈らしき人物が歩いて来るのを見つけて、目を凝らしてしまう。
もしかしたら、俺もあいつと同じようにケータイを見られていて、あいつと全く同じように怒られるかもしれない。そう思ったから、栞奈の手に目を凝らしていたのだ。
「あっ、元に戻ったんだね!」
そう言って走り寄って来る栞奈は怒っておらず、手には俺のケータイを持っていなくて、ホッとため息をつく。
よく思い出してみれば、凛達から事情を聞く前、俺はケータイを開こうとしていた。よく考えれば思い出せることだったが、焦っていたあの時は、中々思い出せなかったんだ。
「どうしたの?」
「・・・・なんでもない」
俺はそれだけ言うと、深いため息をついた。