夢中になると、忘れます
「これでとどめだ!」
「そうはさせるか!」
「いや、そうさせる!」
「させない!」
「ほれほれ、もっとやったれ、えーじゃん!」
「うるさい!」
聖夜君はそう言ったかと思ったら、隣にいる赤槻さんのことを蹴った。それには、後ろから見ていた私も驚いたけれど、蹴られた赤槻さんは怒らなかった・・・・ううん。むしろ、笑ってた。
私はなんで笑ったのかと不思議に思った時、ゲーム画面に表示されたWINの表示とともに、画面内のえーじゃんが喜んでいるのが見えて、私は赤槻さんとえーじゃんの作戦が読めた。
私の考えが正しかったようで、えーじゃんと赤槻さんは、お互いハイタッチ(えーじゃんが思い切りジャンプをして、赤槻さんの手に前足をくっつけたから、そう解釈した)をした。
その様子を見て、聖夜君はハッとした表情になり、見る見る表情が険しくなっていく。
「お前ら・・・・主に哉代!お前が主犯だな!?」
「・・・・な~んのことかさっぱりじゃな。なぁ?えーじゃん」
「うん。わかんない」
「こら!お前ら、知らないふりするな!今のハイタッチでわかったんだよ!」
「ほぉ?何のことについて?」
「お前達が二人で組んで、僕の気を逸らしたことだよ!」
「どうしてそう言えるんじゃ?」
赤槻さんが小さく微笑みながら言うと、聖夜君はとても深いため息をついた後、勢いよく立ち上がった。
「今のハイタッチでわかった!お前がイラつくような言葉を言って、僕の気を逸らす。その隙にえーじゃんが攻撃!こんな幼稚な罠だ!」
「・・・・ほぉ、簡単とな。俺は、随分と素晴らしく頭を使う最高な作戦だと思ったんじゃけどな」
「ふん。これのどこが『随分と素晴らしく頭を使う最高な作戦』だ!子供でも引っかからないようなありふれた罠じゃないか!」
聖夜君がそう言い返すと、赤槻さんは面白そうな笑みを浮かべながら立ち上がった。
「・・・・それじゃあ逆に聞くが、そんな幼稚で子供でも引っかからないようなありふれた罠にまんまと引っかかった誰かさんは、一体どこじゃろな?」
そう言ってきょろきょろと辺りを見わたす赤槻さんに、聖夜君はもう一度蹴りを入れた後、えーじゃんの方に近づいていく・・・・けど、聖夜君の殺気に気づいたからか、えーじゃんはとてもすばやい動きで聖夜君から離れ、私の後ろに隠れた!?
「えっ、ちょっと!」
「ワン!」
「わっ、私の後ろに隠れるのはやめてくれる?」
「ワン!」
「・・・・もしかして、演技してる?」
私がそうえーじゃんに問いかけると、ギクッとした表情をした。それを見て、私が感じたのは、呆れと言うよりも、凄いなってことだった。
犬の頭脳だったら、ここまで考えることは出来なかったかもしれない。人工頭脳で、人間と同じような頭脳だから・・・・。それに、ロボットなのに、表情の変化がやわらかくて、本当に生きている動物みたいだ。だから私は驚いたんだ。
「まぁ、えーじゃんじゃから、演技をしてるっちゅうか、犬のふりをして逃げてるって嘘みたいなもんやな」
「マスター!?」
「裏切りじゃないじゃん。事実だろうし」
「・・・・マスター、僕は信じてました。でも、裏切るなら許さない!」
「えっ!?」
「おい!僕を無視するな!話を聞け!」
そう言って赤槻さんに飛びかかるえーじゃんと聖夜君を見て、これはまずいなと思って、私は何とか勇気を振り絞って声を出してみる。
「ちょっ、ちょっと、みんな、一端落ち着こう・・・・」
しかし、振り絞った声は、絞り出したような大きさ。うん、めんどくさい言い方をしたけど、何が言いたかったのかと言うと、凄く小さくて、みんながワーワー言っている中ではかき消されちゃうだろうなってほど小さな声だった。
そんな声では、当然聞こえるはずもなく、三人は口論・・・・ううん、攻防を繰り返し続けてた。私は何とか止めたいとは思ったけど、ここで止めたら聖夜君に怒られちゃいそうだから、痛そうな赤槻さんには悪いけど、止め難い。
そう結論した自分に罪悪感を感じながら、ふと時間が気になってケータイを開いた時、誰かからメールが届いていることに気づいて、そのメールを慌てて開く。なんで急ぐのかって言うと、しばらくの間ケータイを開いてなかったから、ずいぶん前に届いてたメールかもしれないと思ってね。そう考えたら焦っちゃったんだ。
メールを開くと、送り主がお姉ちゃんで、時間も今さっきだったことにホッとしたけど、これをきっかけに、私は、どうして赤槻さんのところに来たのかと言うことを思い出した。