犬、ときどき人間?
「えっ、えっと・・・・」
私は、目の前で立っているワンちゃんの顔をじっと眺める。その目や毛並みはとてもキラキラしていて、とてもおもちゃとは思えない・・・・。
でも、足から伸びてるコードを見る限り、この子は本物の動物じゃないのは確かだと思う。でも、おもちゃにしてはよく出来過ぎてるような・・・・。
そんなことを思いながら、やっぱりジーッとワンちゃんを見ていた時、ようやく二人がワンちゃんに気づいて、こっちに歩いて来る。
「おおっ、やっと起きたか、えーじゃん」
「こいつの充電、1時間でOKじゃなかったのか?」
「えっ、えっと・・・・この子、本物じゃ・・・・」
「よく聞いてくれました!ええ、そうですよ。この子は私が世界で初めて創った人工頭脳を搭載したリアル型アンドロイド。エージェンシー。またの名を・・・・ bえーじゃん」
「またの名って言うか、エージェンシーが本名だけど、長いから、僕がえーじゃんってあだ名をつけたんだ。こいつは最初、めちゃくちゃ嫌がってたけど、今ではえーじゃんって呼ぶくらいだ」
「・・・・いいじゃないですか。別に」
「えっ、えっと、人工頭脳ってなんですか?人工知能とは違うんですか?」
「一緒だと思いますよ、私も知りません。ただ、犬としての知能よりもはるかに高い人間の知能をアンドロイドとは言え、犬に埋め込むのは大変でしたけどね」
「そっ、そうなんですか?」
「ええ。人間の脳に出来る限り近づけた上で、犬のサイズまで縮めなくてはいけませんからね」
「そうだぞ、こいつのこう言う技術は僕でさえも感服せざる終えない。アンドロイドの分野でこいつに勝てる奴はいないだろうな」
「・・・・二人とも得意分野が違うの?」
「そうですよ。実験好き、研究好きとか一概に言っても、それ全てが同じものをさしているはずがないじゃないですか。私は主に、アンドロイドや機械などが得意で、聖夜君が得意な薬品調合は苦手です。性に合いません」
「うん。僕は、薬品を調合して新たな効果を生み出す研究をするのが好きであり、得意でもある。と言っても、こいつと違って、機械系統だって苦手じゃない。・・・・まぁ、さすがに、こいつには負けるけどな」
「君が教えてって言うので教えてあげたんじゃないですか!」
「ちゃんと後にフォローの発言をしただろう!」
二人はそんなことを言いながらにらみ合って、今直ぐにでも喧嘩を始めそうな雰囲気だ。私は止めようとは思ったけど、聖夜君を止めるのは嫌われちゃいそうだから嫌だし、かと言って赤槻さんを止めることも出来なくて、私はびくびくしながら二人の様子を見ていた。
しかし、二人は一向ににらみ合いをやめず、私は勇気を出して止めに入ることにした。
「二人とも、喧嘩はやめなよ」
・・・・今の言葉、私の言葉じゃないよ?流れ的に、私が言ってるみたいになってるけど、私がしゃべったんじゃない。私は口を開いただけで声を出してない。それに、聞こえて来たのは女の子の声じゃない、男の子の声だ。
でも、赤槻さんじゃない。どちらかと言うと聖夜君よりの声だった。でも、聖夜君じゃない。となると・・・・。
私は、ゆっくりとした様子でえーじゃんの方を向く。すると、えーじゃんは普通に首を立てに振った。
「えっ、しゃっ、しゃべれるの?」
「ええ。ほぼ人間と同じです。もちろん、人間の言語を聞き分けて発言をすることも出来ますし、言うことも全て理解できるので、犬のようにしてろと言えば、犬のようにしぐさをしてくれます。普通の犬だと侮らないで下さい」
「はっ、はい・・・・でも、どうしてワンちゃんにそんな高度な技術を・・・・」
「もちろん、理由はありますよ。多分聖夜君から聞いたかもしれませんが、私の誕生日の時、受付ロボットをもらったんです。それは、私の技術には到底及ばない未熟なものでしたが、聖夜君の気持ちが嬉しかったので、お返しに、このえーじゃんを聖夜君にあげて、スパイ活動の助けになればと思ったのですが・・・・現在休業中とのことらしく、えーじゃんは私の部屋で身を潜めているということです」
「・・・・ところどころ思いっきりムカつくところはあるけど、だいたい合ってる cv」
「そっ、そうなんだ・・・・」
「だから、実際のところ、えーじゃんがどれほど凄いアンドロイドなのかを僕は知らない。だから、そのことについては哉代に聞いてくれ」
「私に聞かれても困ります」
「なんで?お前の創ったアンドロイドだろ?」
「ええ、そうですが、この子は自分で物を覚えるという機能を搭載しています。だから、私の知らないところで何かを覚えている可能性があります。それに加え、人間と同じように無限の可能性があるので、実際のところ、どれぐらいのことが出来るのか出来ないのかは本人に聞いて下さい。あっ、ちなみに、彼にも心はあります。だから、あまり酷いことを言ったりしたら怒ってしまうので気をつけてくださいね。それでは聖夜君、ゲームの続きをプレイしましょうか」
「・・・・次はアクションか」
「私が相手では全敗は目に見えているので、えーじゃんと勝負してみてはどうですか?」
「ええっ!?」
赤槻さんに言葉に、私と聖夜君は二人そろって驚きの声を上げた。
「・・・・えーじゃんと対戦って、僕を馬鹿にしてるのか!?あんな足でボタンを操作出来るはずないだろ!?」
「ええ。だから、えーじゃんの意識を直接ゲームに繋ぎます」
「・・・・どう言う意味だ?」
「このソフトを改造して、えーじゃんをキャラクターとして組み込んでおいた。設定は私がしました。ちなみに、えーじゃんが動くとおりにゲーム画面のえーじゃんも動きますので」
「それじゃあ、コードが足に引っかかったりして危なくないか?」
「大丈夫です。コードのようなもので接続しなくても、繋ぐことは可能です」
赤槻さんはそう言ったかと思ったら、えーじゃんの背中を触り、ゲームソフトを取り替えて、ゲームを起動しなおす。すると、さっきのパズルゲームとはまた違う画面が移り、その中で、えーじゃんそっくりのワンちゃんが移っていた。
「これ・・・・」
「ええ。そうです。えーじゃんです。ためしに動いてみてください」
赤槻さんがえーじゃんに声をかけると、えーじゃんは二、三回ぴょんぴょん飛び跳ねた。すると、ゲーム画面に映っているえーじゃんも飛び跳ねて、私はびっくりする。
「こう言うことです。直には、人間でも出来るようにしたら、とても楽しい遊びになると思いますが、それは現在開発中ですから。それじゃあ聖夜君、どうぞ」
微笑みを浮かべながら言う赤槻さんにイラだちを感じたのか、今まで乗り気ではなかった聖夜君が立ち上がった。
それを見て、私はちょっと可笑しいなと思ったけれど、またまた蚊帳の外かなと思ったら、ため息が出て来た。