ゲームプレイ中は話しかけないようお願いします
「・・・・中々起きないですね」
「もう結構待ったけど起きないってことは、こいつ壊れてるんじゃないか?」
「こっ、壊れてるって・・・・」
「そうですよ、聖夜君。今の言葉は聞き捨てならないですね。えーじゃんは壊れてなどいません。体力を回復しているだけです。今さっきまで走り回ってましたからね」
「・・・・よし、待っている間、ゲームでもしようか」
「え!?」
まさか、聖夜君の口から「ゲーム」と言う言葉が発せられるとは思っていなくて驚くけれど、聖夜君のゲームをやってる姿も見て見たいなと思って、顔をしかめていた聖夜君に向かって謝る。
「驚くのも無理ないですが、まぁ・・・・私がゲームの面白さを教えてしまったもので・・・・」
「なっ、なんだ!僕がゲームをやったって別にいいじゃないか!」
「まぁ、私はいいんですけどね。ところで聖夜君、今更ですが、どうして今日は見た目を成長させて来たんです?」
「・・・・ほんとに今更だな。結構長い間この格好だったぞ?」
「別にいいですけど、大丈夫ですか?随分と前から体を成長させた状態のようなので・・・・」
赤槻さんがそう言った直後、聖夜君がハッとした表情になって、慌てて時計を確認する。
「まずい、後もう少しでもとの姿に戻らないと・・・・」
「解毒剤のストックが研究室にある。今直ぐ取って来るから、ちょっと待っててけろ」
赤槻さんはそう言うと、バタバタと素早い動きで部屋を出て行った・・・・。
「ケロ?」
「うん。確かにそう言った」
「あっ、あれも、どこかの方言?」
「・・・・さあな。ほら、あいつ言ってただろ。聞いただけで覚えちゃうって。それってな、何でものことで言えるんだ」
「・・・・と言うのは?」
「あいつはゲームが大好きな奴だ。そのゲームの中に、例えば音声付のゲームがあったとする。そして、その音声の中に、擬人化した動物らしきものがいるとする。その場合、大体キャラクターをつける為に、カエルなら語尾に『ケロ』猫なら語尾に『ニャー』とかをつける可能性もある。・・・・そうなると?」
そこまで説明してもらって、ようやく聖夜君が言いたい言葉の意味がわかった。
「・・・・赤槻さんが覚えちゃう癖は人間が話す方言だけじゃなくて、ゲームキャラの音声でもOKってことだね?」
「そうだ。だから、実際そんな方言が存在するか、もしくは・・・・うん」
聖夜君がそう言葉を濁した時、噂の主がバタバタと慌しく部屋に入って来た。さっきの言葉で、眼鏡をしてないことはわかってたけど、何となく私はそれを確認してしまった。
「ほれ、珍しく俺が走って持って来てやったんやぞ。さっさと飲め!」
「・・・・そんなに焦るほどでもないんだけど・・・・まぁ、後10分程度だしな」
聖夜君はそうボソッと言うと、赤槻さんから紫色の薬を受け取って、その薬を飲み込んだ。その途端、部屋中に光が行き渡って、私は洋服の袖で目を隠す。
しかし、その光は一瞬で消えて、直ぐにさっきまでの部屋に戻った。聖夜君は、いつもの10歳の姿に戻っていて、安心したようにため息をついた。
「ふぅ・・・・何とか成功したみたいだな。お前の場合、僕の渡したメモに忠実に調合しないから不安な部分があったんだけどな」
「・・・・人が薬をわけてやったっちゅうのに、その言い草はないやろ?」
「まあいいや。さぁ、姿は元に戻ったし、早速ゲームをプレイしよう」
「・・・・何やるんじゃ?俺としてはアクション・・・・」
「お前の意見は言わせない!パズル一筋だ!」
「ええ~っ、なんじゃそれ。俺の一番苦手なジャンルじゃよ」
「僕は一番得意だ。逆に、お前の好きなアクションが嫌いなんだよ!」
「そんなに怒鳴ることないじゃろ!」
「まっ、まぁ・・・・落ち着いて下さい、交互にプレイすればいいじゃないですか?」
「・・・・仕方ない。先にパズルゲームをやろう」
「どうしてそうなるんや!」
「もう、喧嘩なんかしないで下さい!まずはパズルゲームをしましょう!」
「いいぞ篠崎、もっと言ってやれ!」
「なんじゃ、お前は聖夜の味方なんか・・・・」
「よし、二対一で僕の勝ちだ。ゲームをセッティングする」
聖夜君はそう言うと、止めようとする赤槻さんの横をスルリと通り抜け、どこにしまってあったのかわからないけど、ゲーム機を持って来て、テレビに接続する。そしてプレイを始める・・・・けど、私は完全に蚊帳の外。
二人の背中とゲーム画面を一人で見ているって言う状況で、私は何だか悲しくなる。一人ぼっちで蚊帳の外で・・・・。
「あっ、あの・・・・」
「なんだ」
「えっ、えっと・・・・質問してもいいですか?」
「ちょっ、今、俺勘弁し・・・・」
「大丈夫だ。直ぐに勝負がつく」
聖夜君がそう言った直ぐあと、赤槻さんのため息が聞こえた。
「・・・・なんじゃ、今なら聞けるぞ」
「あっ、あの・・・・それじゃあ、どうして赤槻さんは聖夜君からアーシャって呼ばれてるんですか?」
「ああ、それはな、簡単なことじゃ。俺のコードネームみたいなもんじゃ。赤槻のアと、哉代のシャで、アーシャ。どうしてシャになったのかは、ちょっと考えればわかることじゃろうから、カット。ちなみに、聖夜のコードネームはノエル。これも、考えればわかるだろうからカット。じゃ、ゲームに戻ろう」
「えっ、ちょ・・・・」
全然説明をされることなくゲームに戻りそうな赤槻さんを何とか止めようと思ったけど、止めることが出来ず、再び二人はゲームを再開してしまった。
再び取り残されてしまった私は、ため息をついて、眠ってしまっているワンちゃんの方に近寄って行く。
「俺のコードネームのヒントは俺の名前。聖夜のコードネームのヒントは誕生日だ」
「はっ、はぁ・・・・」
眼鏡をかけていなくても普通の標準語を話した赤槻さんに私は驚いたけれど、それを聞けるような様子でもないから、仕方なくワンちゃんの近くでしゃがみこむ。
毛並みがとてもサラサラしてて、触ったらきっと気持ちいいんだろうな~って思う。でも、おやすみ中みたいだから勝手に触るのはよくないかなと思って立ち上がろうとした時、今まで全く動かなかったワンちゃんが目を開けて起き上がった。その時に見た光景に、私は思わず絶句した。
・・・・ワンちゃんの足から黒色のコードが出ていたんだもん。