好奇心を諦めるのはよくないです
「まっ、まだ?」
「もうちょっとだ」
・・・・そう言われて、何分歩いているんだろう・・・・。
そんな風に考えてしまう自分に首を振りながら、聖夜君に腕を引かれるまま歩く。あれからしばらくの間こうやって歩いて来たせいか、大分暗闇にも慣れて、安心感が出て来た。
・・・・唯一慣れないのが、聖夜君と手を繋いでるってこと。本人がどんな表情をしてるのかわからないけど、動作からして、全く緊張はしてないと思う。それでも私は、思い切り緊張する。ガチガチに緊張して、鼓動が早くなってるのを感じてる・・・・ここ30分間ぐらいずっとね。
目の前が真っ暗だから、当然時間もわからなくて、さっきのは私の感覚。体内時計って言っていいのかわからないぐらい曖昧なものだけど、私の中での時間はそれぐらい経過していた。
そんなことを考えながら、聖夜君の後ろを歩いていた時、今まで一度も立ち止まらなかった聖夜君が立ち止まって、私のかけていたサングラスを取った。その瞬間、一斉に光が目の中に飛び込んで来て、私は目を瞑ってしまった。
「そんなに慌てて目を瞑らなくたっていいぞ。ここはもう地下町だから・・・・」
「そっ、そうじゃないの!今までずっと暗いサングラスをかけてたから、地下町を照らしてる光が目に・・・・」
「なるほど、そう言うことか。それなら、目が慣れるまで歩き出すのはやめようか」
「いいよ、そんなに気を使ってくれなくても。ありがたいけど、遠慮しておくね?」
「・・・・いや、待ってる」
「いいの?」
「うん。また手を繋いで歩くようなことがあったら面倒だからな」
そんな聖夜君の言葉に、私は冷水をかけられた気分になった。・・・・いや、氷が張った湖の中に飛び込んだ気持ちって表現するのが一番的確かもしれない。とにかく私が言いたかったこと。・・・・それは、体の熱が一気に冷めて、冷え切ってしまったと言うことだ。
「あっ、そっ、そうだよね、ごめんね」
何とか平気な素振りを見せようとするけど、乾いた笑いしか出来なくて、逆に怪しまれちゃうんじゃないかって思うぐらい。
しかし、聖夜君はそんな私の様子に全く気づいていないようで、カバンの中に入っている何かを確認している。その様子からひしひしと伝わって来ることはただ一つ。・・・・私に興味なんかほとんどないってこと。それ一つだけだと思う。
「なっ、何やってるの?」
「アーシャに連絡を入れてるんだ」
「・・・・そっ、そうなんだ」
そう言われても、名前がわからないから反応に困ってしまう。・・・・でも、アーシャって言う名前からすると、外国人の女の人だと思う。
そう考えると、その人がどんな人なのかと言うことが気になり始める。一番最初に思い浮かんだのは、私と同い年ぐらいの金髪の女の子。きっと外国住みの子だと思う。そして、聖夜君と同じぐらい美少女で・・・・。
そう考えた途端、何だかソワソワした気持ちになって来て、そのアーシャと言う子のことが気になり始める。自分が想像したばっかりにこんなことになるなんて予想もしてなかったけど、物凄く気になってしょうがない。
「あっ、あの・・・・聞いてもいい?」
「なんだ?」
「えっ、えっと・・・・」
聞いてもいいかと言ったものの、いざ何を聞こうかとなると、迷う。物凄く迷う。
「どうしたんだよ?」
「えっ、えっとね・・・・。さっ、さっきのアーシャさんのことなんだけど・・・・」
「ああ。あいつのことか。これからそいつに会いに行くんだ」
「ええっ!?そうなの!?」
「うん。だから、連絡を入れておいたんだ。とりあえず、目の調子も戻ったみたいだし、歩こう。僕について来てくれ」
聖夜君はそう言ったかと思ったら、私の返事も待たずに歩き出してしまった為、私は慌ててその後を追いかける。そして、キョロキョロと辺りを見渡した。
天井はふさがれていて空は見えない。だから、時間的には昼間だと言うのに、ここでは街灯がついている。きっと、これを消してしまったら、この場所は真っ暗になってしまうんだろう。
地下の町と言うぐらいだから、結構狭いところかと思ったんだけど、案外広くて、驚きを隠せない。さすがに、地上の町よりは小さめだけど、それに負けないぐらい大きい。しかも、その構造は、地上の世界と比較的似ていて、違う部分と言ったら、家やお店が物凄く古いこと。昔、どこかの博物館か何かで見た、昭和時代の風景とそっくりだった。
「地下町って言うから、何だかもうちょっと機械的なものを想像してたけど、昭和っぽい感じだね」
「うん。昭和時代をモチーフにして作ってあるらしいからな」
「・・・・と言うことは、その区画によって、地下町の様子は変わってるってこと?」
「うん。ここの区画は昭和をモチーフにしたから昭和っぽい。他には、外国の町並みを表現したものや、森の中をモチーフにしたものもあり、どれも芸術品並の出来栄えだ」
「へぇ・・・・凄いね!」
「うん。それで、アーシャのことについて聞きたかったんじゃないのか?」
「えっ!?」
再びのアーシャさん攻撃(ちょっと違うかな)に私はたじろぐ。さっきの話はあれで流れたと思ったんだけど、そう言う訳じゃないらしい。
「えっ、えっと・・・・」
「聞きたいことがないなら別に無理にとは言わないけど、お前の表情が気になるからな」
「そっ、そうなの?」
「うん。何かを聞きたそうな顔をしてるからな」
「・・・・そっ、そっか」
私は出来るだけ焦らないように演技をしたけれど・・・・やめた。聖夜君に演技は通用しない。それは昔からわかってたことだけど、どうも演技を捨てきれなかった。
しかし、今回ばかりは演技を捨てて、自身の本心で聖夜君と接してみようと思う。
私はそう決めると、「よしっ」と小さく気合を入れて、聖夜君の方を向いた。