挑戦あるのみです
「いっ、行っちゃった・・・・」
私は、なぜか不機嫌そうに歩いて行ってしまう栞奈さんの背中をじっと眺めて、やがてため息をついた。結構強気な女の子だって神羅さんに教えてもらってたけど、ここまでとは想像してなくて、私は何も言えずに終わってしまった。
本当は、栞奈さんと仲良くなりたいと思う。でも・・・・栞奈さんも伊織君のことが好きだってことを知っちゃってる状態だから、私はなんとも言えない。
多分、栞奈さんがこんな態度をとってるのは、私がライバルだからで、ライバルじゃなかったらこんな・・・・。
そう考えて、首をかしげる。ライバル・・・・ってことなのかな?イマイチよくわからない。私は伊織君が好きだ。その気持ちに偽りはない。
でも、それによって、栞奈さんと敵対するつもりもないし・・・・出来れば仲良くしたいと思うんだけど・・・・。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「・・・・うっ、うん」
何とかそううなずいて後ろを振り返ると、心配そうにした伊織君・・・・幼少期の伊織君が心配そうな顔で見上げてくるのが見えた。その顔がとても可愛くて、私は撫で撫でしたい衝動に駆られたけど、この可愛い子は、幼少期ではあるけど、伊織君なんだ。そんなことをしたら・・・・。
そう考えたら何だか怖くなってきて、首を思い切り振る。そんなことが出来る勇者がいるなら、私は見て見たい。少なくとも私は、伊織君の頭を触れるほど勇者じゃない・・・・と言うか、手も届かないしね。
「・・・・何考えてるんですか?」
「えっ!?えっと・・・・栞奈さんのこと・・・・」
「そうだよね。栞奈ちゃん、ほんとはいい子なんだよ?僕達にも優しかったんだ。だけど、なぜかお姉ちゃんには冷たくて・・・・栞奈ちゃんのこと嫌いになった?」
「・・・・わからない。どんな子なのかわからないから・・・・。でも、仲良くはなりたいとは思ってるよ?」
「それじゃあ、頑張って話しかけてみたらどうですか?」
「えっ!?」
まさかの申し出に、声が裏返りそうになるけど、何とかそれを堪えて、私は首を振る。
「無理だよ。栞奈さん、私のこと嫌いみたいだし、無理に話しかけちゃったら余計に嫌われちゃうんじゃないかなって思って・・・・」
「どうして栞奈ちゃんはお姉ちゃんのことを敵として見てるのかな?」
そう伊織君に問われて、私は何も言えなくなる。今は幼少期とは言え、今目の前にいるのが伊織君だと思ったら・・・・絶対言えない。もしかしたら、幼少期の時に聞いた言葉が元に戻った時も覚えてるって可能性もあるし・・・・とにかく、色んな可能性を考えたら、絶対言えないよ!
「えっ、えっと・・・・どうなんだろうね?私も正直、よくわからないや」
「・・・・僕が聞いてきましょうか?」
「やっ、だっ、大丈夫!」
「え?どうしてですか?」
「うっ・・・・」
私は、振り返った伊織君の顔を見て、思わず固まった。
・・・・どうして私が、変な声を出したまま固まってしまったのか。その理由は、伊織君の横顔が、一瞬だけ、いつもどおりのかっこよさを帯びたように感じたんだ。そうなった途端、体中に緊張が走って、動けなくなってしまったんだ・・・・。
「どうしたんですか?」
「うっ、ううん。なんでもないの。えっ、えっとさ・・・・私、頑張ってみるよ!」
「うん。頑張って下さい」
そう言って手を振ってくれる伊織君に、私はにこやかな笑顔で手を振り返すけれど、正面を向いた途端、真顔に戻って、小さくため息をついた。
伊織君も言ってるし、私も仲良くなりたいから、栞奈さんに話しかけてみようと思う・・・・けど、何だか逆効果になるような気がしてならない。
「・・・・うーん、やっぱりやめた方がいいかな?」
そう思って後ろを振り向いた時、まだ手を振っていた伊織君と目が合って、私は気まずい気持ちになる。数分経ったはずなのに、まだ手を振ってくれていたと言うことがわかると、やっぱりやめようかな~ってことが出来なくなってしまう・・・・。
「よっ、よし、頑張ってみよう!」
これはやるしかないなと思って、私は自分に気合を入れると、みんなから少し離れた場所で会話をしている栞奈さん達のところに向かって歩き出した。