女の勘と言うものの類でしょうか?
「ねぇ、ここを出るのはいいけど、お店の人とかを納得させることが出来るのかな?」
「どう言うこと?」
「店を出る時、子供達四人じゃ怪しまれないかってこと。それで帰してもらえないことはないと思うけど、足止めをされる可能性が高いんじゃないかって・・・・」
「・・・・確かにそうね。最初は、二人が大きかったからまだなんとかなったけど、今の状況は、切り抜ける方が難しいかもしれないわね」
私達はそんな風に不安に思っているのだけれど、そんなことを知らない亜修羅と有澤君は、少しだけ打ち解けたみたいで、ジャンケンをしながら歩いている。
「・・・・こうやってみると、何だか微笑ましいわね」
「うん・・・・二人の性格から、仲良くなれるとは思ってもみなかったけどね」
「まぁ・・・・あいつは昔から強がってる部分があったけど、根は弱気な奴だから、そこの辺りが一緒だったのかもね」
そんなことを話しながらレジのところにたどり着く。すると、幼くなった亜修羅がポケットから一万円札を取り出して、身を乗り出して驚いている店員のお姉さんに差し出す。
「これでお願いします」
「はっ、はい・・・・。えっと、お父さんとお母さんはどこかな?」
「このおねえちゃん達が保護者です」
そう言って亜修羅が指差したのは私達で、店員のお姉さんどころか、私達も苦笑いをするしかなかった。そんなことを言われて本当に信じる人なんて、一パーセント以下だと思う。そんな一パーセント以下の中に店員のお姉さんが入っている訳もなく、信じてもらえなかった。
「もう一度言うよ?お父さんとお母さんはどこ?」
「あの、だから、これでお願いします」
「えーっと、どうしてそんなに沢山のお金を持ってるのかな?お父さんやお母さんは?」
「だから、俺達は、もともとおっきかったんだぞ!高校生だったんだ!」
亜修羅と店員さんのやり取りについに我慢出来なくなったのか、有澤君が口を挟む。本人は、亜修羅を助けようとしたつもりなんだろうけど、その言葉のせいで余計訳がわからないことになっちゃって・・・・これは、どうしたらいいんだろうなぁ・・・・。
中々解決策が見当たらないまま十分近くレジの前でもめていた時、後ろの方から沢山の足音が聞こえて、私は振り返る。そして、驚いた。だって・・・・いないはずの人達が後ろに立ってたんだもん。
「まずいわね、後ろが支えちゃってるわ。迷惑はあまりかけたくないのに・・・・」
「・・・・最悪は、頼めばいいかも」
「え?」
「ほら、後ろにいる人達、私の知り合いなんだよね。さっきは気づかなかったけど・・・・」
「え?」
「ほら、赤い髪の人いるでしょ?あの人、見覚えない?」
「・・・・もしかして、さっきコーヒーをいれてくれた人?」
「うん。変装してたからわかりづらかったけど、よく見たら、私の知り合いじゃないかと思ってね」
「・・・・それなら?」
「うん。助けてもらえるかもしれないってこと。でも、直接話しかけることは出来ないから、アイコンタクトって言うか、そう言うので気づいてもらわなくちゃ・・・・」
「そっか、頑張って」
篠崎さんの言葉にうなずくと、私はジーッと神羅の方を見つめる。と言うのも、神羅なら私の視線に気づいてくれるんじゃないかと思ったんだ。亜修羅の護衛だって言うし、視線とかには敏感だと思って・・・・。
そう思ってジーッと見ていると、なぜか、神羅の隣にいた女の子が振り返った。その子は知らない子だから、誰かの友達か何かかと思ったんだけど、私はふと、亜修羅のケータイに出て来た女のことを思い出す。あの名前は聞き覚えがないから、顔の知らない子があの女なんじゃないかって考えてしまう。
「・・・・栞奈さん、あの子のことにらみつけてどうしたの?」
「えっ!?睨みつけてないよ?」
「ちょっと視線が鋭かったから、何かあったのかと思ったんだけど・・・・」
「ううん、何もないよ」
私は何とか首を振ると、自然ときつくなっていたらしい視線をリセットする為に、目を瞑って首を振った。そして、もう一度神羅達の方を向いた時、私の視線に気づいたからか、神羅の近くにいた女の子がこちらに歩いてくるのが見えた。
それがわかって、私は少しまずいことをしてしまったかなと思う。人間界の女の子がどうかはわからないけど、魔界にいる女の子はみんな気が強いから、ちょっと睨んだだけで乱闘だからね・・・・。
だから私は、その女の子が私のことを叩きに来たんじゃないかと思って、少しだけ構えて待っておく。もし腕が動いた場合、瞬時に避ける準備は出来てる。
さすがに睨むと言うことはしてないけど、ジーッとこちらに近づいて来る女の子のことを眺める。そして、相手の手が私に届く辺りまで来た時、女の子の手が微妙に持ち上がったのを感じて、私は直ぐに後ろに飛び退く。
普通なら、ここで、私のいた位置に腕が通るはず・・・・なんだけど、一向に腕が振り下ろされる事はなく、ましてや、攻撃などしようと思ってないんじゃないかってほど間の抜けた顔でこちらを見ていた。
「あっ、あのね、もし驚かせちゃったんならごめんね?」
「・・・・その気はないの?」
「えっ?えっと・・・・どの気なのかわからないんだけど、みんなが困ってるようだから・・・・」
そう女の子が言った時、丁度いいと思ったのか、有澤君がその子の手を取ると、大きな声で言った。
「この人が俺達の保護者だぞ!」
「そうだよ!この人が僕達の保護者だよ!」
「えっ、えっと・・・・そうなんですか?」
「あっ、えっと・・・・はい。色々ご迷惑をおかしてすみません。ちょっとトイレに行っていて・・・・」
「いえ、大丈夫ですよ。そうですか、ちゃんと保護者の方がいらしたんですね。それならよかった・・・・」
「それじゃあ、これ。お姉ちゃんの分も一緒にお願いします」
「ええっ!?」
「・・・・一緒にしてもよろしいですか?」
「うん」
「でっ、でも、いいの・・・・?」
「大丈夫!」
そんな風に楽しそうに会話をしている二人に、私はなんとも言えない感情を覚える。ソワソワと言うかモヤモヤと言うか、怒りってほどはっきりと感情がない状態で、上手く表現できないけど、何だか複雑な気持ちだ。今がまだ、幼少期の頃の亜修羅だからこの程度で済んでるのかもしれないけど、もし、いつもどおりの亜修羅だったら・・・・。
そう考えると何だか怖くなって来て、私は首を振ると、その考えを忘れようとする。亜修羅に言われた言葉を思い出したんだ。あんまり嫉妬深いのはよくないって。確かに亜修羅の言うとおりだと思う。
「・・・・栞奈さん?」
「え?」
「みんなで一端外に出ようって話になってるんだけど・・・・」
「あっ、ありがとう!」
篠崎さんに声をかけられて、ようやく我に返った私は、相変わらずモヤモヤソワソワした複雑の気持ちのまま、みんなの後について行くことにした。