何とか危機は脱しました
「・・・・何をしてるんだ?」
感情のこもっていない声で問われ、私は一気に体が冷たくなるのを感じた。それはもう、冷水をかけられたぐらいサーッて血の気が引いて行って、きっと今の私の顔色は青白いことだと思う。
「ごっ、ごめんなさい・・・・」
何とか声を絞り出してそれだけを言うと、私はカバンを聖夜君の方に押し出す。さっきは戻って来るまでに結構時間がかかったから、今回ももう少し時間がかかるのかと思ってたんだけど・・・・って、そう言うことじゃない!
「そうだな。それで、何かあるか?」
「え?」
「事情。もしくは言い訳。動機を教えてくれ。場合によっては許さないこともない」
そう言う聖夜君の表情は無表情で、私はまともに顔が見られない。口調と表情はいつも通り、淡々とした調子だから、怒ってるのか怒ってないのかというのがわからなくて、私は更に怖く思う。
でも、言い訳をする気にもなれない。今までの行い自体悪いことをしてたんだから、それを庇うように嘘を言って、これ以上罪を重ねたくないと思った。だから、素直に思ったことと事実を伝えることにする。
「聖夜君のカバンの中がどうなってるのか気になって・・・・さっき、帰って来るまでに時間がかかったから、バレないかなって思って・・・・」
「バレなければ、やっていいと思ったのか?」
「・・・・ごめんね」
聖夜君の言っていることはわかりきったことで、私は何も言えずに、謝ったままうつむくことしか出来なかった。
「まぁ、別に見られていけないようなものは入ってないから、今回は特別に許してやる。でも、次は絶対やるなよ」
「うっ、うん・・・・」
私がうつむいたまま小声で返事をすると、正面に座っている聖夜君がため息をついたかと思ったら、カバンの中身を机の上に並べ始めたんだ。
「どっ、どうしたの!?」
「カバンの中身が見たかったら、コソコソ見るような真似をしないで、面と向かって言ってくればいい。そうすれば、同じカバンの中身を見ることでも、大分印象が違うからな」
「そっ、そうだね。ごめん」
「別にいい。僕は、お前に謝ってもらいたくて言ってるんじゃない。・・・・これで全部だが、何か質問は?」
そう言われて、私はゆっくりと首をあげ、机に並べられたケータイ電話や実験薬などを一望する。本当のところ、全てのものについて説明して欲しい。ケータイ以外は、見慣れないものばかりだから。でも、そんなことを言えるはずもなく、私は無言で首を振った。
「・・・・一応説明すると、まず、携帯電話の数。こっちの赤色の携帯電話は、主に家族や友達など、親しい仲の人物からの電話を受け取る携帯で、こっちの青色が、そんなに仲がよくないが、都合上どうしても番号を交換しなくてはならない状況の時・・・・所謂、取引先などとの番号交換はこっちのでやってる。そして、この黒いのが、スパイ活動時に使ってる携帯で、こっちの携帯はほとんど使わない。今はな」
「そうなんだ・・・・」
まるで、私の思いが通じたかのように説明を始めてくれる聖夜君に心の中で感謝をしながら、その話を熱心に聞き入る。
「僕は、心が読める訳じゃないけど、人の行動や表情の動きなどで何となく読み取ることが出来る」
「ええっ!?」
「これは、竜から教わった。あいつ、なんでも出来るからな。ある意味、運動面以外で勝てるところが見当たらないぐらいだ」
「そっ、その竜さんって人、そんなに凄い人なの?」
「まあな。歩く百科事典と言えるな。天文学や心理学など様々な分野を手当たり次第勉強して、それ全て頭の中に記憶出来てるって言うんで、下手な学者よりも役に立つし、コンピューターよりも性能がいい。持ち歩きたいぐらいだ」
「へっ、へぇ・・・・」
持ち歩きたいと言うのは、その人には失礼な言葉だとは思うけど、私は、訂正する勇気が出なかった。でも、あまり人のことを褒めない聖夜君がここまで絶賛するってことは、とても凄い人なんだなって思った。
「話が逸れたが、説明に戻るぞ。次に、この三本の薬品のことでも説明しよう。まず、この左側にある水色の薬。これは、体を縮めることの出来る薬だが、中身はいつもと変わらない。要は、体だけ縮めるってことだな。次に、このピンク色の薬。これが、お前の捜してた惚れ薬だ」
「う・・・・え??」
私は、普通にうなずきそうになったけど、聖夜君の言葉を思い出して、思わず聞き返す。今、私が探してたって・・・・。
「お前の表情を見れば直ぐにわかる。これを探してたんだろうって。でも、やんないぞ。僕に薬を盛られたら困るし、不都合が起きたからな。あの不都合が起きた原因を突き止めなければ、お前にこの薬は渡せない」
「あっ、そっ、そう・・・・」
私の考えや思惑は、全部聖夜君に漏れてるんだなとわかって、間の抜けた返事しか出来ない。さすがにそのことを伝えるのは恥ずかしくて、嘘はつかなかったけど、言わないと言う選択肢を選んだ部分もあった。その、言わないと言う選択しとして選んだのがそのことだったんだけど・・・・。
「そう言えば、さっき、不都合が起こったって言ってたけど・・・・」
「うん。惚れ薬として飲ませたはずなのに、なぜか二人とも子供に戻ってしまった。だから・・・・」
「二人って・・・・もしかして、お兄ちゃん達のこと!?」
「うん。実験段階・・・・マウスでは成功したんだけど、人間での実験は初めてだから、まだ完璧な状態ではない。だから、お前にあの薬は渡せない。・・・・ちなみに、この紫色の薬は、体を小さく縮める薬と、惚れ薬の解毒剤みたいな、効果を消す作用のある薬だ。だけど、お前の姉ちゃんと、栞奈の分しか作ってないから、早急に修達の分を作らなければならない。と言うことで、今から不足している薬品を買いに行くぞ」
「えっ!?でっ、でも、見張りは・・・・?」
「一端中断だ。あんなことがあっては監視どころじゃない」
そう言って立ち上がると、さっさと歩いて行ってしまう聖夜君を追いかける為に、私も慌てて席を立った。