休憩タイム やっぱり、無地のパジャマが一番です・・・・。
次の日の朝は、早くに目が覚めた。まだ、凛は夢の中だ。
しばらくは起き上がってボーッとしていたけれど、時間がもったいないと思って、取りあえず着替えてから外に出ることにした。時間がもったいなくて外に出るのは余り話が通らないが、出て行きたくなったのだ。
まだ朝の四時だから、さすがの凛も起きなかった。そっちの方がうるさく言われなくて済むんだけどな。
鍵を閉めて階段を下り、通りに出たところで知らない女・・・・ではなかった。
昨日、俺の方をじっと見ていた女だった。昨日と同じ、何だか変な洋服を来ている。黒いフリフリの洋服に、クマのぬいぐるみを抱いている。中学生ぐらいなのに、明らかに不自然だ。
そんな変な女が話しかけてきた。
「あなたが、私の運命の人ね」
「・・・・は?」
「前に襲われていたところを助けてくれたでしょ?」
「・・・・?」
こんな女なんか助けた覚えはない。大体、何時の話だ?
「何時の話だ?それは」
「三年前の時よ」
「俺には覚えがない」
「なくても、私にはあるの。ねぇ、覚えてないの?」
「覚えていないもどうもこうも・・・・そんな覚えすらない」
朝早いから、まだ寝ぼけているのかもしれない。きっとそうだ。運命なんか、俺は全く信じないし、そんな運命を感じるような体験すらしたことない。いや、したくない。とにかく、俺はこいつを助けた覚えはないし、会ったのは昨日が初めてのはずだ。
「でも、私は覚えてるの!」
「ああ、そうか。朝早いから寝ぼけてるんじゃないのか?」
俺は簡単にあしらって、さっさと家に戻ろうとすると、その女は瞬時に腕をつかみ、引っ張った。思わず前につんのめりそうになる。
「待って!行かないで!!」
「何だよ、まだ用があるのか?」
「だって、せっかく会えたのに・・・・。これも、神様のお導きだと思うし・・・・」
「だからって、朝から人に纏わりつくな!」
「もう、恥ずかしがっちゃってさ!」
こいつは、凛と同じタイプだと思い、肩を沈める俺。それとは裏腹に、とても朝のテンションとは思えない女。
「取りあえず、俺は帰る!」
女の腕を振り払い、逃げるように家に入り、鍵を閉める。その音に、隣の部屋にいた桜木や、凛がびっくりしてこっちを見る。
「どっ、どうかしましたか?」
「どうしたの?」
桜木の腕を引っ張って部屋の中に引きずり込むと、再び、ドアをガチャンと閉めて、鍵をしっかり閉めてから、二人を部屋のど真ん中に連れ込んだ。
「さっき、外に出たら変な女に運命がどうのこうのとか言われて・・・・」
「そうなの?よかったね・・・・」
「よくない!何だか変な女でな、『助けてくれたの覚えてないの?』とか言われて・・・・。三年前の出来事だって言われても、まだ、俺は人間界にいなかったんだぞ?」
「そうだね。じゃあ、人違いだよ」
そこまで話した時、ドアをドンドン叩く音が聞こえた。それから、声も聞こえる。その声は、今一番聞きたくない声だった。
しかし、凛のバカは、寝ぼけ眼でドアを開けてしまった。そして、その女のことを中に入れる。
・・・・バカ。
「君が修を運命の人だって勘違いした人?」
「修さんって言うのね。私は、舞園望美!よろしくね!!」
「えっとさ、本人は覚えがないらしいんだけど。その時の状況を詳しく教えてあげて」
なぜ恥ずかしがりもせず、パジャマのまま話していられるのか。しかも、悪趣味のパジャマを着て。でも、話を上手く進めてくれることはありがたい。
女の言うことを省略すると、三年前、どこかのホールでいじめられているところを助けてくれたんだそうで、慰める為にバイオリンを弾いてくれたらしい。話を聞く分には、俺よりも凛に近い気がする。しかし、凛にはそんな覚えがないそうで、誰か他の奴じゃないかと言われた。
「あの、取りあえず、修は全く違うと思うので、どうぞお帰り下さい」
凛は、半ば強引にそいつを追い出すと、パンパンと手を叩き、深くため息をついた。
「亜修羅もめんどくさそうな女の子に捕まっちゃったね。きっと、ずっと付きまとって来るよ?」
「俺、もう嫌だ。学校なんか行きたくないぞ」
「それでもダメだよ。ちゃんと学校に行かないと・・・・」
「ああ眠い、俺は寝る。ああ、でもパジャマは洗濯機の中にあるのか」
「じゃあ、僕の貸してあげる」
「ああ、悪いな」
俺は、その時忘れていた。凛のパジャマが悪趣味だったなんて・・・・。
凛から受け取ったパジャマを見て、固まる俺。ニコニコ顔の凛。どんな展開になるのかと楽しそうな桜木。
凛から渡されたパジャマは、薄い黄色い生地に、ひよこが沢山いるパジャマだ。
「あれ?嫌だ?じゃあ、これは?」
どこから取り出したのか、水色の生地の、可愛らしいハムスターが沢山いるパジャマを出す凛。
どっちも嫌だ。絶対に俺はこんなのを着たくはない。
「いや、どちらも遠慮しておく」
「せっかく出したんだからさ、どっちか着てよ。僕的には、桜っちがひよこちゃんで、亜修羅がハムスターの方がいいと思うんだけどな、色的に」
「どっちも嫌だぞ!」
「僕も、これは少し・・・・」
遠慮がちに断る桜木と、全力で断る俺に、凛は無理矢理着せた。桜木は、途中で抵抗をやめたけど、俺は最後までやめなかった。けど、凛の力に負けて、今は、見事にハムスターのパジャマを着ている。何が悲しくて、高校生の男がハムスター柄のパジャマを着なくてはならないのか。
「じゃあ、寝よう。三人で寝れば悪夢も怖くない!」
「学校に行くから、いい加減、元の服を返せ!」
「別に、学校なんかどうでもいいよ。ただ、亜修羅が着たらどうなるかな?と思って。ちょっと小さいか。やっぱり僕のじゃ」
「そんなことはどうでもいい。返せ!」
凛から洋服を奪うとさっさと元の服に着替えて、桜木にも服を渡しそれから布団をたたむ。
凛も起きたのなら、これ以上寝かす必要はない。起こすこっちの身にもなってみろ。大変だぞ。
「あっ、布団!」
「もう、起きたんだろう?なら起きろ!」
「嫌だぁ~~!!まだ眠いもん」
俺が押入れに運び込もうとしている布団に飛びつき、その勢いで思い切り後ろに倒れて、頭を壁にぶつける。
「!?」
柱の角に頭を思い切りぶつけて、思わず顔を歪める。まだマシなところに当たったからいいが、打ち所が悪かったら、きっと死んでいた。
「眠りへの執着心をもう少しなくしたらどうだ?」
「いいの。これは僕のとりえの一つ」
そんなことを言いながら、謝りもしないで、俺から布団を奪い、かけ布団を抱き枕みたいにして眠ってしまった凛に、呆れた眼差しを向けても、本人は無視。と言うか、気づいていない。
「あの、僕・・・・着替えてきますね」
桜木が、自分の服を持って外に出て行く。残されたのは、俺と、熟睡中の凛だけ。いっつも起こすのは俺だ。たまには桜木に起こさせてもいいかもな・・・・。