奮闘してます
「食べ物って言われても・・・・どうする?」
「そうだよね。有澤君はハンバーグ残ってるけど、修のお皿は片付けちゃったし・・・・カップは持って行っちゃったし・・・・」
「そこが問題ね。あいつの場合、警戒心もなく口に入れてくれるだろうけど、伊織君は警戒心とか強そうね。ちょっと味が違ったりしたら出しちゃいそうだわ」
「あんまりしないとは思うけど、毒かもしれないって思ったら、出しちゃうかも・・・・」
「・・・・それだと効果はなさないわよね」
「多分ね・・・・。コーヒーとかならわかりづらいかな?」
「ミルクと砂糖を入れてる場合はわかりづらいだろうけど、ブラックだと、目立っちゃうんじゃない?そもそも、この薬って、どんな味なのかしら・・・・それがわからないと考えることも出来ないわ」
「うーん・・・・」
私の言葉に声を出して考え込む栞奈さんを、私はジッと見る。この人は、落ち着いた感じに見えるけど、それは見せかけだけで、本当は思いつきで行動しちゃう瑞人タイプの人だ。だから、また何をし出すかわからない。警戒しておかなくちゃ・・・・。
「よし、ちょっと舐めてみよう」
「・・・・え?」
「だからね、どんな味かわからないから、舐めて確かめてみようって・・・・」
「そっ、そんなことしたら、栞奈さんに効果が出ちゃうんじゃないの?」
「多分、ちょっと舐めるぐらいなら大丈夫だよ。うん、きっとそう」
そう言って、今までカバンの中にしまっていた試験管を取り出そうとする栞奈さんを、私は慌てて止める。だって、もし一滴で効果が発揮されるような、そんな凄い薬だったら、とんでもないことになる・・・・。
「だっ、大丈夫だよ!」
「でも・・・・」
「うん、大丈夫!ちょっとぐらいなら!」
「・・・・ちょっとぐらいなら大丈夫かな?」
「そうそう」
栞奈さんはそう言うと、試験管の蓋を開けて、少しだけ傾け、スプーンの上に惚れ薬をたらすと、それを口に入れる。
「・・・・どう?」
「うん、多分大丈夫。多分、スプーンにちょっとぐらいじゃ、効果を発揮しないみたい。味はね、やっぱり、ちょっと甘いって感じだから、コーヒーの中に入れるのはよくないかな?」
「どうなんだろうね。私、コーヒーをブラックで飲んだことないからどれぐらい苦いのかわからないから、なんとも言えないわ」
「・・・・よし、ブラックコーヒーにも挑戦してみよう」
「え?」
「いいから!」
栞奈さんはそう言って立ち上がったかと思ったら、二つあるドリンクバーの右側に向かっていく。瑞人達が行った方向は左側だから、そこは考えたのかもしれない。でも・・・・。
「ブラックコーヒーに挑戦って、どう言うこと?」
「実際に飲んでみて、どれぐらい苦いのかとか、ミルクとか入れて・・・・とか色々実験するの!」
「そっ、そう・・・・」
栞奈さんの勢いに負けて、私はついうなずいてしまったけど、どうなるんだろうと、内心不安ではあった。
「えっと・・・・コーヒーは・・・・あっ、ここで入れるんだ!って、届かない!」
「そっ、そうね。確かに、高くて届かないわ・・・・」
私達が何をやってるのか、会話の内容で大体わかると思うけど、一応説明する。やってることは一つ。カップを手に取ろうとしてるけど、体が縮んでる状態だから、カップに手が届かないし、それに、ボタンも押せないから、何も出来ない状態なのだ。
「ん?お前達、何やってんだよ」
そう声をかけられて、私は嬉しくなって振り返るけれど、そこにいたのは、真っ赤な髪で両腕一杯に水の入ったコップを抱えている男の人で、私は思わず目を逸らす。何だか不思議な人だなって思ったんだ。
「あっ、あのね、お兄ちゃん。私達、コーヒー入れに来たんだけど、手が届かなくて・・・・手伝ってくれる?」
「手伝うって言うのは持ち上げろって事か?それとも、俺が入れるのか?」
「どっ、どっちでもいいよ?」
「まあいいや。どっちにしろ、ちょっと待ってくれ。このコップ片付けなきゃ両手使えないし・・・・」
その人はそう言いながら、何十個ものコップを置くと、中に入ってた水を元に戻し始めた!?
「ちょっ、あんた何やってんのよ!」
「は?いや、元に戻してるんだけど・・・・」
「もっ、元に戻すって・・・・ダメじゃないの!」
「だって、捨てるのもったいないだろ?」
「そっ、そうだけど・・・・」
「じゃあ、飲むよ」
「・・・・そう言う問題じゃないの!」
私はそう言った後、慌てて自分の口を塞ぐと、素に戻っていたことを後悔して、慌てて演技に戻る。
「とっ、とにかく、水は元に戻しちゃダメだよ?」
「そう言ったって・・・・まあいいや。お前達の用事を先に済ませてやる。で、何?俺どうしたらいいんだよ?」
「コーヒーを入れて欲しいの。後、ミルクも。これは、取るだけでいいから!」
「わかった」
その人は栞奈さんの言葉に素直にうなずくと、私達が苦戦していたのが嘘みたいに簡単にコーヒーを入れると渡してくれた。
「ありがとうございます!」
お礼を言いながらコーヒーを受け取ると、私達は急いで席に戻る。
瑞人達が席を立ってから数分経つけど、まだ戻ってこない。これは、幸運なんだけど、一体何やってるのかが気になる。もしかしたら、二人で言い合いでもしてるんじゃないかって思う。相性悪そうだから。
「よしっ、とりあえずコーヒーは用意出来たね」
「それで、どうするの?」
「また、スプーンで舐めてみよう」
「うん」
栞奈さんは私がうなずくのを確認すると、湯気のたっているコーヒーの中にスプーンを入れると、それを口の中に入れる。と、ほぼ同時に顔をしかめた。
「うわぁっ・・・・」
「どっ、どうしたの?」
「すっごい苦い・・・・。もしかしたら、小さい状態だからなのかもしれないけど、すっごくまずいよ・・・・」
「そっ、そうなんだ・・・・」
「でも、これぐらい苦いなら、ちょっと甘いぐらいの薬品が混ざってても気づかないかも」
「・・・・あっ、こうしたらどう?ミルクをあらかじめ入れておいて、薬もあらかじめ入れて交ぜておけば、余計わからなくなるんじゃない?」
「・・・・・そうだね。あんまりミルク入れてコーヒー飲んでないし、甘いって言われたら、ミルクのせいにすればいいね」
ようやく方法が決まった時、向こうの方から、二人らしき姿が歩いて来るのが見えて、栞奈さんはさっきの方法で。私は、残ってたハンバーグと、デミグラスソースに薬を混ぜた。
慌ててやったせいか、ちょっと怪しい感じになっちゃったけど、多分、バレないだろう。