勘と雰囲気と辻褄でこの出来栄えです
「ったく、なんなんだ。お前の事情で俺を引きずるな!」
「頼むよ~。俺、あんなこと言われちゃって困ってたんだからさ。許して!な?」
「・・・・はぁ。お前の事情なんか聞いてなかったしみてなかったし、知らない」
「だからさ、なんかわからないけど、恋花ちゃんが、俺の好きな人をしつこく聞いてくるんだ!だからさ、どうにもこうにも出来なくて、逃げて来ちゃったって言うかなんて言うか・・・・」
「そんなの、素直に『いない』って答えればよかったじゃないか」
「・・・・いやさ、なんかわからないけど、そう答えちゃいけないような予感がしたって言うかなんて言うか・・・・。ビビッと来たんだよ」
水斗の言葉を聞いて、俺は、さっきまで考えていたことを思い出す。そして、それをこいつに話してみようと言う気になった。
「ちょっと来い」
「えっ?」
俺は、慌てている水斗の手を摑むと、隅に連れて行く。
「修だって俺のこと引っ張るじゃないか!」
「それはいい。それよりも、聞いて欲しいことがある」
「えーっ、理不尽だな、それ。俺の話は『それでいい』って流すくせに・・・・」
「お前の話はどうでもいいことで、俺の話はどうでもいいことじゃないから。お前の話と俺の話の違いはそこだ」
「・・・・物凄い個人的なものさしだな」
「それでいい。人間の感覚って言うのは、みんな違うだろうからな。それが当たり前だ」
「・・・・はいはい、わかったよ。それじゃあ、そんなに大事なお話を聞かせて下さいよ~」
皮肉交じりに言う水斗の足を思い切り踏んづけてやろうかと思った時、俺達のことをずっと見張っていたらしい金髪の男がこちらに近づいて来た。
「・・・・何のようだ」
「何の用って・・・・この奥の扉に用がある」
そう言われて、奥の扉を見てみると、トイレだった。その時は、さすがに悪いなと思い、その場を退く。俺達がトイレへの道をふさいでる状態だったのだ。
「話の途中を邪魔して悪いね」
「・・・・別に」
俺はそれだけ答えると、扉の中に入って行く男のことをじっと見ていた。
「どうしたんだよ?」
「・・・・さっきからずっと、俺達のことを見ていた男だ」
「おお、さっきの人が?なんか、外人さんみたいだったな」
「そうだな」
「・・・・で、さっきの話は?」
「ああ、あの二人の子供のことなんだ」
「栞ちゃんと恋花ちゃんのこと?その二人がどうかしたのかよ?」
「二人の名前を思い出してみろ。何か思わないか?」
「え?何かって・・・・栞と恋花・・・・栞と・・・・花恋?ああっ!?」
「・・・・と言うことだ」
「ええっ、じゃあ何?修は、あの二人の子供達が、栞奈ちゃんと花恋だって言うのかい?」
「ああ」
「いや、まさか、そんなことある訳ないじゃんか。だって、見た目が随分変わっちゃってるぜ?」
「ああ。まぁ、これはあくまで俺の憶測だからな。本当にそうだと言う証拠は、まだ一つもない。ただ、もしそうなった場合、あの金髪の男がどうしてこっちを見張っていたのかとか言うことの辻褄が合う」
俺がそう言った後、数分近く水斗は何かを考えていたようだが、小さく息を吐いてからこちらを向いた。
「・・・・修の推理、教えてくれよ」
「推理じゃない。でも、俺が考えたのはこうだ。もしあの二人が栞奈と花恋だった場合、あの金髪の男は聖夜と考えられる」
「なっ、なんで!?」
「一緒にいた子供の顔をどこかで見たことがあると思ったら、お前の幼馴染の妹だった。いくら子供とは言え、全く知らない奴の前で警戒心がないことはないはずだ。でも、見た様子だと、警戒どころか何だかとても嬉しそうで、更に意識してみた時、会話が聞こえたんだ。ところどころだがな」
「ほぉ・・・・なるほどな、それじゃあ、聖夜が俺達のことを見張ってるのは?」
「栞奈達に薬を渡したのは聖夜で、その経過を見る為に俺達のことを監視してるってことだ」
「うーん、ああ、でも確かに証拠はないけど、何となく想像が出来る流れだな。恋花ちゃんの言葉とかも、確かに怪しい部分があったし・・・・」
「ああ。でも、これはあくまで俺の想像で、証拠は一つもないから、信じなくてもいい。ただ、そのことを考慮したうえで会話を展開した方がいいかもしれないと言うことだ」
「ほぉ・・・・なるほどなぁ」
「まぁ、そう言うことだ。信じなくてもいいけどな」
「どっちだよ!」
「どっちでもいい。とにかくそう言うことだから・・・・」
俺がそこまで言いかけた時、さっきまで座っていた席のある方向から、「そっ、そういう問題じゃありません!!」と言うかん高い怒鳴り声が聞こえて、俺達は慌ててそちらの方向を向く。
すると、そこには帽子を目深に被った背の小さい奴が立っていて、俺は直ぐに気づいた。・・・・やはり、俺の予想は当たっていたようだ。
「凄い声が聞こえたけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。・・・・変装までして見張りに来るなんて・・・・随分素晴らしい心構えだ」
「・・・・は?」
「まあいい。戻るぞ、子供二人だけで残しておくのは可哀相だろ」
「おっ、おう」
イマイチ状況を把握しきれていない水斗の頭を軽く叩くと、栞達のいる席に戻った。