一度目立つと、中々元には戻りません
「お待たせいたしました。こちらがジャンボビックパフェです」
「うわぁ~!夢みたいだ!」
「こちらは二十分以内にすべて完食すれば無料になりますが、二十分を過ぎても食べ切れなかった場合、もしくは、途中で食べきれなくなってギブアップをした場合、料金六千三百二十円をお支払いいただきます」
「ああ、はいはい。大丈夫ですよ~」
丘本君は余裕そうな笑みを浮かべながら言うけど、私は内心凄くドキドキしていた。だって、私、そんなにお金持って来てないんだもん・・・・。だから、もし食べ切れなかった時は・・・・。
「大丈夫、凛のことだから、あんたに払わせるつもりはさらさらないって」
「え?それじゃあ・・・・」
「食べきれないことは絶対にないと思うけど、もしそうなった場合、犠牲になるのは、きっと修だろうな・・・・」
「ええっ!?怒らない?」
「怒る!」
「えええ・・・・どうしよう」
「まあまあ、あんたがそんなに不安がることはないぜ。凛の大食いっぷりを、前に見ただろ?」
「うっ、うん・・・・」
一応うなずいたものの、正直言って、あんまりよく覚えてないんだ・・・・。確か、よく食べる子だったような・・・・みたいな感覚だから、目の前に聳え立つ大きなパフェの壁を食べきれるのかが不安だった。だって、見た目は私よりも華奢だし、凄く軽そうだもん・・・・。
「・・・・美味そうだな。俺も頼んじゃおうかな・・・・」
そんな恐ろしい事をボソッと言われて、私は慌てて神羅さんの方を向く。それは桜木君も同じみたいで、立ち上がっている。
「しっ、神羅さん、やめて下さい!もし食べ切れなかった時、修さんに大きな負担が・・・・」
「えーっ、でもよ、俺も腹減って来ちゃってよ・・・・」
「それじゃあ、せめて他のもので・・・・」
「・・・・仕方ないな。水をがぶ飲みする」
神羅さんはそう言うと、何だか悲しそうに立ち上がるから、私はなんとかしてあげたいけど、高校生である私がそんなにお金を持っているはずもなく、私は何も言えなかった。
「・・・・大丈夫なのかな?」
「多分、大丈夫だとは思います。ただ、水でお腹を満たすのはあんまりよくないって聞いたので、神羅さんがこっちに来たらやめるように言いましょう」
「あのさ、丘本君がご飯食べ終わったら、私の家においでよ。やっぱり、ご飯を作るからさ」
「いえ、それは悪いのでは・・・・」
「ねえねえ二人とも、僕の挑戦見ててよ!」
「あっ、うん。わかった」
「準備はよろしいですか?」
「はいは~い。大丈夫ですよ~」
「それではタイムを開始します。よーい、スタート!」
女性店員さんはそう言った直後、手に持っていたストップウォッチのボタンを押す。それと同時に丘本君は食べ始めた・・・・んだけど、そのスピードは結構ローペース。と言うのも、何だかパフェの味を楽しんでるみたいで、制限時間がある食べ方じゃない。
「・・・・ほんとに大丈夫かな?」
「多分大丈夫だとは思うんですけど・・・・それよりも心配なのは、修さん達にバレないかが問題です。ほら、僕達監視みたいなことをしてるので・・・・。修さん、監視されるの嫌いみたいで・・・・」
「そっ、そうだね。結構目立つことしちゃってるから、大丈夫なのかな・・・・」
「凛君と神羅さん側の席はパフェで隠れると思うんですけど、問題は僕達ですね」
「そうだね」
桜木君の言葉にうなずいて、私は伊織君達の座っていた席に視線を向ける・・・・けど、いない。伊織君達が座ってた席をしっかりと覚えてた訳じゃないから、違うところにいるのかもしれないと思って更に周りを見渡してみたけど、どこにもそれらしき姿は見当たらない。
「あれ?」
「・・・・どうしましたか?」
「伊織君達の姿が見えなくて・・・・」
「ええっ?ほんとですか?」
「うん・・・・どうしたんだろう・・・・」
「修達なら、ちゃんと、このレストラン内にいたぜ?」
「そうですか?」
「ああ。さっき、ドリンクバーのところでコソコソ話してた。ほら、変装してる状態でもあんまり近づけないから、話の内容は聞こえなかったけど、二人であることは間違いないぜ」
「そっ、そうですか・・・・よかった」
安堵のため息をつきながら神羅さんから視線をそらした時、私は見逃していたものを思い出して、慌てて神羅さんに視線を戻す。最初は見間違いかと思ったけど、見間違いじゃなかった・・・・。
私が驚いてる理由・・・・。それは、神羅さんが持ってる水の量だ。両腕一杯に抱えて、何個のコップを持ってるのかわからないぐらいだ。
「そっ、それ・・・・」
「ん?ああ、これ?言っただろ、水をがぶ飲みするって・・・・」
「どっ、どれだけのコップを使ったの?」
「確か、三十とか・・・・」
そんな私達の会話を聞いて、今まで丘本君の方を向いていた女性店員さんが振り返って、ギョッとした顔をする。でも、注意出来ないみたいで、苦笑いを浮かべながら丘本君の方に向き直った。
そんな店員さんを可哀相に思ったのか、桜木君が立ち上がって神羅さんを注意する。
「神羅さん、そんなに沢山のコップを使っちゃダメですよ!他のお客さんの分がなくなっちゃうじゃないですか!」
「ん?大丈夫だろ、後何個か残ってたし・・・・」
「そっ、そう言う問題じゃありません!!」
「ちょっ、桜木君!」
「あっ・・・・」
「何々、どうしたのさ、三人とも・・・・って、凄い量だね、神羅」
「ああ。腹減っちまって、水で我慢しようと思って・・・・」
「こらこら、そんなことしちゃアカンよ。仕方ない、嫌だけど、僕のこのパフェ食べていいよ」
「マジ!?」
「大マジ!・・・・って言うことでいいですかね?」
「えっ、ええ。まぁ・・・・。元々何人で食べてもいいと言う決まりなので・・・・」
「じゃあ決定!はい神羅、水戻して来て!」
「おう、わかった!」
丘本君の言葉に神羅さんはうなずくと、沢山のコップを戻しに行った。
これで、ようやく平和が戻るかと思ったんだけど、一度こちらに向けられたみんなの視線が元に戻ることはなく、私達は凄く目立つ存在となってしまっていた。
「すっ、すみません、あの時僕が怒鳴っちゃったから・・・・」
「ううん。多分、大丈夫だよ」
「そうですかね・・・・」
「私達はみんなに背を向けて、顔が見えないようにすればいいと思うよ?」
「そっ、そうですね。ありがとうございます」
桜木君の言葉にうなずくと、私は、今まで被っていた帽子を今まで以上に深く被り、これ以上目立つようなことがありませんようにと願うばかりだった。