考えるよりも、行動に移した方がいい時もあるんです
「・・・・どうしたの、篠崎さん?」
「えっ、うっ、うん。なんでもないの・・・・」
何とかそう答えると、みんなにバレないようにため息をついた。
・・・・想定外だった。と言うのは、瑞人の好きな食べ物。瑞人のおじいちゃんや亜稀さんが和食好きだから、てっきり瑞人も和食好きだと思ってたんだ。でも、まさか、洋食好きだったんて・・・・。
ショックを隠しきれない。だって、私は瑞人が好きだと思ってたからいっつも和食を作ってたんだ。私も玲菜も洋食好きなのに・・・・。我慢してまで作っていた和食が、まさか嫌いだったなんて・・・・。
「篠崎さん、元気出してよ、ね?」
「・・・・うん。無理かも」
「ええっ・・・・」
「ん?どうした?恋花ちゃん。腹でも壊したか?」
「・・・・」
そんなどうでもいいことを聞いてくる瑞人を睨みつけて、私はため息をついた。
よく考えてみれば、こいつは長年私がアピールをしてたのに気づかないほど鈍感で、デリカシーもない。それに、馬鹿だしくだらないし、馬鹿だし。
・・・・うん、ほとんどいいところはない・・・・と思う。それなのに、どうして私はこいつのことをずっと思ってたのか不思議に思う。こいつには、好きな人がいるってわかったのに・・・・。
そう思って、どうして体を縮めたのかと言う目的を思い出した。確か、好きな子の名前を聞きだす為に、私は体を縮めることを決意した。この薬の効果がいつまで続くのかわからない以上、早くそのことを聞いておきたい。
「・・・・お兄ちゃん、好きな人いるでしょ?」
「ん?突然どうしたんだよ?」
「話してて思ったの。お兄ちゃん、好きな人がいるんだろうな~って」
「ん?いないぜ?」
「・・・・嘘!」
「え?そう言われても・・・・」
そう言って困った顔をする瑞人は、嘘をついている感じではなく、私は混乱する。こいつは嘘が苦手だ。それに、演技も下手だ。だから、これが演技だとは思えない。・・・・と言うことは、本当に好きな人がいないってこと?
「答えなさい!」
「ええっ!?なんで・・・・」
「答えなきゃ、お兄ちゃんのハンバーグ食べちゃうから!」
「わっ、わかったよ!白状します、白状・・・・」
その言葉を聞いて私は満足してうなずくと、ため息をついた。凄く子供だと思う。ハンバーグを人質に身代金を要求したら、いくらかもらえるかもしれない勢いだ。・・・・そんなこと、もちろんしないけど・・・・。
そんなどうでもいいことを考えてしまう自分に首を振ると、瑞人の方をジッと見つめる。ちゃんと白状すると言ったんだから、誤魔化そうものなら、本気でハンバーグを食べてやるつもりだ。
そこまでして、私は聞きたかった。最初の目的は、誰が好きなのかって聞きたかったのに、今では、好きな人がいるのかいないのかってことになってる。でも、いいんだ。ちゃんとはっきりして欲しいから。
「・・・・言わなきゃダメ?」
「ダメ!」
「・・・・えっ、えっと、俺は何を答えればいいの?」
「好きな人がいるのかいないのか!いるなら、どんな人か教えて!」
いつの間にか、演技を忘れて素が出てきちゃってるけど、動揺している瑞人はそのことに気づいていないみたいで、苦笑いを浮かべながらメロンソーダを飲んでいる。
「えっ、えっと・・・・」
瑞人はそう言いながら、なぜかチラチラと伊織君の方を向く。なんでそんなことをするのかわからないけど、伊織君は、そんな瑞人の視線を無視して、玲菜と怪しい金髪の男の方を見ている。
「・・・・篠崎さん、演技を忘れてるけど、いいの?」
「いいの!今はこれを聞きだすことで精一杯だから!」
「そっ、そう?」
栞奈さんの言葉に私が小声で答えた時、今までずっと玲菜達の方を向きながらコーヒーを飲んでいた伊織君がカップを置いてこっちを向いた。その口は開きかけていて、何かを話そうとしていた時だと思う。でも、それよりも早く瑞人が話しだした。
「おっ、修、飲み物入ってないじゃないか!俺が入れて来てやるよ」
「別にいい。自分で行く」
「そっ、それじゃあ、一緒に行こうぜ!」
この話を聞いて、瑞人が逃げようとしてることに気づき、慌てて腕を摑もうとするけど、それよりも早く、瑞人が伊織君の腕を引いて歩いて行ってしまったため、私はため息をつく。昔から、逃げ足だけは速かった気がする。
「にっ、逃げられちゃったね・・・・」
「・・・・もう!どうして逃げるのよ!」
「まっ、まぁ、篠崎さん、落ち着いて・・・・」
「この状態で落ち着いてなんかいられるはずないわ。好きな人がいるって嘘をついてたかもしれないじゃない」
「たっ、確かにね・・・・」
「・・・・はぁ。いっつも私が振り回されるんだから」
ため息をついて、木のテーブルに突っ伏す。瑞人を除く全員の食器は、もう既になくなっていて、あるのは、瑞人の食器だけ。あいつ、食べるのも遅いんだ。いつもいつも何時間もかかってて・・・・。
そう思ってため息をつく。好きな人がいるって言うのは嘘なのか。それとも本当なのか。もし本当なら、どこまで仲がいいのか。もしかしたら、私と違って洋食を作ってくれるような女の子かもしれない・・・・。
「・・・・帰って来たら、絶対言わせてやる」
「とっ、とりあえず落ち着こうよ、篠崎さん?」
「・・・・うん」
栞奈さんの言葉にうなずいて、何度か深呼吸をする。怒りっぽいって前に注意されたんだ。だから、何とか落ち着こう。そうしたら・・・・。
その時、私と栞奈さんのケータイが同時に鳴り出して、二人同時に驚く。そして、なぜか互いに身を乗り出すと、自らのケータイを相手に見えるように机に置いた。
「えっと・・・・送られて来た文面は・・・・同じ?」
「誰からのメール?」
「それが・・・・メールアドレスが書いてないの・・・・」
「えっ・・・・。それ、どうやって送られて来たの?それに何より、どうして私達のメールアドレスを・・・・」
「とりあえず、見てみようよ」
「うん」
「それじゃあ、私が読むね
『あれから一時間程度時間が経ったが、薬の調子はよさそうだな。ところで、ほれ薬の説明をし忘れたことを思い出して、このようにメールを送った。その薬は飲ませた後、一番最初に見た相手が対象となる。飲ませ方はどんな方法でも有効だ。固形物に交ぜようが、液体の中に交ぜようがな。ただし、出来れば炭酸は避けて欲しい。変な化学反応を起こすかもしれないからだ。分量は、大さじ一杯程度で十分だから、そこまで難しくもないだろう。それじゃあ、健闘を祈る』
・・・・だって。文面的に、さっきの科学者みたいな人かな?」
「・・・・って言っても、どうして私達のメールアドレスを知ってるの?」
「さぁ?」
「・・・・まぁ、いいわ。細かいことを気にするのはやめましょう」
「うん、そうだね。もし何かあったら、修に頼もうね、絶対守ってくれるから!」
「・・・・うん」
いいのかな・・・・と内心思いながらも、とりあえずはうなずく。でも、実は違うことを考えていたんだ。・・・・言わなくてもわかるだろうから言わないけど。
「・・・・考えようか」
「え?何を??」
「・・・・薬のこと」
「あっ、うん。そうだね」
私は、ちょっとボーッとしている栞奈さんを心配に思ったけど、もしかしたら、私と同じなのかもしれないと感じて、そのことについては聞かないことにした。