ブラックコーヒーへの挑戦
「でっ、でも、本当にいいの?こんなに・・・・」
「大丈夫だ。この店、カードが使えるかわからないから、今さっき、財布を持ってきてもらった」
「だから、さっき、黒服の人がいたんだ!」
「まあな。だから、金のことは気にしなくていい」
「えっ、えっと・・・・。でも・・・・」
「頼んだんだ。返品されても店に迷惑をかけるだけだろうしな」
「うっ、うん・・・・」
嬉しい申し出だけど、本当にいいのかと言うことに迷う。
だって、お兄ちゃんの隣に座ってるお姉ちゃんと、もう一人の女の子がこっちをじっと見てるんだ・・・・。多分、お姉ちゃんの友達だと思うんだけど・・・・。
・・・・そう言う訳で、私はなかなか食べられずにいた。きっと、お姉ちゃんは、私に食べるなって視線を送ってるんだろうし、かと言って、せっかく聖夜君が頼んでくれたのを食べないってことは出来ないし・・・・。
私は、チラッと聖夜君の方を向いて、様子を伺う。聖夜君はお腹が空いてないのか、コーヒーだけを頼んでいたんだ。しかもだよ、ブラック!凄いよね!あっ、でも、今は大人の姿だから、味覚も大人になってるのかな?
「凄いね、コーヒーをブラックで飲めるんだ!」
私がそう言った直後、聖夜君が顔をしかめてため息をついた。それを見て、私は何だかまずいことを言っちゃったかなと思って、慌てて謝ろうとする。
「・・・・ほら、見てみろ」
「え?」
急にカップを差し出されて、私は不思議に思うけど、中を覗き込んでみる。そこには、コーヒーではない何かが入ってた。コーヒーに近い色をしてるけど、コーヒーじゃないみたいで・・・・。
「これ、何?」
「・・・・ココア」
「えっ!?」
「そっ、そんなに驚かなくたっていいだろ・・・・」
「ごっ、ごめん・・・・」
私は慌てて謝りながらも、とても意外に思う。さっきも凄いとはいいつつも、内心では、聖夜君ならありそうだな~って思ってたんだ。
それに、勝手に甘いものが苦手そうだなって言うイメージがあったから、甘いココアだって言われてびっくりしちゃったんだ・・・・。
「あっ、えっと・・・・」
「・・・・思想思考は子供のままだが、体は大人だ。だから、味覚も大人の味覚ってことになる」
「えっと、それじゃあ・・・・」
「・・・・認めたくないけど、大人になっても、僕はコーヒーをブラックでなんか飲めない。だから、砂糖とミルクを入れてる」
「そっ、そうなんだ・・・・」
「・・・・誰にも言うなよ」
「うっ、うん・・・・」
私がうなずくと、聖夜君は何だか恥ずかしくなったのか、顔を赤くして、ため息をついた。その姿がいつもの聖夜君みたいで、私は可愛いと思う。
何だかずっと、聖夜君と一緒にいるって言う感覚じゃなかったのに、急に聖夜君っぽくなって、段々と緊張してくる。
「・・・・あっ、あのさ、聖夜君って、憧れてる人とかって、いる?」
「憧れてる人?」
「うっ、うん・・・・」
「お前はどうなんだよ?」
「えっ!?」
まさかの質問返しに戸惑うけれど、素直に答えることにする。
「わっ、私はね、大きな声じゃ言えないし、本人の前でも言えないんだけど、お姉ちゃん・・・・かな?」
「そうか。・・・・確かにお前のねーちゃんは凄いからな」
「なっ、何が?」
「色んな意味で」
「えっ、えっと・・・・それって・・・?」
私はいろんな意味と言う言葉の意味がわからなくて問いかけて見ると、聖夜君は首を振ってため息をついた。
「ツンツンしてるだろ。あれが悪い意味で凄いと思う。でもまぁ、参考になることを聞いた」
「えっ、えっと・・・・」
結局、話が摑めないまま流れて行ってしまって、どうしようかと思う。
聖夜君の憧れの人のことも聞けなかったし・・・・。でも、私はどうしても知りたかった。いるとは限らないけど、もしいるのだとしたら、どんな人なのかって気になるんだもん。
「あっ、あのさ、それで、聖夜君の憧れの人って、いるの?」
「・・・・なんでそんなこと聞くんだよ?」
「えっ、えっと、もしいるなら教えて欲しいなって思って・・・・」
「・・・・まぁ、いるって言えばいる。最近になってな」
「教えてもらえない?」
そう聞いてみると、聖夜君は一瞬顔をしかめた後、仕方なさそうにため息をつくと、内緒話をするかのようにこっちに向かって身を乗り出して来た。だから私も、緊張しながら、少しだけ聖夜君に近づく。
「いるんだよ。あそこに」
「あそこ?」
「お前のねーちゃん達と一緒にいる奴だ」
「えっ、えっと・・・・瑞人お兄ちゃん?それとも、伊織さん?」
「僕があの馬鹿に憧れると思うか?」
そんな言い方をされるお兄ちゃんを可哀相だと思うけど、確かに、聖夜君みたいな子がお兄ちゃんみたいなタイプの人に憧れることはないかなと思って納得する。
「そうなんだ・・・・。確かに伊織さん、かっこいいもんね。私、お兄ちゃんと並ぶぐらいかっこいい人初めて見たもん」
「・・・・まぁな。うん、まぁ、だから・・・・そういうことだ!」
最後の方はやっぱり恥ずかしくなったのか勢いよく言うと、そのまま立ち上がって、どこかに行こうとする。
「どっ、どこに行くの??」
「ブラックを飲む」
「・・・・え?」
「挑戦だ」
聖夜君はそんな不思議な言葉を残したまま、どこかへと歩いて行ってしまった。