交渉力が高いのは素晴らしいことです
「おおっ、混んでる混んでる・・・・。どれぐらい待たなきゃいけないのかな?」
「どうなんだろうな・・・。今は昼時だしな。特にファミレスともなると、家族連れも多いだろうし・・・・」
「それに、七人だしねぇ・・・・。最悪は、バラバラの席になっちゃうかもしれないね」
「ええ~っ、せっかくみんなで一緒に来たのに?」
丘本君達がそんなことを話しているのを聞きながら、私は伊織君を探す。ガラスに遮られてて見えにくいけど、それらしい姿は見つけた。でも・・・・。
問題は、ファミレスとかは自分で好きな席に座れないってこと。店員さんに案内された場所に座るしかないから、伊織君の近くに座れるかどうかもわからなくて・・・・。
そう悩んでいた時、店員さんがこっちに歩いて来て、席が空いたことを告げる。
「えーっと、石村様は七名様でお越しですよね?」
「はっ、はい、そうですけど・・・・」
「実は、ただいま空いたお席は四人座りの席でして・・・・八人席が空くまでお待ちになられますか?」
店員さんに聞かれて、私は後ろを振り返る。すると、優奈が手を挙げてこっちに歩いて来た。
「席の場所は?」
「えーっと、35番席です」
店員さんの言葉に、優奈はゆっくりとうなずいた後、更に言葉を続ける。
「それじゃあ、もうじき空きそうな席ってありますか?」
「さっ、さすがにそこまでは・・・・」
店員さんが困り果てた顔でそう言った時、伊織君達が座っている席の右斜め前の席のお客さんが立ち上がったのが見えた。すると、それを素早く見つけた優奈が、口を開く。
「私達3人を、その35番席に連れて行ってください!それで、残りの四人は、今空いた36番席に」
「はっ、はい。わかりました。それでは、席までお連れします」
「それじゃあ私達は先に行ってるから、みんなは36番席でね!」
「なっ、なんか、ありがとう!」
「ううん、気にしないの!じゃ、頑張んなさい!」
優奈はポンポンと私の肩を叩くと、美香達と一緒に歩いて行ってしまった。
「・・・・優奈さん、凄いね。席の番号まで知ってるんだ・・・・」
「席の番号は、俺が見たんだよ。ほら、あれで」
「ええっと・・・・視力がいいから見えるって訳でもないですよね?だって、席の上に番号が書いてある訳じゃないし・・・・」
「ああ。俺な、見えるんだよ。最初は、見たいと思った人の視点を見ることしか出来なかったんだけど、今は、客観的に自由に見ることが出来るようになってよ、机の横に書いてある席番号を見たんだ」
私は、そんな凄いことを普通の口調で言う神羅さんに驚きを隠せなかった。だって、それって・・・・確か、千里眼とか言うものだった気がする・・・・。
「いえ、千里眼は、何キロも離れた場所にいる人の見ている風景を見ることが出来る能力のことだと思います。・・・・って、習ったんですけど、神羅さんの場合、客観的に、しかも自由に動いて見て回ることが出来るところを考えると、自由の利かない千里眼よりも便利な万理眼と言った方がいいと思います」
「そっ、そんなのがあるの!?」
「えっ、えっと・・・・今、僕が作りました」
「そっ、そうなんですか・・・・」
「まあよ、どうでもいいんだけど、そう言うことだから、な!」
「えっ、え??」
「気にするな気にするな!ほら、店員が来たぞ」
「はっ、はぁ・・・・」
私は、何だか意味ありげな神羅さんの言葉に首をかしげたけれど、神羅さんの後について歩いて行く。
「わかりませんか?」
「え?何が??」
「神羅の特技を使えば、石村さんも監視が出来るってことですよ」
「・・・・」
丘本君の言葉に私は凍りつく。そうだ。よく考えてみれば、神羅さんが見ようと思えば私の生活はもろバレだ。・・・・って!?
「もっ、もしかして、それ、場合を問わず!?」
「え?えーっと、僕達はあんまりわからないんですけど、どんな時でもじゃ・・・・」
そう言われて、私は顔から血の気が引いていくのがわかった。だって、それじゃ、お風呂入ってる時とかでも見られちゃうってことじゃないのか・・・・な?
「大丈夫ですよ、石村さん。多分神羅は、僕らのことしか見ませんよ」
「なっ、なんで?」
「えっと、それはやっぱり・・・・悪いと思ってたり」
「そっ、そっか・・・・」
「はい。それに、無意識に見れたりとかする訳ではないみたいなので、大丈夫ですよ」
「そっ、そっか・・・・」
ホッと安心しながらも、まだ全ての緊張が晴れた訳じゃない。と言うのも、私達は今、変装をしてるんだ。伊織君にバレないように。でも、そんなに大掛かりじゃないから、バレてしまう可能性もあるってことだ。
「バレたら怒るのかな?」
「うーん、どうなんでしょうね。怒らないとは思うけど・・・・」
「そっか、嫌われないで済むならよかった・・・・」
「そう言うことなんで、ちょっと目立つもの頼んじゃっていいですか?」
「え??」
「これ!ジャンボビックパフェ!これを二十分以内に食べたらタダになるんです!・・・・と言うことで、どうですか?」
「えっ、え~っと・・・・いいよ?」
「やった!」
丘本君はそう大きな声で喜んだ後、慌てて口を塞ぐと、少々控えめに注文をした。
「でっ、でも、値段は・・・・?」
「大丈夫大丈夫。僕、あれぐらいなら、最低でも三つはいけるし。でも、お店側が可哀相だから、一つでいいかなぁ~って」
「へぇ・・・・」
私は、凄いなと思いながらも、どうか伊織君に、私達がここにいることがバレませんようにと祈り始めた。