意外なところに本人がいるかもしれないので、陰口は禁物です
「ここが、ファミリーレストランか。なんか、喫茶店みたいな雰囲気だな」
「そうか?俺、喫茶店行ったことないからわからないけど、居心地はいいだろ!」
「・・・・人が多い」
「まぁ、仕方ないよな、今は昼時だしよ。気を取り直そうぜ!」
「・・・・嫌だ」
「なんだよ、いじけてんのか?」
不機嫌そうな亜修羅を見て、私はどうにかしたいと思って、とりあえず、この会話を逸らそうとする。
「ねえねえお兄ちゃん、私、これ食べたい!」
精一杯子供っぽく言ってみる。子供らしさを出せたのか、わからなくて不安だったけど、目の前に座っている篠崎さんが小さくうなずいてくれたから、私はホッとする。
だけど、なんだか亜修羅の様子が気になる。何を思ったのか、首をかしげたまま私のことをじーっと見てくるんだ。その時間があまりにも長くて、私は、体が縮んでしまったことを忘れて、いつものように話しかけてしまいそうになる。
「どっ、どうしたの?」
「・・・・お前」
そう言われて、私は、どうしようかと思った。小さい頃からの付き合いだからわかるんだけど、言葉の雰囲気で、どんなことを考えてるのかとか、その先の言葉がわかるんだ。だから、この言い方は・・・・。
「えっ、えっと・・・・どうしたの?」
「この前会った子供だろ?」
そう亜修羅が言った後、私は少なくとも一分間は黙り込んでいた。予想を大きく外れて・・・ううん。斜め上をピューって、凄い速さで飛んで行った気がする。
「・・・・違うのか?」
「えっ、え~っと、うん!そっ、そうなの!よっ、よく覚えてたね!」
「覚えてたって言うか、結構最近だろう」
亜修羅にそう言われるけど、私は全くその時のことを知らないから困っちゃう。
怪しまれないように、一応話を合わせておいたけど、もし、その時の話をされちゃったらどうしようかな・・・・。
そう思いながらキョロキョロと辺りを窺っていた時、丁度斜め右側の席に、見覚えのある男の人と、女の子が座った。女の子の方は見覚えがないんだけど、男の人の方は・・・・。
なんとか思い出そうとしてみる。でも、中々思い出せない。だから、そんなに仲がいい人って訳ではないんだろうけど、えーっと・・・・。
私がそう思っていた時、篠崎さんが、ボソッと「玲菜」と言ったのが聞こえて、私は篠崎さんに小声で話しかけてみる。
「篠崎さんの知り合い?」
「知り合いって言うか、妹よ。聖夜君の家に行くって言って出て行ったのに、何やってんのよ・・・・」
「玲菜ちゃんは、もともと小さいの?」
「ええ。十歳だからね。それよりも、あの男が誰かって話よ。サングラスをしてて顔があんまりよく見えないけど、怪しいわ・・・・」
「そっ、そうだよね。玲菜ちゃん、楽しそうに笑ってるけど、危ないよね・・・・」
「うん・・・・大丈夫かしら?誘拐されたりとかしないかな?」
私達がそう話し合っていた時、いつの間に店員さんが来ていたのか、注文を聞かれたから、私はとりあえず、さっき亜修羅に食べたいと言ったものを指差すと、玲菜ちゃんの方を向いた。私は妹がいないから、篠崎さんの心はわからないけど、心配は心配だ。昔から妹が欲しいなって思ってたし・・・・。
「もし玲菜ちゃんに何かがあったら、私があの男のことババッてやっつけちゃうからね!」
「・・・・体が縮んだ状態でも大丈夫?」
「うん。いざとなったら、凍らせちゃうもん!」
「そっ、そう?それじゃあ、頼りにしてるね」
「うん。任せといて!」
「おい、お前等、さっきから何こそこそ話してるんだ」
「えっ?えっと・・・・」
「とっ、友達に似た女の子を見つけて・・・・」
「ん?あっ、あそこに座ってる金髪の子か?」
「うっ、うん」
「へぇ・・・・外国の子と友達なんて凄いな!今度俺にも紹介してくれよ!」
有澤君がそう言った直後、机の下でガタンと言う音が聞こえて、有澤君が足を抑えて痛がっている。それで、机の下で何が起こったのかと言うことがわかった。
「ちょっ、そんなに本気で怒るなよ!」
「お前が小さい子供にまで手を出さないように抑制してやっただけだ。お前の幼馴染もさぞかし悲しむだろうしな」
「はぁ!?何言ってんだよ、花恋が悲しむ訳ないじゃんか」
そんな有澤君の一言に、篠崎さんが、一瞬イラッとした顔をしたけど、慌てて笑顔をつくって有澤君に話しかける。
「どうしてそう思うの?」
「え?だってよ、いっつも忙しそうに動いてて、俺のことは心配してくれるけど、そう言う意味とは違うかなって」
「・・・・そう言う意味って?」
「うーん、心配してくれてるけど、母親みたいな感じだろうなって」
そんな有澤君の言葉に篠崎さんは長いため息をつくと、それを不思議に思った有澤君に話しかけられても、無言で首を振るだけだった。
「おい、なんか知らないけど、いじけてるぞ」
「そっ、そんなこと言ったって・・・・俺、なんて言えばよかったんだよ?」
「お前の幼馴染は、料理や洗濯とかも出来るんだろ?それに、お前のことを心配してくれてる。それでいいじゃないか」
「でもよ~、ちょっとうるさいって言うか、女の子のことだと余計厳しくてさ、直ぐ怒るんだ。一緒に下校するだけでも怒るんだぜ?」
「嫉妬されるだけマシだと思え」
「ちょっ、修は花恋の味方かよ?」
「そうじゃない」
「俺は、栞奈ちゃんが羨ましいよ。凄い優しくてさ、きっと料理も上手だろうし、洗濯とかもやってくれて、それに、女の子のことに対しても、あんまり厳しくないだろ?」
「・・・・言っておくけどな、栞奈は、昔から不器用な奴だった。物凄く。料理や洗濯、その他家事とかまともに出来ないぐらいにな。それに、あいつだって口うるさいぞ。女のことに関しては特にな。だから、どこの幼馴染も同じだと思えばいい」
私と篠崎さんは、そんな二人の会話を複雑な気持ちで聞いていた。亜修羅が言っていた言葉は、全部自覚してるし、それに、合っている。
昔は、家事と言う家事、全部出来なかった。洗濯も掃除も、裁縫も。それに、一番酷かったのは料理。あれは、とても食べられるものじゃなかった・・・・。
わかってる。自覚してる。でも、それを人に堂々と言うのはどうかと思う。
「どうしてそういうこと言うの?」
「そういうこと?」
「長いこと付き合ってきた幼馴染の悪口!」
「悪口じゃない。事実だ」
「でっ、でも・・・・」
「例え事実だとしても、俺達が言ってることは悪口に近いものがあるかもしれない。だから、もうやめようぜ?」
「・・・・お前がいい始めたくせに」
亜修羅はそんなふうに不機嫌そうにボソッと言ったけど、最後の最後には、私の方を向いて謝ってくれたから、私は素直に許すことにした。