色んな意味で常識が通用しない人です
「こっ、こんなことしてもいいのかな・・・・?」
「バレなきゃいいんだ。それよりも、ちゃんと見てろよ」
「うっ、うん・・・・」
聖夜君は、バレなきゃいいって言ってるけど、私達、結構目立ってる。だって、白衣を着た金髪の親子が、高校生二人と女の子二人の様子を覗いてるんだもん・・・・。そりゃ、目立っちゃうよ。
「むっ、むしろ、金髪サングラスって目立つんじゃないのかな?」
「確かにな。なら、いっそのこと黒服に着替えた方がいいのか・・・・」
「それは、もっと目立っちゃうって!」
「それじゃあお前は、なんの服が一番目立たないと思うんだよ?」
「えっ、えっと・・・・。普通の服がいいかな?」
「・・・・変装も何もするなと」
「うん。白衣を脱いで、サングラスを外すだけでも大分変わるかも。もしくは、帽子を外すとか」
「・・・・」
聖夜君は最初、私の言葉に否定的だったけど、やがて仕方なさそうにうなずいて、白衣とサングラスを取ると、私に渡して来た。
「わっ、私が持ってるの?」
「僕は、パソコンで色々調べなきゃいけないから、お前が持っててくれ」
「でっ、でも、パソコンなんて・・・・」
「ほら、これだ」
そう言って聖夜君がポケットから取り出したのは、電子辞書ぐらいの大きさの機械で、私はびっくりする。普通の人は、これをパソコンとは言わず、電子辞書と言うと思う。
「これは、超コンパクト且つ、軽量化に成功した高性能のパソコンだ。ちなみに、容量は、従来のパソコンの三倍はある」
「すっ、すごい・・・・」
「まあな」
聖夜君は少し嬉しそうに言うと、直ぐに真顔に戻って、パソコンを起動した。私は、聖夜君に言われたとおり、ずっとお姉ちゃん達の様子を眺めていた。
小さくなったお姉ちゃんは、いつものツンツンとした感じはなくなっていて、凄いと思う。体が小さくなっただけでそれだけ変われるものなのかと思うと、私も姿を変えてみたくなる。でも・・・・。
チラッと聖夜君の方を向いてみる。真剣にパソコンの画面を見ている聖夜君の顔はかっこいい。うん、それはもう、この世のものとは思えないぐらい・・・・って、そんな言い方したら失礼なのかもしれないけど、凄くかっこいい。
今の年齢だと、たまに可愛さが垣間見れるけど、大人になったら、もう全部がかっこよくなっちゃうらしい。
「・・・・おい」
「えっ!?」
「僕じゃなくて、あいつらを見張ってろ。僕のことは見張らなくてもいい。逃げたりしないから」
「うっ、うん・・・・」
私の気持ちに気づいてないのか、それとも、気を遣ってくれたのか。そのどちらなのか、私にはわからない。聖夜君って、絶対に心を感じ取れるような人じゃないと思う。今は、こう言うことを考えてるのかな?とも想像出来ないんだもん・・・・。
「あっ、聖夜君、ファミレスの中に入って行っちゃったよ!」
「ファミレス?なんだ、それ?」
「えっ、えっと・・・・ファミリーレストランって言って、家族で食べるのに適しているような・・・・えっと、お値段で、お手ごろ・・・・なのかな?」
「美味いのか?」
「うん、私は美味しいと思うよ!あそこのお店、美味しいって有名だし!・・・・あっ、でも、聖夜君は、いつも美味しいご飯を食べてるんだよね・・・・?専属のシェフさんとかがいるの?」
「和食、洋食、中華、フレンチ、それから、ロシアとか、色々いる」
「えっ!?ロシア!?」
「うん。ロシア料理は、ロシアの人間が一番美味く作れるはずだ。だから、いる。インドの奴もいるぞ。カレー専門でな」
「えっ・・・・」
私は、あまりの徹底振りに、言葉が出なくなった。和食とか洋食とかのシェフがいると言うのなら想像がついていた。だって、聖夜君の家は凄い大金持ちなんだもん。でも、まさか、料理一つに専門のシェフがいるなんて・・・・。
「それじゃあ、和食とか洋食の区切りって・・・・」
「一番最初に挙げた五人のシェフは、常に家の厨房にいる。でも、後に行ったロシアとかインドとかは自分の国にいるから、食べたかったら呼び出す」
「・・・・へぇ」
気の抜けた返事しか出来ない。食べたくなったら呼び出すって・・・・。どれだけなんだろう・・・・。
「まぁ、この話はもういいだろう。とりあえず、後を追うぞ。ついでに何か食べよう」
「えっ、でも・・・・」
「今はお金を持ってないけど、カードがある。だから、好きなだけ食べていいからな」
「でっ、でも・・・・」
「お前、ずっと腹が鳴ってたのを我慢してただろ?聞こえてたんだぞ」
聖夜君のその一言に、私は一気に凍りついた。まっ、まさか、私のお腹の音が聞こえてたなんて・・・・。外の音が結構うるさかったから、聞こえてないと思ったのに・・・・。
「説明しておくと、僕は、昔スパイをやってたんだ。と言うことは、常に意識を耳や目、鼻などの五感に向けている。そうすると、それが段々日常化して来て、普段から、耳や目、鼻などが一般の人間よりも利くようになってるんだ。だから、結構な雑音の中でも、お前の腹の音は聞こえると思う」
そんな恐ろしい言葉に、私はよろよろと電柱に倒れ掛かる。
確かに、言われてる意味はわかる。何となく想像も出来る。でも、まさかここまでだとは思ってなかった・・・・。車とかが通って結構うるさい通りが近くにあるにも関わらず、私のお腹の音を聞き取るなんて・・・・。
「とりあえずそう言うことだ。だから、好きなだけ食っていい。その変わり、あまり目立つようなことはするなよ?」
「うっ、うん!」
私は、こればっかりは仕方ないなと思って、お腹が空いていたことを認めてしまった。恥ずかしいけど、音がずっと聞こえてたって言うなら、仕方ないもん。
「それじゃあ、ファミレスとやらの中に入るぞ」
「うっ、うん」
聖夜君の言葉に小さくうなずくと、私は、出来るだけ身を潜めるような形で聖夜君の後ろを歩いた。