段々心を開いて来たようです
「どうだ、なんの変わりもないか?」
そう後ろから聞かれて、私は大きくうなずこうとしたけど、慌てて振り返る。だって、しゃべり方はそっくりだけど、声が聖夜君じゃないんだもん。
「誰ですか!」
自分の中での一番怖い声を作って聞く。振り返った先には、白衣を着た金髪の知らない男の人が立っていて、私は思わず息を飲む。迫力が凄いんだ。これはまさに、聖夜君並・・・・。
「ああ、そうか。説明してなかったな。僕だ、僕。葉月聖夜」
その男の人の言葉を聞いて、私は衝撃を受ける。まさに、電流が体中を駆け巡ったって表現が正しいと思える。普通なら信じられないと思う。「うっそだぁ~」って言うか、むしろ、「なんでやねん!」ってツッコんでもいいところだとおもう。
・・・でも、だ。私の目の前に立っている男の人の言ってることが、嘘に思えないんだ。髪の毛の色や目の色。それから、白衣の着方や服の色とか、全部、聖夜君が出かける前のものとそっくりだったんだ。それに何より、雰囲気が一番そう思わせる。
「・・・・ほんと?」
「嘘だと思うだろうが、本当だ。まず、僕じゃなかったら、この家・・・・そして、地下に下りてくることは出来ないからな。それで、どんな調子だ?」
「はっ、はい!三十分間ちゃんと見張りを続けてましたけど、全然変わりはありません!」
「そうか・・・・。疲れたか?」
「え?」
「いや、もしお前が疲れたと言うなら、一度ここを出て気分転換しようと思ってな」
「えっ、えっと・・・・」
正直言うと、かなり疲れた。聖夜君に言われることに全て意識を集中して、根気を詰めてやった。だから、少しは休みたい気持ちがあった。
「・・・・本音を言ってもいい?」
「ああ。遠慮することはない」
「そっ、それじゃあ、ちょっと疲れちゃったかも・・・・」
「そうか。じゃあ、早速気分転換に出かけよう」
「うっ、うん・・・・。このままでいいかな?」
「誰も気にしないだろ」
聖夜君のそんなさりげない一言が心に刺さるけど、聖夜君と二人きりでお出かけ出来るんだって思ったら、その言葉は直ぐに心から抜けた。私、単純なの!お姉ちゃんによく言われるぐらいね!
「ねぇ聖夜君、どうして・・・・大きくなったの?」
「薬を飲んだ」
「えっ!?どう言うこと??」
「僕が開発した薬品を飲んだ。思考思想はそのまま、体だけが成長出来る薬。逆のを、さっきお前の姉ちゃん達に渡して来た。それから、惚れ薬も」
「えっ!?それ・・・・あるの??」
「具体的には、相手の動作が気になって、尚且つ心拍数が上がる。だから、恋をしていると錯覚する薬だ」
「そっ、それじゃあ、薬の効力が切れたら・・・・」
「それは、薬品の使い手が頑張るところだろう。僕は、手助けはするが、あくまで『手助け』だ。結果を作るのは僕じゃない」
「そっ、そうなんだ・・・・」
私は、出来るだけ興奮しないようにそう言うけれど、内心ではとても心が荒ぶっていた。と言うのは、聖夜君がそんなに凄い薬を開発出来ることもそうだけど、今の私には、それよりも大事なことがあった。それは・・・・。
「ほっ、惚れ薬ってさ・・・・」
「なんだ?」
「・・・・ううん、なんでもない」
流石に言えなくて、私はため息をつく。私としても、惚れ薬は欲しいところだ。でも、本人から惚れ薬をもらうことなんて、絶対に出来ない。
だって、聖夜君に、私の気持ちがバレちゃってるから、絶対何に使うのかわかっちゃうし・・・・。
「どっ、どこに行くの?」
「お前の姉ちゃん達の様子見。薬品の買出し等。お腹は空いてないか?そろそろ昼の時間だと思うけど・・・・」
「うっ、ううん!」
本当は、朝ご飯を抜いて来ちゃったから、とっくにぺこぺこなんだけど、それを素直に言えるほどずうずうしくはない。・・・・お腹の鳴ってる音が聖夜君に聞こえちゃわない限りは、多分大丈夫だろう。
聖夜君の後ろを歩いて、裏口から外に出る。地下室の空気はこもっていたせいか、外の空気がとても気持ちいいもののように思えた。
「聖夜君さ、いつも外に出る時は、そうやって体を大きくしてるの?」
「いや、今までは、女装やらなんやらして姿を隠して来た。でも、今は、お前が一緒にいるだろ?だから、念には念を入れる意味を込めて、体を成長させた。これで顔も隠して行けば完璧だろう」
「・・・・うん、そうだね。ごめんね、気を遣わせちゃって・・・・」
私はうつむきながら呟く。転校しないでくれるのは嬉しい。でも、迷惑をかけてるみたいだ。私が転校しないでって言ったことで、迷惑が・・・・。
そう思ってうつむいていた時、急に頭に何かを被せられて驚くけれど、慌てて手に取ってみる。それは金髪の鬘で、更にびっくりする。
「これ・・・・」
「それをしっかり被って、この帽子を被れ。後、このサングラスもな。こうしてれば、フランスかどこかの国の親子だと思うだろう。それに、話しかけられた時も、手で話せないってジェスチャーすればいいし、便利だ」
「そっ、そっか・・・・」
「・・・・僕が決めたことなんだ。ここに残るって。お前は、僕がそう決める為の手助けをしてくれただけに過ぎない。だから、気にしないでいい。僕が気を遣うのはお前だからで、他の奴ならここまではしない」
「・・・・」
「・・・・以上」
聖夜君はそれだけ言うと、ボーッとしている私を置いて歩いて行ってしまった。
それに私は気づいて、慌てて帽子と鬘を被ると、サングラスをかけて聖夜君のところまで走って行った。