休憩タイム ドッジボール大会開催!
俺がいない間に、随分なことを言われたことはわかっている。
それは誤解だ。それだけは言っておこう。
さて、今は何をしているかと言うと、ドッジボールをしている。
なぜドッジボールをしているのかと言うと・・・・。
「突然ですが、これからドッジボール大会をします。相手は桜道中学校の三年生です。
場所は、ここの校庭では狭いので、向こうの校庭で行うことにします。
では、他のクラスはもう行っているので、行きましょう」
と言う担任からの言われで、納得もしないまま桜道中学に行かされる事になった。
急にドッジボールと言われても、あまりわからない。
と言うか、そもそもドッジボール事態を知らないんだ。どうやってやればいいのか。
「ねぇ伊織君、ドッジボールって毎回やるんだって。
うちの高校の一年生と、向こうの三年生が。
だから、一種の行事みたいなものになってるらしくて、なんでも、
うちの学校の校長先生と向こうの学校の校長先生が兄弟で仲が悪いんだって。
だから、毎年どっちの生徒が強いかってやるらしいよ」
「ああ、そうなのか・・・・」
秋だから、決して熱いはずではないのに、
ベタベタくっついて来る奴がいるから、とても熱い。
俺が学校を休んだ期間はそんなにないはずだ。
その間の記憶はぶっ飛んでいるが、桜木に助けられて、
無事、見知らぬところから出て来ることが出来た。
学校に登校したら多くの奴らが近づいて来たが、すぐにひいて行った。
なのに、この女だけは金魚のフンも顔負けなくらい、しつこくくっついて来る。
「校長先生の問題を生徒にさせるのはどうかと思うんだけど、どうかな?」
「さあな」
女と目を合わせないように目の前の信号を見る。
少しでも目を合わせたたら、どんなことになるかぐらい簡単にわかる。
信号は赤のまま、中々青に変わらない。苛立ちを感じる程赤のままだ。
やっと青に変わり、信号を渡る。
その時、後ろから視線を感じた。
ふと後ろを振り返ると、見知らぬ女がこちらをじっと見ていた。
大して変な気は感じないが、いい気分な訳がない。
すると、こちらの考えがわかったかのように、女がやっと見るのをやめた。
それには、ほっとため息が出る。
人に見られることがどれだけ嫌か、誰だってわかるはずだ。しかも、知らない奴に。
「どうしたの?」
ふと、今度は知っている女の視線を感じて、悪寒が走る。
俺にとってこいつは恐怖なのかもしれない。
普通の人間の女を恐怖と思う妖怪は変だが、その言葉が一番適している。
「・・・・」
無言で女の横をすり抜ける。
そして、いつもなら進んで列の後ろの方に行くが、
今は、出来るだけ前に行きたかった。恐怖を追い払うように。
ズンズンと前に行き、やっと心が落ち着いたところで、前の奴の後につく。
ドッジボールのドッジが避けると言う意味なのは知っているが、
ルールなんかは全く知らない。
ドッジボールとはどう言うものなのかと考えていると、
見覚えのある学校に着いた。
文化祭の時に、思い切り面倒なことに付き合わされたことのある学校だ。
今でもあの時のことを鮮明に思い出し、思い返せば腹立たしいことばかりだった。
しかし、今はドッジボールをやりに来たのだ。そんなことを考えても仕方がない。
列に続いて校門を通り校庭に入る。
そこには、すでに、ここの学校の三年生が全員と、
俺の学校の一年、二クラスが集まっていた。
校庭には、ど真ん中に大きな線が引いてあるだけで、
それ以外は何にも書かれていない。縦の線はあるが、横の線はなしと言うことか。
「それじゃあ、上を脱いで、ブラウスの状態になって下さい。
上着を着てはやりにくいと思うので」
担任に言われて渋々上着を脱ぎ、そこら辺において置く。
校舎の方から視線を感じる。
今は授業中だと言うのに、
一、二年生が各教室の窓際に集まって校庭を見下ろしていた。
それから、ここの学校の教師に集められ、ドッジボールのルールを知った。
簡単なルールで、ボールを避けるか、当てるかをしてればいいだけの話だ。
俺が説明に納得していると、どうやって来たのか、凛と桜木が隣にいた。
「ドッジボールだよ。何だかわくわくするなぁ」
「お前等、どうやってこっちに来たんだよ?三年はあっちだろ?」
「ああ。一年生の偵察に行って来いって言われてるから大丈夫。バレても」
「本当か?」
凛に言われると、何だか嘘らしく聞こえる。
そもそも、話自体が嘘らしい。信じろと言う方が無理があると思う。
「はい、本当です。でも、こちらは作戦を立てないみたいですね。
こっちは、しつこいくらい立ててるんですけど・・・・」
「こんなものに作戦なんかいらないはずだ。
避けるか当てるかのどちらかの動きしかしないんだ」
「はい・・・・何だかよく分からないんですけどね」
「亜修羅、絶対僕達が勝つからね。今年の三年生は強敵ばっかりだよ」
「ああ、そうかー。凄いなー」
棒読みで驚いてみせる。
これ以上凛と話していても無駄だと思い、担任の言葉に耳を傾けた。
「今年の三年生は強敵だぞ。
みんな、昼休みにドッジボールをして特訓していたらしい。特に注目なのが五人いる。
この、五人の柱を崩せば後は何とかなるだろう。
まず一人目は、投げは弱いが避けが中の上くらいの高宮。
投げは強いが避けが中の下くらいの郁末。投げも避けも中の上くらいの浅塚。
今言った三名は、まだマシな奴らだ。
でも、残りの二名は、きっと普通の奴らじゃ当てることは不可能だ」
担任は、そう言って苦虫を噛み潰したような顔をする。
俺は、そこでピンと来た。これで、凛の言っていた言葉がわかる。
「まぁ、取りあえず名前を言うぞ。
投げも上くらいはあるけど避けは凄すぎる桜木。最後の一人は・・・・」
担任は言葉を言う気さえ失せたような顔をする。
そして、偶々こちらを見てギョッとしたような顔になった。
当たり前だ、恐ろしい奴らが二人もこっちにいるからな。
凛は、しばらくブツブツと言っていたけれど、
担任の持っていたファイルをひったくると、自らの自己紹介を始めた。
バカだ、あいつ・・・・。
「先生が言った最後の一人は、僕、丘本宗介。
校長先生から『期待の星』って呼ばれてる。でも、そんなに強くないから安心して。
それに、こっちには強力な助っ人がいるしね・・・・」
凛がわざとらしくこちらに目を向ける。
一斉にみんなの目がこちらの方を向き、なぜか納得するような表情を作る。
「伊織修。僕達のところでも、要注意人物と見なされてる人だからね」
ご丁寧に、俺の解説までし終えた凛は、満足げに帰って行った。
なぜ、俺の身体能力をあいつらは知っているんだ?と言う疑問があった。
しかし、それもすぐに解決。
きっと、凛が言ったのだろう。あいつ、人に迷惑かけることしかしないな。
「とっ、とりあえずそう言うことだ」
担任は動揺しながらも話を締めくくり、口を閉じた。
それと同時期に、向こう側も話が終わったようで、こちらの方を向く。
「両者の作戦会議が終わったようなので、
各校長先生から応援のメッセージを頂きます」
向こう側の教師が勝手に言うと、いつ来たのかわからない校長が二人立っていた。
どちらとも、どことなく似ている。兄弟だから当たり前か。
校長は、我が校が必ず勝つと相手の学校に言いふらしただけだった。
応援メッセージも何もない。ただ、喧嘩を売っただけだ。
バカらしい。何でこんなバカな戦いに巻き込まれなければならない・・・・。
呆れながらも、仕方なしにコートの外側に立つ。
チームは学年で全部混ぜた後、三等分すると言うもので、
違うクラスの奴も同じチームになるかもしれないと言うことだった。
三クラスあるうち、どちらが多く勝てたかによって勝負が決まるらしい。
そして、今から始まるのは一回戦目。
俺は三回戦目に出ることになったから、ぼんやりとドッジボールを観戦することにした。
コートの中では、既に一回戦に出場するチームがスタンバイしており、
教師の笛の音と共に、学年の代表がジャンプボールをし、ゲームが開始した。
すると、また凛と桜木が来た。
こいつら(と言うか、主に凛だな)は、どうして俺にそんなにくっついて来るんだ?
仮にも敵同士なのに、そこまでくっついていたいのか。
「なんの用だ?」
「何回戦で出る事になったの?」
答えるのももどかしく、指で三の文字を作る。
それを見てガッツポーズをする凛に、俺は、逆に肩を落とした。
こいつと戦うなんて・・・・。一番めんどくさい奴を相手にしたな。
まだ、あのしつこい女の方がマシに見える。
それから、グチグチと色々なことを言われながらも、
それを上手く受け流し、ドッジボールを観戦する。
大体のことはわかった。これならいい線は行くだろう。
しかし、弱過ぎる。なぜ、ここまで弱いのか不思議なくらいだ。
やっと二回戦が終わり、三回戦が始まろうとしている。
今のところ、一勝一敗。俺等の勝負で勝ち負けが決まる訳だ。
あまり期待されても困るな。けれど、やるからには勝つしかないか・・・・。