ぐらいじゃありません。ほとんどの確率でバレないと思います。
「・・・・そう言えばあいつはどこに行ったのかな?」
「そうだね、二人揃っていなくなっちゃった・・・・」
「・・・・ねぇ篠崎さん?」
「何?」
「・・・・もし、この世の中に惚れ薬があるとします。そうしたら、好きな人に飲ませますか?」
突然の質問に、私は困った。内心、そう言うものがあるなら、頼ってしまいたい。後一歩を踏み出せない私は、そんなズルい手を使ってでしかあいつを・・・・。
そこまで考えて、さっき言われたことを思い出す。・・・・好きな奴がいる。そう言ってた。それって、一体誰なんだろう・・・・。同じクラスの人なのかな。
「・・・・篠崎さん、聞いてる?」
「うっ、うん。ごめん。ちょっと考え事してて・・・・」
「ごめんね、突然こんな質問しちゃってさ。もしも・・・・だからさ、現実にそんな薬あるはずないし」
「うん・・・・そう言えば、栞奈さんは伊織君が好きなんだったね。あの人もかっこいいから大変なんじゃない?」
「・・・・うん。一生懸命振り向いてもらおうと頑張ってるんだけどね、私の方を向いてくれないんだ。
・・・・って言っても、今までの人生において好きなのかなって私が思った人は一人しかいなかったんだけどさ」
栞奈さんの言葉に自分も何か似たようなものを感じて、うなずきながら聞く。私もそうなんだ。幼馴染で、かなり長い間一緒にいるはずなのに、絶対に交われない。いつもいつも平行線を辿ってて・・・・。
「私も、小さい頃は素直になれたんだけど・・・・最近では、全然ダメなの。強がっちゃうって言うか、強い口調になっちゃうって言うから。本当は物凄く弱くて不安なのに・・・・。その裏返しとして強い口調が出ちゃうんだろうね・・・・」
「確かに、そうなっちゃう時って、たまにあるよね・・・・。私もたまにあるんだ」
「そうなの?」
「うん、なんでかわからないけどね・・・・」
栞奈さんの言葉に私はうなずいた。そもそも、あいつの本心がわからない。昔から何を考えているのかわかりずらい奴だった。何だかフワフワしてて、はっきりしない。そこがイラ立っちゃう理由なんだけど・・・・。
それに、昔からよく嘘をつく奴だった。この前だって、裸の王様みたいなことを言い出すし、下らないことが大好きで、すんごく子供っぽい。同年代の私としゃべってるより、年下の玲菜と話してる方が楽しそうなんだもん。
「・・・・あいつ、もしかして」
「え?」
「・・・・」
自分で思ったことをかき消そうとする。でも、その線も考えられるかもしれない。
・・・・もしそうなら、絶対に無理じゃない。体型は、努力次第で何とか出来るけど、性別とか年齢までは変えられないんだから・・・・。
「二人に話がある」
突然話しかけられて、私達は慌てて前を向いた。そこには、白衣を着た金髪の男の人が立っていた。その人の顔を見た時、私は、誰かに雰囲気が似てるなって思った。でも、中々思い出せなくて、とりあえずは先に、この人から話を聞いておこうと思う。
「なんですか?」
「お前達が話していた薬を持っている。だから、話しかけてみた」
「・・・・どう言うことですか?」
「惚れ薬。それから、小さい子供になれる薬・・・・。正しく言えば、思考思想は今のまま変わらないで、体だけ若返る薬だ」
「・・・・そんな嘘、信じると思います?」
「嘘だと思うならそれでいい。一応薬は渡しておくから、自己責任で呑んで見てくれ」
その人はそれだけ言うと、さっさと公園の中から姿を消してしまった。残された私達は、渡された試験管をジッと見つめる。右側は透き通った水色で、もう片方は、透き通ったピンク色。何とかサワーの色を想像してくれればわかりやすいかもしれない。
「・・・・まさか、本当に存在するなんてね・・・・」
「嘘に決まってるじゃない」
「・・・・でも、興味があるんでしょ?」
栞奈さんに言われて、私は素直にうなずいた。どっちが惚れ薬だとかは言われなかったけど、多分、色からして、ピンク色が惚れ薬だと思う。
「・・・・飲み薬だよね?」
「うん、そうだね」
「・・・・飲んでみる?」
その問いには素直にうなずけない。塗り薬だって嫌なのに、飲むとなるとさすがに・・・・。身の危険感じると思う。
「よしっ、私、呑んでみよっと!」
「えっ!?」
栞奈さんはそう言ったかと思ったら、水色の薬品が入っている方の試験管の蓋を開けて、本当に呑んでしまった。私はあまりの速さに止めることが出来なかったけれど、慌てて栞奈さんに近寄る。
「だっ、大丈夫!?」
「うん、全然大丈夫。美味しかったし!」
「そっ、そっか・・・・よかった」
私がそう安心した時、栞奈さんの体がドンドン縮んで行った。なんて説明したらいいのかわからない。まさか、現実にこんなことが起こるなんて!って言うパニックで、言葉が出て来ない。
でも、とりあえず、縮んだんだ。銅の長さや足の長さも。そして、顔つきも子供っぽくなって言って・・・・。それになにより、一番驚いたのは、薬品と直接関係のない洋服まで栞奈さんに合わせて小さくなっているからびっくりだ。
最終的には四、五歳ぐらいの段階まで縮んでしまって、今現在目の前にいる人が十六歳だとは誰も思わないと思う。
「うわっ、ほんとに縮んだ!」
「すっ、凄い・・・・」
「ほらほら、篠崎さんも呑んで!」
「えっ!??」
「小さい頃の体に戻れば、色々便利でしょ!」
「・・・・そっ、そうなのかな?」
「本人がいる前では、誰だって本音は言えないだろうからね。だから、ほら!縮んだ格好で有澤君の前に行って、色々本心を聞いちゃえばいいんじゃない?」
「・・・・うん」
栞奈さんの言葉に私はなぜかうなずいてしまった。栞奈さんに言われて、勇気が出たのかもしれない・・・・けど、もう少し考えて行動した方がいいと思う。
・・・・そう考えるのは、頭の片隅。今の私は感情に体を支配されてしまったみたいで、頭がそんなことを考えているにも関わらず、水色の薬品の入った試験管の蓋を開けると、一気に飲み干した。
舌の上にあまり薬品がいなかったせいか、あんまり味の把握は出来なかったけど、栞奈さんの言う通り、ほんのり甘くて美味しかった。
そう思った途端、目の前が急に揺れて、大きな地震じゃないかとしゃがみこむけれど、それは私が揺れてるみたいで、栞奈さんが支えてくれた。
生まれてこの方、体を幼少期の頃に戻すと言う体験をするとは思ってなかったから、とても驚いた。って言うか、ほとんどの人は想像しないよね、そんなこと・・・・。
目を瞑りながらしゃがんでいると、やがて揺れは収まり、一人で立ち上がれるようになる。その時の視線は低い。さっきまで小さく見えた木がとても大きく聳え立って見えて、恐怖を感じるほどだ。
「それじゃあ篠崎さん、このかっこうのまま二人のところに行きましょう!」
「・・・・本気で?」
「そうしなかったら、なんの為に縮んだの?」
「・・・・うん」
「大丈夫!私が、『恋ちゃんと離れたくない~!』って駄々こねるから。そしたら、四人で行動出来るでしょ?」
「うっ、うん・・・・」
私はイマイチ心配だった。体が縮んだぐらいで誤魔化せるのかって。直ぐにバレちゃうんじゃないかって。でも、せっかく体を縮めたんだから試さないのはもったいないと思って、栞奈さんの言葉に従うことにした。