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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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珍しい一面です

「じゃあ、まずは、あいうえおから。ダイヤルキーに、「あ」って書いてあるボタンがあるでしょ?」


「待て。ダイヤルキーってなんだ?」


俺が聞くと、水斗は驚いたような顔をした後、短くため息をついた。それを見て、俺は不快な気持ちになるが、もしかして、俺がケータイのことについて知らなさ過ぎるのかと思って、首をかしげる。


そんなことはないと思うのだが、俺は、昔から、機械音痴と言われることが多々あった。と言うことは、俺が普通ではなく、他の奴等が普通なのか・・・・?


「それじゃあ、まずは、キーのそれぞれの説明からね。ダイヤルキーって言うのは、この、数字の書かれた九つのキーのことで、ここを押すと、手動で電話をかけられるんだ。

で、ダイヤルキーの上に書いてある電話のマーク。これを押すと、電話をかける画面になる。まぁ、これを押さなくても、ダイヤルキーを押せばいいから、あまり気にしなくていいよ。それから、そのボタンの一個先の電話マーク。これは、電話を切る際に使用するボタンで・・・・」


「それぐらいは知ってる!」

「え?だって、ダイヤルキーを知らなかったから、僕はてっきり・・・・」


「電話ぐらいは出来る!電話のことはマスターしたんだ。メールだ。メール」

「マスターって、テレビ電話とかも?」


そう水斗に聞かれ、俺は黙り込む。さっきは、つい、「電話のことはマスターした」と言ったが、俺は、そのテレビ電話と言う代物のことを知らない。テレビは知ってる。電話も知ってる。でも、テレビと電話がくっついた、テレビ電話などと言う機能を、俺は知らない。


「まぁ、電話のことはマスターしたって言ってるし、テレビ電話とかも知ってるよね?」

「・・・・」


俺は、うなずくことが出来ない。全く知らないからだ。しかし、ここで素直に首を振ることも出来ない。だから俺は、水斗の問いに対して、何のリアクションを示すことも出来なかった。


「まぁ、いいや。メールのことだよね。じゃあ、話を戻すけど、ダイヤルキーの、1って書いてあるところに、小さく「あ」って書いてあるでしょ?それを押してみて」


そう水斗に言われ、俺は、素直に1のボタンを押した。すると、数字の1が出て来て、ため息をつく。


そうなのだ。俺が一人で練習をしていた時、いつも起こった現象だ。説明書には、そのまま1のボタンを押せば、「あ」と表示されると記されてあるのに、俺が何回やっても、出て来る文字は1。それを一時間近く繰り返して、俺は怒ったのだ。


「1しか出ないぞ」

「文字切り替えは?」

「・・・・なんだ、それ?」

「貸して」


水斗はそう言いながら俺からケータイを取ると、勝手にボタンを押し、俺が複雑な表情で見ていると、直ぐに返して来た。


「それで打ってみて」


言われたとおりに1のボタンを押してみる。すると、不思議なことに、今まで何度挑戦しても現れなかった「あ」と言う文字が現れたのだ!


俺は、この出来事に驚愕した。それと同時にとても嬉しかった。あまりにも嬉しくて、ついベンチから立ち上がってしまった。


しかし、それを水斗が不思議そうな目で見ている為、何だか恥ずかしくなって、慌てて座りなおす。


「・・・・相当嬉しいみたいだね?」

「うるさい!そんなことはいいから、早く教えろ!」

「うん。じゃあ、今度は、1のボタンを二回押してみて」


水斗の言葉にうなずくと、1のボタンを二回押した。すると、今まで現れたこともない、「い」の文字が出て来て、思わずため息をつく。と言っても、これは、悪いため息じゃない。いい方のため息だ。


「『い』が出たぞ!」

「・・・・ああっ、うん」


水斗が戸惑ったようにうなずくのを見て、俺は、慌てていつものテンションと顔に戻る。今の俺は、嬉し過ぎて、平静さを失っていたのだ。そのせいか、何だか子供の頃のような表情をしていたと思う。


「・・・・嬉しい?」

「・・・・別に」

「ツンデレ君だね」


「うるさい!ほっとけ!」

「ほっといていいの?」

「・・・・」


俺が黙り込むと、水斗はやっぱり面白そうに笑った。くそっ、こいつ、俺のことをもてあそんで楽しんでいるみたいだな・・・・。


そう思ったら、嬉しさや楽しさの中から怒りの感情が現れて来たけれど、何とかそれを押し込めて、更に教えてもらう。


「『う』は、1を三回。『え』は、1を四回。そんな風にやっていけば、大体の文字は打てるよ」


俺は、まさかの発言に、思わず耳を疑った。


なぜって、そんなに簡単でいいのか?って思ったのだ。今まで、何時間も練習して来て一文字も打てなかったのに、そんなに単調なパターンで文字を打ち込むことが出来るなんて、信じたくなかったのだ。


「大体はそんな感じで打てると思うよ?って・・・・大丈夫?何だか、凄い絶望してるけど」

「・・・・いや、大丈夫だ。ありがとう」


俺は、なんとかそれだけ言うと、放心状態のまま水斗に背を向け、メールを送って来た人物に返信する文面を考える。


一番最初に浮かんだのは、「誰に、俺のメールアドレスを教えてもらった?」と言うことだが、俺は、濁点の打ち方を教わっていない為、その文面はボツとなった。


次に浮かんだのは、「挨拶もなしにメールを送って来るなんて・・・・」その先の言葉が思いつかない。なぜなら、俺の口調では、必ず「だ」や「が」とか、濁点を使うことになる。しかし俺は、濁点を打つ方法を教わっていないから、濁点は使えない。・・・・ってことは、口調を変える必要があるのか?


そう考えて色々試行錯誤した結果、「挨拶もなしにメールを送ってくるなんて、おかしいよね?」と言うことになった。


我ながら、完璧な文面だと思う。口調は完璧に崩壊しているが、俺の伝えたいことを濁点ナシに伝えられる文は、後これしか残っていなかったのだ。


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