緊張の瞬間。後の驚愕
「で、友美、これからどうするの?」
「え?どうするのって・・・・どうするの?」
私がそう聞くと、美香達はコソコソと話し出した。私は、どうして三人が話し合いを始めたのかわからないけど、何かを求められていたのかなと思って、首をかしげる。
「あの・・・・」
私がそう言いかけた時、私の持っているケータイを里奈が奪った。そうされた時、私は、三人が話し合っていたことの内容がわかった気がして、慌ててケータイを取り返そうとする。
「ダメ!友美じゃメールも送れなさそうだから、私が送ってあげる!」
「やめて!わかった!わかった!今、伊織君にちゃんとメールを送るから!」
「ほんとに~?」
「ほんとのほんとだって!」
「おお、それならいいね。じゃあ、はい。ちゃんと見てるからね」
「・・・・」
私は、笑顔でケータイを差し出す三人にバレないようにため息をつくと、重い気持ちでケータイを受け取る。
三人の言う通りだから、ありがた迷惑とか言えない。それに、「私の好きにさせてよ!」とも言えない。
だって、私は一人では絶対に勇気が出ない。三人に、こうやって強引にやってもらわないと、勇気が出ないんだ。だから私は、何も言えないんだ・・・・。
「・・・・ほら、どうしたの?」
「えっ、え??」
「とぼけたってダメだからね!」
「・・・・でも、どうやって送ればいいのかな?内容は?」
「うーん、そう言われてもねぇ?」
「え~」
私は、そう声を漏らしながらも、さっき登録したばかりの伊織君のメールアドレスを選択して、メールを打てる画面にする。
でも、その先の作業が出来ない。どんな言葉を打てばいいのかとか、そもそも、私がメールを送ったって気づいてくれるのかとか、そう言うことが心配なんだ。
「・・・・そもそも、私って気づいてくれるかな?」
「あっ、そう言えばそうだよね。じゃあさ、まずは自己紹介からしてみれば?」
「そっ、そっか!わかった!」
私は、やっと方向性が決まってホッとする。まずは、どう言う風に書くのかとかを決めないと、私も何も考えられないから・・・・。
「え~っと・・・・」
「・・・・さっきから、全然手が動いてないけど?」
「そっ、そう?」
「もう十分経ってるよ?」
「え~・・・・だって・・・・。どうしたらいいのかわからないんだもん」
「もう、貸して!私が打ってあげる!」
「ああっ、ダメ!」
私は、ケータイを取られないように必死に守るけれど、三人相手に敗れ、今では、私の手の中にケータイはない。変わりに握られているのは、ケータイの形に似た筆箱。
「あれ?文面打ってあるじゃん。何々?『私は、石村友です』って、友美、美しいって字が抜けてるよ?」
「え?ほんと?」
「うん。このままじゃ、違う人って認識されちゃう・・・・」
美香がそう言った直後、「あっ!?」と言う優奈の悲鳴に似たような声が聞こえて、私は自然と血の気が引いていくのがわかった。まさか・・・・。
「もしかして・・・・?」
「・・・・ごめん、友美!」
「・・・・」
「とっ、友美・・・・」
「ううん、大丈夫。むしろ、別人だって思ってもらった方がよかったから・・・・」
「え?」
「めっ、面と向かって話せる気がしないし。だから、いいよ!」
「・・・・」
私はそう笑顔で言うけど、三人は申し訳なさそうな顔でうなだれる。
さっき言葉にしたことは本心だった。最初は、自分と違う名前の人だと思われることに対して嫌な気持ちになっていたけれど、よく考えたら、そっちの方が、私としても気が楽になれると言うことに気づいたんだ。だから、全くもって怒ってないし、落ち込んでもいなかった。
逆に、三人がそんなに落ち込んじゃったりしてる方が、私としては心が痛いよ・・・・。
「私はさ、全然怒ってないし、それに、落ち込んでもいないから!むしろみんながそんな風に落ち込んでる方が、私としては心が痛いよ。だからさ、ほら、元気だして!」
「・・・・許してくれる?」
「うん、大丈夫!」
私がそう笑顔で言うと、ようやく元気を取り戻したみたいで、三人に笑顔が戻った。私はそれを見てホッとした・・・・その時だった。
床に置かれていたケータイが急に鳴り出して、私達は驚くけれど、急いでケータイを開く。そこには、伊織君の名前が表示されていて、私達は、急いで正座をして座り、みんなで画面を見つめる。
「・・・・みんなは、そんなに緊張しなくてもよかったんじゃない?」
「確かにね。でもさ、何だか緊張しちゃって・・・・」
「わっ、私も・・・・」
「ほら、友美!メールを開いて!」
「うっ、うん・・・・」
私は、緊張で震える親指を何とか動かしてメールを開く。そこには・・・・。
私達は、表示されたメールの内容に驚いて、一斉に首をかしげた。これは一体・・・・。
「これ、どう言う意味だろう?」
「さっ、さぁ・・・・?」
私達は、目の前に表示された言葉の意味がわからず、ただただ、只管首を捻っていた。