鈍感と言うより、子供なんでしょうか?
「・・・・全く、どうしてこんなことに・・・・」
ぶつぶつ文句を言いながら公園の周りをうろうろ歩く。ああ言って公園の外に出たはいいものの、それからどうしようかなどとは考えていなかった。
あの時は、ただ只管居心地の悪いあの場所から逃げ出したかったのだ。しかし今となっては、全く意味のないことだと気づいた。
俺から栞奈のことを誘ったんだから、勝手にどこかに行くことは出来ない。しかし、公園の周りをうろうろしていてもつまらない。そう思っていた時だった。丁度向かい側からこちらに歩いて来る水斗の姿を見つけて、俺は思わず話しかける。
すると、水斗は嬉しそうな顔をしてこちらに走り寄って来た。
「おおっ、修。どうしてここにいるんだよ?」
「ちょっと色々あってな・・・・。お前こそ、篠崎花恋と何かあったのか?」
俺が聞くと、水斗がため息をついて顔を伏せた。
「それがよぉ、俺も正直、よくわからないんだわ。花恋を見たのか?」
「ああ。公園のところであいつを見かけて、話しかけたところ泣いてるみたいだったから、今、栞奈が話を聞いてるところだ」
「げっ・・・・俺、花恋のこと、泣かしちゃったのか・・・・」
「・・・・その様子だと、しらばっくれてる訳でもなさそうだな」
「当たり前だろ!?俺は、花恋のことを傷つけたくないんだ!だから、いつも気をつけてたけど、気づかないうちに、花恋のことを傷つけてたのかもな・・・・」
そんな水斗の言葉に、俺は大いに共感出来るなと思い、大きく首を縦に振った。俺も、傷つけたくないのに栞奈を傷つけると言うことが多くあるからだ。
「そう言うことは俺もよくある」
「そうなのか?」
「ああ。だから、お前の気持ちはよくわかる」
「そうか!何だかんだ言って、俺と修って、似てるのかもしれないな!」
「・・・・」
「なんで、そこで言葉を切るんだよ!」
「特に意味はない」
「・・・・酷い話だぜ」
「それはいい。花恋とのやりとりを教えてくれ。俺にもわかることがあるかもしれない」
「おう。えっと・・・・確か、花恋の恋を応援したくて・・・・」
水斗はそこまで言った時、まずいと言うような顔をして、慌てて自分の口を塞ぐ。俺は、その行動が変だと思い、聞いてみることにする。
「おい、その行動はなんだ?何か言ってはいけないことでもあるのか?」
「そっ、そんなことねぇって!」
「・・・・怪しいな」
「俺を探るな!まぁ、あれだ!怪盗エンジェルが俺だとバレてしまう危機に陥って、だから、言い訳を使うことにしたんだ」
「・・・・言い訳?」
「ああ。エンジェルに会うきっかけ。それを、俺に好きな奴がいて・・・・って言うことを言ったら、急に怒り出してさ」
俺は、水斗のグチャグチャな説明に頭が混乱するけど、脳内である程度を補完して、ようやく話が読めて来た。
「要は、あれか。お前の言葉に花恋が傷ついて走って行ってしまったと」
「そうそう。俺もさ、最初は追いかけようとしたんだけど、そんな時に追いかけていい結果になったためしが一度もないから、追いかけるのをやめたんだ。
で、家に帰ろうとしたんだけどさ、やっぱり花恋のことが心配で、だけど、ここら辺をウロウロして花恋に出くわしたら気まずいし・・・・。
って、色々悩みながらこの公園の周辺をウロウロしてたら修と出会ったって訳だ。どうだ?わかったか?」
そう水斗はキラキラした目で聞いてくるけれど、俺は、無言で首を振った。
内心ではわからないだろうなと思っていた。ただ、自分も似たようなことがあるから、珍しく、こいつの助けになれたらいいなと思って話を聞いてみたのだ。しかし、やっぱりわからなかった。女心って言うのは難し過ぎる。
「そっか・・・・。やっぱり、修もわからないかぁ~」
「ああ。悪いな、力になれなくて」
「いやいや、いいんだ。俺の力になろうとしてくれただけでも嬉しいしいから!」
「なんでだよ?」
「最初はさ、聖夜とタッグを組んで、俺のことを散々馬鹿にしてただろ?その時に比べれば大きな成長だなと思って、助けになろうとしてくれただけでも凄く嬉しいんだ」
「まぁ、俺も、お前と似たようなことはよくあるしな」
「だよなぁ!女の子の心って、すんごく難しいよな!」
「それは言える。凛は、俺が鈍感だからわからないんだとか言うが、それとこれとは話が別だ」
「竜さんだったらわかるだろうけど、俺達ぶは人の心が読めないんだからな!無理だよな!」
「ああ。そうだ。珍しく意見が合うな」
「俺もそう思った!」
水斗はそう言ってからうんうんと大きく首を振った。それから、俺にこんな不思議なことを聞いて来た。
「修って、頭いいよな?」
「突然どうしたんだよ?」
「いや・・・・。あっ、じゃあさ、栞奈ちゃんのことはどう思ってるんだ?」
「・・・・」
あまりにも滅茶苦茶な質問に、俺は思わず黙り込む。まさか、頭がいいよな?の質問の次に、栞奈のことを聞かれるとは思ってなかった。だから、不意を突かれたのだ。
「どうって・・・・どう言うことだよ?」
「好きなのか?」
「好き?」
「そう。友達としてじゃなくて、そう言う感情じゃない意味での好き」
「・・・・さあな」
俺はそう答えて、水斗から視線を逸らす。別にこれは、言葉を濁す為に言った言葉じゃない。本当にわからないんだ。俺自身が栞奈のことをどう思ってるのか。今まで意識して考えたこともなかった。だから、わからないのかもしれない。
「そう言うお前は、篠崎花恋のことをどう思ってるんだよ?」
カウンターの如く聞いてみる。すると、水斗が困ったような顔をして首をかしげた。
「それが・・・・イマイチよくわからないんだよな。花恋は、幼馴染の俺が言うのもなんだけど、すっごく可愛いと思うし、魅力的だと思うんだ。だけど、好きなのかって聞かれるとなぁ・・・・イマイチよくわかんね」
「・・・・そうか」
俺は肩を竦めて言うと、水斗を手招きして、公園の方へと歩いて行く。
「花恋達のところに行くのか?」
「いや、お前が嫌なら下手なことはしない。ただ、こんなところで話すよりは、公園のベンチで話した方がいいかと思ったんだ」
「そっ、そうだな」
「ああ」
俺はそれだけ言うと、何の目的もないまま公園の中に入った。