やっぱり、鈍感は損をします
「さっき、何話してたの?」
「ん?なんか、あいつのことを聞かれたんだ」
「あいつ?」
「水斗と一緒にいた女。あいつのことをどう思ってるんだ?って聞かれたんだ」
「・・・・どう答えたの?」
そう聞く栞奈の顔が何だか真剣だった為、俺はどう答えようかと迷う。俺は、別に、普通に答えた。しかし、それをそのまま伝えたことで、栞奈を傷つけてしまわないだろうか・・・・。
「まぁ、いいんじゃないかって言った」
「・・・・そうなんだ」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
何とか怒らせたり傷つけたりはしなかったようだが、何だかツンとしてるような気がする。・・・・やぅぱり、不機嫌になったのか?
「不機嫌か?」
「なんでよ」
「何だか、ツンとしてるからな」
「そんなことないよ。確かに、篠崎さん、可愛いもんね」
「・・・・怒ってるだろ?」
「別に~」
「・・・・はぁ」
「べっ、別に怒ってないけど?」
「・・・・ならいいけど」
「いや・・・・ちょっと焼いちゃったところはあるけど、怒ってないからさ、ね?」
「やきもち焼いたのか?」
俺がそう聞いてみると、栞奈はハッとした顔になって真っ赤になるけれど、しぶしぶうなずいた。
「そう言えば、昔から焼き易かったからな」
「そっ、それは・・・・」
「嫉妬し易いのはあんまりいいとは言えないから、気をつけた方がいいぞ」
俺がそう言うと、栞奈は明らかに怒って、ベンチから立ち上がった。
「別に、そんな言い方ないじゃない!」
「・・・・そっ、そんなに怒るなよ」
「だって、そんな言い方しなくてもいいじゃない」
「・・・・いや」
そう言いながら栞奈から視線を逸らした時、公園の入り口の方からこちらに歩いて来る人物を見かけ、俺は思わず声をかける。その人物とは、この言い合いの元凶となった人物で、水斗と一緒に行動しているはずの、篠崎花恋だった。
普通なら、声をかけたりはしない。なら、どうして今回は声をかけたのか。それは、そいつが泣いているように見えたから、水斗との間に何かあったのかと思ったのだ。
俺が声をかけると、篠崎花恋はハッとした表情になって、慌てて涙を拭うと、こちらに歩いて来た。
「なっ、何か用?」
「用って言うか、泣いてるのが見えたから、何かあったのかと思って声をかけたんだ」
俺が言うと、花恋はため息をついた。それを見て、栞奈は何かを察知したように立ち上がると、篠崎花恋の手を引いて、俺達の座っていたベンチに座る。
「大丈夫?」
「・・・・うん」
「おい・・・・」
「ちょっと亜修羅は黙ってて!」
栞奈にそう言われて、俺は思わずムッとする。どうして栞奈にそんなことを言われなくちゃいけないのか。しかも、俺の本名を言われた。そこのことについても文句を言いたかったが、今の栞奈は俺の声を聞くつもりはないらしい。
それに、よく考えたら、篠崎花恋も、俺の名前なんかどうでもよくて気にしていないだろうと思って、仕方なく黙り込む。
しばらくの間、栞奈は話しかけないで、篠崎花恋が泣き止むのを待っていたのだが、俺は、その間を何だか複雑な心境で聞いていた。
女の泣き声とは、そう長く聞いていたくないものだ。それなのに、何十分も聞かされて、嫌な気持ちになる。しかし、俺はこの場を移動することも許されないみたいだし、かと言って、声をかけることも許されていない。一種の拷問だと思う。
しばらくすると、篠崎花恋はようやく泣き止んだのだが、その後の会話も、俺にとってはあまりいい話ではなかったのだ。と言うのも、何だか、「男はみんな・・・・」みたいな言い方をされて、色々二人で話しているのだ。
本当は、何度も口を挟みたいことがあった。しかし、その度に栞奈に見視線を向けられ、口を閉ざす。そんな自分がとても小さい奴のように思えて、俺は、自分自身が嫌になって来くる。そしてついに、ベンチから立ち上がった。
「ちょっと出て来る」
「いいけど、ちゃんと戻って来てね?」
「・・・・ああ」
俺は素直にうなずくと、自分の情けなさにため息をつきながら、公園の外に向かって歩き出した。